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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
荘厳の議会

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50/80

50話 変身と変身途中

彼の周囲を、闇が覆っていた。


ラインハルトは踏み出す。


最初に掴まれた騎士は、鎧の胸元を片手で掴まれて、そのまま投げられ、重さを失ったかのように宙を舞い、壁に叩きつけられて沈黙した。


次は拘束しようとしていた騎士ごと、凄まじい力で同様の結果をもたらす。



「オルデリク公爵。これは?」


「おかしい。ラインハルト伯は、あそこまでの強さはない。あんなのは知らない!!

彼奴は私の派閥です。武術大会での動きはある程度は把握はしていた。

だが、それは直接的な戦闘についてではない!!

あれは。あんなのは聞いていない!!」


「ほう。

公爵ともあろうものが、派閥の男爵の思惑を聞いていない。それをどうやって証明する?

貴様の名も帳簿にあるが。」


「あえて毒を飲んだのは制御のため。

国のための活動であったと、誓って。」


「ほう。」


「この場は責任を持って、私が対処します。

この命に変えましても。」


「まあ、やめておけ。」

「ですが!!」


「この場を、納めるのにふさわしい人物がいる。そうであろう?」


彼女はすでにそこに立ち、相対していた。


「見ろ。すでにそこにいる。ラインハルトの目の前にな。奴はおそらく、ここまでを最初から計算していたのだろうな。」


「な、ま、まさか。馬鹿な……あのような、年端もいかぬ少女が……」


「そのまさかだ。オルデリク。クラリッサの仮面に騙されるなよ。あれは毒だ。

お前だけではない。俺も、全ての貴族も、全ての教会勢力も、あの小娘の手のひらの上だったのだ。」


まるで最初から――今まさにこの瞬間に至るまでの段取りが、一つの誤差もなく組まれていたかのようなタイミングだった。


「マリアの35レベルは、確かに目から鱗だった。

だが、全て人為的にもたらされたものだ。

どこが本質か見誤れば、今度こそ奴に食い尽くされるぞ。アルシェリオン王国ごとな。」


「殿下……」

(レベル制の破壊すら、本質ではない。教会の懸念はまさしく正しかった。奴は、悪魔だ。)


クラリッサの無垢の仮面の下には、貴族全てを絡め取り、逃げ道を奪うための罠が、音もなく、完璧に張り巡らされていた。


むしろその無垢という仮面そのものが、獲物を安心させ、深く踏み込ませるための装置だったのだ。


「化け物……。」


戦慄に塗れたオルデリクの言葉は、誰にも聞かれず消えた。




闇のオーブが嵌め込まれた杖を、ラインハルトは静かに掲げた。


――その時だった。


会議室を包囲していた一画が、爆ぜた。


クラリッサにもそれは直撃していた。

足裏に体重を落とし、ベンチプレスをあげるように、腹圧でテンションを保つ──ようは単純にフィジカルで耐えた。


(……爆発じゃない、圧力のようなもの。音は遅れてきた。先に来たのは、空間そのものが拳で殴られたような衝撃。)


「……ああ、やはり、こうなったか。俺の執事が拘束されたと聞いてから、嫌な予感はしていた。」


ラインハルトが低く、苛立ちを含んだ声。


床が鳴き、壁が悲鳴を上げて会議室の一角が消し飛ぶ中で、彼の周囲だけは会議室は元の景色を保ったまま。


(……なるほど。中心は衝撃が及ばない。半径はせいぜい数歩。魔法障壁かな?)


悲鳴と、呻きの中で、クラリッサは、助走をするように、足を一歩だけ引いた。





そして――




ドゴオ!!!!!


クラリッサの拳が、確かな手応えとともにラインハルトのみぞおちへ沈み込んだ。


衝撃音が、爆発のように響いて、ラインハルトの身体そのものが、くの字に折れた。





クラリッサの拳が、正確に、容赦なく、腹部へと突き刺さっていた。


魔力防御も、闇の衝撃も、発動するより早く。


「……あ……」


ラインハルトの肺の空気が、一気に吐き出される。


「……が……」


声にならない音だけを残し、闇の魔力を纏う男はその場に崩れ落ちた。


クラリッサは拳を下ろして、倒れた相手を見下ろすこともなく、ただ一歩、距離を取る。






オーブが、脈打つ。


どくん、と。

地に伏したラインハルトの鼓動と、完全に同期するかのように。


次の瞬間、ラインハルトの体から闇が噴き上がり、魔力が解放される。

否、解放されすぎている。


空気が震え、床に精製されてい魔術陣が次々と悲鳴を上げて砕け散る。


変身だ。






筋肉の輪郭が、衣服の上からでもはっきりと浮かび上がり、背後に、影が生える。

翼。


魔力は、なおも増大を続けていた。


満ちる。

満ちていく。


「ちっ……変身が止まらないか。ブラッドオーガも悶絶した内臓殺しなんだけど。」


「お、お嬢様。それってありなんですか!?!?なんか変身しようとしてましたよね!?!?」


「だって。なんで変身待たないといけないのよ!!

敵が“これから強くなります”って宣言してるのに、律儀に待つ意味!?

戦闘は舞台挨拶じゃありません!!準備中は、殴られないって誰が決めたんですか!?」


あまりにも真っ当な意見に、ひどくやりきれない想いをマリアは抱いたという。



変身が進む。


闇が、なおも彼を覆い続け、背中の翼は肥大し、

筋肉は不自然なまでに膨張し、魔力は制御を失いかけたまま、噴き上がる。


マリアの視線は、なおも地に伏し、闇に半ば呑まれたラインハルトから離れない。


「あれってなんなんです?」


「悪魔化。魔王に魅入られるとああなるのよ。

本来、教会や貴族が私に認定したかったのは、私が魔王の手先じゃないかってこと。つまり、あれね。

戦闘力が爆発的に拡大するけど、理性を失うわ。」


「お詳しいんですね、」


「実家の書庫にあったの。」


──まあ嘘だが。ザ・レイディーファーストキスで似たような敵がいただけだ。深い考察でもなんでもない、ただの過去ログ参照。



やがて、変身が終わった。


闇の奔流は収束し、膨張していた魔力は、ひとつの形へと縫い留められ、それは悪魔と形容するにふさわしい。


「ここからが地獄かもね!!マリア。力をかしてもらうから!!!」


「が、頑張ります!!!」







……あれ?起きてこない。


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