53話 見習い聖女になりました。
「だが一つ問題がある」
「問題?」
(あったかな?問題。)
クラリッサは首を傾げる。
「格だ。
これから作るであろう軍は、アルシェリオン王国の歴史を覆すものになる、いや。全生命のあり方を変えることになるだろう。」
「は、はあ。」
──なんか話がきな臭くなってきた。
クラリッサは表情は変えず、声音も平坦に保つ。
「伯爵令嬢ではなく、別の呼び名が必要だ。」
「いえ、伯爵令嬢で十分だと思います。これ以上の肩書は不要です。」
(あ、やばいかも。全力で避けないと終わるやつかも……!!絶対に拗れる。絶対に話が変な方向に行くやつだ!!)
クラリッサの危機感知能力が最高級に警鐘を鳴らしていた。
「殿下。ここからは私が。」
「うむ。」
「……」
(もうやめて!!私のライフはゼロよ!!!)
教皇代理エルンスト・グレゴリウスの言葉に、レオナールは即座に強く頷いた。
まるで最初からそうなることが決まっていたかのように。そこに澱みはない。
その滞りがないスムーズな受け渡しに、クラリッサは凍りついた。
──やばい。こいつらグルじゃん!!役割分担がクソスムーズなんだけど!?!?
教皇代理は続ける。
「レベル上げの秘術、そして神の加護とも言える肉体。
王都武術家大会における闇社会との癒着の摘発。
魔族への断罪。
ブラッドオーガの討伐。
クラリッサ嬢が“何者”であれ、もはや常人の枠ではない。」
レオナールもその言葉に強く頷くと、重く言葉を継いだ。
「国としてはクラリッサ嬢を“異端”として処分するよりも、制御し、味方として扱う方が遥かに合理的だからな。
その判断は無論、王である父にも確認済みだ。」
「……落ち着いてください!そんなことはありません。全て大したことではありません。そんなの全部レベル上げれば誰でもできるんで!!!全て余裕なんで!!!!」
クラリッサの声は完全に悲鳴。
そして教皇代理は、ゆっくりと立ち上がった。
年輪を刻んだ指が、胸元の聖印を外し、天へ掲げ、手に持つ杖とともに、まるで神殿法を読み上げるかのような、抑揚のない口調で告げた。
「……クラリッサ・グランディール」
「はい。」
教皇代理は震えを抑えつつ、宣言した。
「魔王討伐のための軍を早急に結成し、魔王領へ向かい、魔王を討伐せよ。“魔王戦線の平定”だ。」
「はい。御意に!!」
「そして貴方を——〈聖女候補〉と正式に認定する。」
「はい……?」
空気が弾けた。
「は?」
クラリッサの声が裏返った。
室内が凍りつく。
クラリッサは立ち上がる。
そして強く頷いた。
「お断りします!!!」
レオナールは静かに、しかし確実に逃げ道を塞ぐ声で告げた。
「ふ……俺を前に本当にそれを言うとはな。
エドワードやアルヴェルトから聞いていた通りだ。だがあきらめろ。逃げられん。これは王命だ。」
クラリッサはひくついた。
──おーい、父上
──しれっと裏切るな!!!
クラリッサが激しく睨みつけると、エドワードは激しく視線を逸らしていた。
──殿下も!!
アルヴェルトもまた、一瞬だけ目を伏せ何も言わなかった。味方だと思ってたのに。
「聖女は無理です!!魔王討伐はやり遂げます!!ですが聖女の名は私にはあまりに荷が重い!!せめて父上である、エドワード伯爵に、何かすごい役職つけるとかにしてください!!」
「クラリッサ・グランディール——貴様は今より、“戦場へ出る責務を負った聖女候補”だ。
それに貴様は、もはや野放しにはできんからな。
戦場に送り出し、国の利益として動かすのがいいだろう。」
レオナールの返答に、クラリッサの視界が真っ白になった。
(……これ……聖女が前線へ行く……クラリッサ偽聖女死亡ルートの……あの……)
死のイベントフラグの音が聞こえた気がした。
「あの……」
「どうした?まだ何かあるのか?」
「クラリッサ子供だから、聖女とかよくわかんない。」
レオナールはいい笑顔で告げた。
「だめだ。あきらめろ。」




