45話 伯爵令嬢クラリッサの回答、レベル。
「今レベルと言ったのか?」
「そうです。」
クラリッサは強く頷く。
「大会の出場要件はこうです。
貴族に与するもの。あるいは、貴族からの推薦を受け、レベルは10以上である事。
貴族の関係者は教会の設備を利用して、レベル上げを行う。
これは全ての貴族が行っていることと言ってもよく、大会の公平性を保つ担保の一つにもなります。」
貴族の誰かが言う。
「それは間違いない。今大会を優勝したマリア嬢のレベルは15と提出されてある。これは大会出場者の平均値。レベルの暴力などあり得ない――」
「というか、マリアのレベルは15ではないんですが……」
重鎮たちの表情が変わる。
「なんか私の認識とズレが……書類を見ると……あ、書き間違いがありますね。(※意図した書き間違い。)
とはいえ彼女の本当のレベルはとっくに教会に報告済みです。(※グランディール領の教会司祭は買収済み。)
……あれ?まさかですけど、勘違いならいいのですが、もしかして本戦まで勝ち抜いたマリアの身元を、教会側は確認なさっていないのですか?」
クラリッサは大袈裟に驚いた様子をみせた。
クラリッサは申し訳なさそうに呟く。
「すいません。どちらにせよ、こちらの手違いですね。
ケアレスミスによって、提出した数字と本当のレベルにズレが生まれてしまったご様子です。本当に申し訳ありませんでした。」
※意図された手違い。
沈黙。
動揺。
そして、焦り。
レオナールは低く笑った。
「……つまり、侍女マリアの強さの理由は、その強さに足るだけのレベルを有していた。」
「まさに。
マリアは私の侍女です。そして当然、貴族に連なる者としてレベル上げも行なっております。
大会は“武技・身体能力・技能差”を測る前提で組まれていますが、レベル差は基礎能力の跳ね上がりをもたらします。その影響はあまりに大きい。」
「……書き間違いか。」
「混乱の原因は、極めて残念なことに、そこに尽きると言わざるを得ません。
本当に申し訳なく思っております。
教会の聖性も、貴族の威信も一切関係ありません。
レオナール殿下。
マリアのレベルは15で提出してしまっています。
事実とは異なるので、これは虚偽報告に当たります。これは規定上、明確な違反にはなります。」
第一王子レオナールが、短く告げた。
「その方の発言は理解した。レベルを確認しろ。関係者をここに。謝罪を受け取るかもそこで判断する。
フッ……よくぞそこまで言い切ったものだ。お前、これで終わるぞ。下手をすれば。」
「ご随意に。」
レオナールは口角をあげる。
彼らは突然呼び出され、戸惑いながら入室した。
彼らは、第一王子レオナールからの指示に、従い教会記録の分厚い台帳を開く。
全員の視線が集中していた。
記録官の眉が、ぴくりと跳ねた。息が止まると顔色が変わった。
青ざめ、震え、何度も紙をめくり直し――そして、震えていた。
「ええと……グランディール所属、伯爵家侍女。マリア――レベル……」
「どうした?早く読み上げろ。」
「……いえ。あの、失礼しました……侍女マリア――」
レベル 35 です。
室内の空気が、落ちた。
「さ、35……!?35だと……!?……バカを言うな……そんな……!」
「35だぞ……!!アルシェリオン王国の初代王に仕えた英雄アーダル・ゲイルが“ドラゴン討伐直後”にようやく到達した数字だぞ……!?」
落ちて、砕けて、それぞれの胸の中で意味を理解した瞬間、にわかには信じられぬざわめきが広がる。
「識字率を思えば、今回のような不備は、今後も起こり得ると想定できます。
なぜなら、今回の混乱は、全て確認不足による不幸なすれ違いに過ぎないからです。」
私も悪いですが、そちらも悪いですねの論理。
開き直りともいう。
すでに貴族たちは蒼白となり、老司祭は言葉を失い、記録官は祈り、公爵は、貼り付けた笑みの裏で呼吸を止めていた。
「整理しますね。
私は、申込用紙のレベル記入を(※意図的に)書き間違えた。
大会運営は、レベルの確認もせず、大会への出場を軽く扱った。
そして教会側は、大会出場者に明記されたレベルを盲信し、その確認もせず魂や悪魔性といった考察を重ねた。」
花畑でお花を摘んできた、それを報告するような気軽さで、クラリッサは胸の前で手を合わせ、ようやく答え合わせができましたという風に微笑んでいた。
レオナール、教会側、貴族席、全員がざわりと揺れていた。
「ど、どういう……訓練を……レベル35など……人族としてはあまりに規格外……」
「謎が明らかになってしまえば、何てことはない、さもない結末でしたね。
レベル上げの方法については、議題とはズレますので、回答は差し控えます。
とはいえ再現性がありますので、もうやり方は王族の方には、お話をお通しました。」
「第二王子アルヴェルト・アルシェリオン殿下にですが。」




