46話 武術大会優勝者の結末
恐怖と理解不能が形を取ったように、会議室はもう一度凍りついた。
老司祭も、公爵も、他の貴族たちも。
誰一人として、すぐには言葉が出ない。
──なんでもない事のように、したり顔でクラリッサは説明しているが、レベル上げの方法は、自分で見つけ出したわけではなかった。
そもそも、ザ・レイディー・ファーストキスにおいて、経験値素材を作成するときに魔石を使っていた事を思い出し、投与していただけだ。
(つまり、英雄の理論でもなく、秘伝の奥義でもなく、神の啓示でもなく、ただのシステム把握。)
なんかできちゃった。
男爵の一人が机を叩く。
「く、クラリッサ殿……貴方は……そんなことをアルヴェルト殿下に……!?」
「だって、婚約者ですし。さて、脱線致しましたので、話を戻しましょう。」
──おまえ、そんな爆弾を放置して話を戻すな!!!誰もがそう思ったが、口を出さなかった。
すでに議会は、混乱のあまりクラリッサの舞台となっていた。
(やりやがった……!)
(これで、第二王子アルヴェルト殿下の勢力が跳ね上がる……!)
人族の頂点と思われるレベル35の侍女。
そして異端的な知識を持つクラリッサ。
それらが第二王子は、味方にしているとなれば──
ざわめきが議会を包んでいた。
「まずマリアの立場を明らかにしましょう。
アルシェリオン王国武術大会に、ただの平民が出場することで混乱を招く結果になる事は十分に考えられましたので、証明する書類を用意させて頂いております。」
クラリッサは、事前に整えておいた、“後付けの正当性”に示す書類を取り出す。
メイドですが、護衛ですよの書類。
マリアは、グラディール伯爵家のメイドであると同時に“護衛見習い”として登録済みである。つまり侍女でありながら、護衛候補でもある。
それは正式にレベル上げをする権利があることを示す。
──エドワード伯印付き。(※ただし押したのはクラリッサ。)
「そして、こちらが大会への届出書。
“護衛候補の訓練として、王国武術大会への参加を推奨する”と、こちらも伯爵家の正式印が押されています。受理したのは王家です。
そしてレベルさえあれば、あれくらい、誰でもできます。」
場がざわめき、審議室の空気が揺れた。
「だ、誰でも……?」
「侍女が騎士団長を圧倒するのが“誰でも”……?」
一斉に役員たちの顔色が変わった。
レオナールが言う。
「――ほう。アルシェリオン王国武術会の歴史は長い。その長い歴史の中で多くの英雄を排出してきた。
マリア嬢の活躍はその中でも卓越している。歴史に名を刻むほどに。
其方の発言はそれら英雄を貶めるものように思えるが?」
「レベルが低い者より高い者が強いのはシンプルで、簡潔な論理です。
騎士団長より強く、過去に実在した英雄と同じレベルなら、その者は騎士団長よりも強くなるということなのでしょう。
そこで話は戻ります、レベルです。」
全員の価値観そのものを正面から叩き折る、シンプルで、逃げ場のない一言。
「マリアの強さは、レベルの恩恵に起因するため私とは無関係。
むしろ同様のレベルなら、誰であろうと今回の件は再現可能となります。誰でもです。やろうと思えば赤子でも。
それが、レベルの暴力。レベル差ということですね。」
マリアは傍聴先で「ひぃ……」と小さく肩を震わせた。
周囲が静まる。
レオナールの一言が、場を支配する。
「……お互いの意見の提出は、一通り終わったと見ていいな。
まずは大会優勝者であるマリアへの結論を言い渡す。
正式に教会がレベルの認定している以上は、グランディール伯爵侍女、マリアは強さにおいて、異常性はないように思う。驚きはあるがな。
だが虚偽申請を利用したそのやり方が“異端か否か”は教義の問題にはなるだろう。」
貴族たちを一瞥した。
「レベルを制御し、成果に繋げられるなら、それはただの“技術革新”にすぎん。」
「技術革新!?!?」
「そうです!!技術革新なんです!!!」
鋭く突き刺さるように叫ぶクラリッサの声に、貴族達は同時に思う
──まだあるのか。
クラリッサは満面の笑みで続ける。
「見てください!マリアの肌と髪を!!そこにいるので!!」
「!?え……ひえええ!!!!え、えっ? ?」
貴族たちは一斉に見た。
マリアを。
突然注目され、びくっと肩を震わせたマリアの髪は、確かに宝飾品の糸のように艶と厚みがあった。
肌は磨かれた陶器のように、影すら柔らかく跳ね返す白磁。
「あれこそ美容の革新なんです!!そして新しい時代の到来!!
肌ツヤも髪質も、今までの美容とは段違いにレベルが違う!!
これはレベルとは関係ない、あらゆる淑女が手に入れられる美しさなんです!!
技術革新なんです!!!!」
その日1番の静かさが部屋を支配していた。
マリアは真っ赤になって縮こまる。
重鎮たちはそろって思った。
(それはそれで凄い。凄いが……)
(いや、問題はそこじゃないのだが……)
ぶっちゃけ、どうでもいい。




