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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
荘厳の議会

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48/80

48話 帳簿

もう幾度目だろうか。議場の空気が――死んだ。


分厚く、留め金は歪み、角は擦り切れている、その革装丁。

その“何か”を、クラリッサは机の上に置いた。


言葉は呼吸を失い、思考が凍るような沈黙の中で、鈍い音ともに誰かの喉が鳴った。


「ここに帳簿があります。誘拐された時に、ここの地下で見つけた帳簿なのですが。」


ガタッ──!!


円卓の片隅で、一人の貴族が椅子を倒しそうになり、音をたてた。


「お前は異端だ!全て狂言だ。全てだ!教会も言っていた!!お前は悪魔だ。」


「急にどうされましたか?ラインハルト男爵。

異端というと、誘拐の件ですか?それともレベルの件ですか?」


「……どちらもだ!!」


「それは先ほど証明されましたよね。レベルの差は努力の差、積み重ねの差。

そして環境を整えた側とこなかった側の落ち度の差です。

ただ、私が誘拐されていた。これを証明する手段はありませんね。」


「ならそれは嘘ではないか!!」


「なるほど、なら、読み上げますね。」


低く、しかし明瞭な声が空気を切り裂き、議場全体を一瞬にして沈黙させた。


クラリッサの声は、逆に重く、冷たく、場の全ての熱を凍らせるように穏やかだった。


武術大会の試合順操作――オルデリク公爵。12,000枚の金貨。決勝戦前に組み合わせを操作、傭兵団への便宜を見返りに。


審判買収――アルマンド伯爵。6,700枚の金貨。裁定や反則の黙認、勝敗操作。


八百長賭場・配当操作――フェリクス伯爵。15,750枚の金貨。賭博のレート操作、負け分回収と裏帳簿明細あり。


隠蔽用魔法契約――セレノ伯爵。7,800枚の金貨。魔法で記録を改ざん、賭博関係者に秘密保持義務付与


偽装勝利金支払い――ヴィクトリア公爵夫人。3,200枚の金貨。架空の寄付名義で選手に現金支。


選手買収・脅迫契約――オリヴィエ伯爵家。11,200枚の金貨。試合放棄や敗北指示の契約書記録。


帳簿をめくるたび、頁を進めるたびに、場の重力が増すような錯覚。

クラリッサの読み上げは続く。


議会は異様な静けさの中にあった。


「あら、皆さんお静かになられて、どうなさったんですか?このような数字の羅列にどれだけ意味があるんでしょうか。

一応言っておきますと、マリアの嫌疑は晴れましたが、私自身が悪魔かどうかの嫌疑は、晴れていませんでしたね。」


「ほらみろ!!」


「今のあなたと同じです。」


「なに?」


「ひどく取り乱すんです。本当のこと言うと。意味がわからないって。」


バキッ──!!、


手すりが壊れる。


「鍛えれば、誰でもこれくらいできるのに、みなさん、こんなのはおかしいって。

本当におかしいんでしょうか。

剣は振れば強く振れるようになりますし、魔術だって同様です。

なぜ腕橈骨筋、手指筋群をはじめとする筋肉だけを仲間外れにするのか、理解に苦しみます。」


──いや、それはおかしいと思う。むしろ全員が思っていた。

誰も言わないが。


「まあ、どうでもいいですね。そんなこと。ではこれ。提出します。どうぞ。」


「でたらめだ!」


「出鱈目なことなら、余計にいいじゃないですか。だって出鱈目なんですから。」


「そんなものを殿下に渡すなといっている。」


「残念。」


クラリッサはレオナールの前に帳簿を置いて、ラインハルトに向けて舌を出した。


「もう提出しちゃいました。」


「貴様……!!」





「あとでアルヴェルト殿下が証拠品をもってくるので、合わせて照合してください。」


その一言と同時に、椅子にわずかな軋みもなく、衣擦れの音を、できる限り立てぬように、議場の“賢い者たち”が、ほぼ同時に出入口に向かっていた。


「ああ。帰られるんですね。お気をつけて。」


貴族たちの足が止まる。






「アルヴェルト殿下にお願いして、王国騎士達がすでに、会場を警備していますので。

正面、裏門、貴賓口、地下通路、全部です。何かあるといけませんからね。」



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