52話 王命を告げる
第一王子レオナールの圧の強い瞳。
称賛であり、確認であり、囲い込みの狙いがある前振り。
次に来るのは、おそらく役割の固定。
肩書き。
責任。
逃げ道のない立場。手段はいくらでも思い浮かぶ。
レオナールが、わずかに前のめりになった。
議会で見せていた冷厳な裁定者の顔ではない。面白いやつを見つけたぞの顔で。
クラリッサの読みが、確信に変わる。
レオナールは、一個人としての興味を隠そうともしない。玉座に座る者の余裕を崩しているのだから。
「お前、議会の最中、非常に面白いことを言っていたよな。まずは軍の陣容だ。どう考えている?」
「魔王を倒す事を前提として考えた場合ですけどいいですか?」
「構わぬ。」
「まず前提です。
1000人の兵士に全員に対して契約魔法でレベル上げに関する情報の口止めをします。
今回の件でアルシェリオン王国にてレベル上げのブレイクスルーが起きると考えられますので、落ち着くまでの数年あるいは10数年は、レベル上げ対象者はその対応が望ましい。
順次情報公開しつつ、国家としてイニチアシブの確保を調整すべきでしょうね。」
「当然だな。」
計画は、現実的すぎるほど現実的だった。
レオナールの問いは、探るようでいて逃がさない。答えること自体が、クラリッサに役割を与える為の問いでもあった。
そして帰ってきた答えに、これは思いつきではない、と全員が察していた。
レオナールは、すでに話を進める気だ。
否定の余地なく、短く頷いている。
一拍置いて、クラリッサは続けた。
「陣容は、100人をひとまとまりとする10隊でいいです。競わせますので。
それと時間ですが、マリアは私と約6年一緒に行動しています。
レベル35までは、それくらいかかると見ていいかと。
1年目でレベル25くらいですかね。それ以降はちょっと大変かもしれません。」
室内に、わずかなざわめきが走っている。6年――短くはないが、致命的に遅いわけでもない。
(ホントはもっと早くできるけど。マリアは半年で10→35だ。戦いに慣れた兵士ならさらに早くできる。
それに実質的に戦闘できるのは、適正や役割の関係から1000人は行かないだろうし。)
確認というより、前提条件の提示。
誰も異を唱えない事をクラリッサは確認する。
「将来的には、ドラゴンを資源として捉える時代が来ると、断言できます。」
「神を殺せると?」
「レベル100とかレベル1000とかの存在なら、どうやっても勝てない。
まさに神と相対したような絶望を、数値としての絶対的な差として見せつけられるでしょうね。」
レオナールは唸った。そして、ふっと口角を上げる。
「なるほどな。弟の婚約者にしておくには惜しいな。我が陣営の末席に加えてもいい。」
「は、はあ。」
──ゼッテー嫌だ。
──ゼッテー働かされるもん。
アルヴェルトが思いの外、必死に割り込んでくる
「兄上。それは……」
「どうだ?クラリッサ。王家に直接つかえ、その才覚を振るってみないか?」
「お戯れを。王家との婚約はそれほど安くはないと存じております。」
「確かに、安売りされては困るな」
「そうでしょう??」
その笑みは、親密さではく、互いが“危険物”であると理解した者同士の笑み。
ふふふと、クラリッサとレオナールは、お互い同じ温度で笑っていた。
国の重鎮達はこぞって思っていた。やだ。この人たち怖い。
一度休憩時間を挟むことになった。
重苦しかった空気が、わずかに緩む。
エドワードは、深く息を吐いていた。
「一時はどうなることかと思ったが、なんとかなりそうだな。クラリッサ。よくやったな。」
「はい父上。余裕でした。」
(余裕って……)
「う、うむ。全く、どこの場面を切り取っても綱渡りだった気もするが。
少し前までは、小さい子供だったのに、こんなに大きくなったのだな。」
「いえ、大胸筋の発達が甘いので、全然小さいです。」
「う、うむ……その……今後の鍛錬も、怠るな。」
「はい!!申し付かりました。父上!!」
エドワードの心中は嵐が吹き荒れていた。
──そうじゃねえよ!!!!心の成長とかの話だよ!!精神とか覚悟とか責任とか!!
──大胸筋はクソどうでもいいんだよ!!
レオナールが、場を切り裂くように言った。
「――まずは、クラリッサ嬢の発言を全面的に採用する」
ざわり、と重鎮たちの空気が揺れる。
「クラリッサ・グランディール!汝に沙汰を言い渡す!!軍を指揮し、魔王を討伐するに足る、最強の軍を作り上げよ!!
これは王命となるだろう。追って正式に通達を行う!!」
クラリッサは片膝を折り、右手を胸に当て、深く頭を垂れるようにして大仰に承る。
「御意に!!」
「選別対象、および選別方法は一任する!!
家柄、出自問わず、その強さのみを一点に捧げると誓ってもらう。
教会にもその旨を通させる!!よいな!!」
「しょうがないですな。王命である以上、教会も従いましょう。
契約魔術についても、可能な限り協力いたします。」
教会も頷いていた。
頷きが、ひとつ、またひとつと広がり。血筋と権威で編まれてきた王国の軍制を書き換える準備が進められていく。
それは事実として、レベルという秘術を通して王国史上、最も危険な軍事改革の設計図となるだろう。




