42話 表彰式後
──表彰式前。
マリアは、大会運営係から、表彰式の段取りを聞いていた。
「優勝者には、白金勲章に加え、王国工房鍛造の武術大会勝者の名を刻んだ公式武器を一振り。
特注品となります。
後日、王国鍛冶師団によって使用者の癖と体格に合わせ、再調整が行われます。
また過去の大会勝者が使用した登録武具に、マリア様の武器が並びます。」
マリアの目が、分かりやすく泳いだ。
「え、えっと……それ、全部……わたし、ですか?」
運営委員係は一切表情を変えず、淡々と頷いた。
「はい。すべて、マリア様に」
「……あの、実は、私の武器って、予選前に壊れちゃって、控室にあった箒なんですけど……!!」
(あれマジで箒だったのかよ。やべえな、こいつ。まじで。)
「……さらに、優勝賞品の副賞として金貨三百枚。」
「さ、三百枚……?……なるほど。」
(まずいです!!そんな金額言われてもそ、想像がいまいちできません!!!!)
マリアは完全に思考停止しており、瞬きの回数だけが増えていく。
その少し後ろで、クラリッサは椅子に腰掛け、傷の手当をしていた。小さく息を吸う。
血を拭い、傷口を洗い、的確に圧迫するその手つきは慣れている。
「……痛っ、あだだだ。」
マリアは説明を半分聞き流しながら、慌てて振り返った。
「ク、クラリッサ様! だ、大丈夫ですか!?大体、無理しすぎですよ!なんでオーガとなんか殴り合うんですか!人間やめすぎですから!!」
「ちょっと舐めてたわ。行けると思ったのよ。
それに怪我する事は今までもよくあるじゃない。トレーニング中とか。」
「こんなたくさん殴られて、青痣ばっかになったのは、初めてです!!
これ何日か、静養にあてないとならないんじゃないですか!?!?
どれも、武術大会とは関係のない傷です!!エドワード様とマルグリット様には、しっかり報告しますからね!!!」
「階段で転んだようなものよ。いいわよ。これくらい。唾つけとけばなおるもの。
それに母上って、小言うるさいのよ。」
「大怪我は、唾つけて治るわけがありません!!」
「それでね、新しいトレーニング考えたの。魔物使ったやつなんだけどね?」
「流れるように話を変えていますが、全く話が終わっていません!!!!」
「今回ばかりは、マリアの言う方が完全に正しいかな。我が妹よ。
正直に言えば――肝が、冷えた。
オーガの異常種。あれはもはや、力の大小で語る存在ではない。災厄と呼ぶほか、言葉がない。」
セドリックだ。
控え室の隅で、包帯を巻き終え、深く息を吐いた。
彼の声には、兄としての心配と、戦士としての冷静な評価が混じっていた。
「はい。お兄様。単なる大型魔物の延長個体だと思って、少し舐めていたところは否定できません。
より厳しいトレーニングを自分にかさなければ。」
「さすがだ、クラリッサ。頭のネジが外れたまま、それを拾い上げる運命が、君を前にして、とうに職務放棄している。」
エドワードはふらりと一歩よろついた。
「お兄様。大丈夫ですか?」
「ふ。魔力枯渇だ。あのオーガを縫い止める為の魔術運用はそこそこ応えたようだ。」
流石のセドリックも限界が近いようだった。
その声音には、静かな疲労が滲む。
「まあ、よくやったよ。クラリッサ。そしてマリアもね。」
セドリックは、顔色は白く、立っているだけで精一杯だったが、クラリッサの頭をくしゃくしゃにした。
祝祭は、もう目前にして、外からは、再び大きな歓声が響いてくる。
「ところで、お父上は?」
「どうも、緊急の招集がかかったらしい。
議会だ。すぐ戻るとは言っていたが……少し、遅いな。」
そして表彰式の後、第二王子アルヴェルト・アルシェリオンが、深刻な表情をしながらクラリッサの元を訪れた。
彼に案内され、そこへと辿り着く。
クラリッサが辿り着く前。
議会会場。
詰問。
エドワード・グランディールは、それを受けながら、全ての準備を終えられている事を感じ取った。
老獪な貴族が冷酷な狩人のように団結していた。
まるでようやく餌にありつけた獣のように、安全地帯を確保しながら、むさぼるように。
「──以上の事実。全て事実であると認識してよいな?」
「はい。相違ありません。」
エドワードの返事は淀みない。
エドワードは、事実を告げる事が、クラリッサの不利になることがわかっていても、虚偽発言は許されない。
発言の瑕疵をつくのは貴族のお家芸。
仮に虚偽発言が発覚すれば、もはや取返しはつくまい。
貴族たちは、その齢12でしかない深層の令嬢の入室を、狩人の目で待って受け止めた。
クラリッサ、グランディール。
淡い象牙色のドレス。
仕立ての良いスカート。
袖口には花を思わせる意匠
幼い可憐な装いの下で、理解と胆力の違和感が揺れていた。
ふてぶてしいまである不敵なオーラを、隠そうともしない。
「あらあら。皆さま。すでにこんなにたくさんお集まりで。
よほど大切なお話合いをなさっていたんですね。」
クラリッサは平然と、深く息を吸い込み、なんなら、一切おもねる事なく、貴族全員を正面を小さな体で見据えていた。
竜虎相なった。




