41話 表彰式
やがて舞台は修理された。
崩れ落ちた闘技場の穴は塞がれ、砕けた石畳は丹念に組み直される。
金属の留め具は磨かれ、亀裂のあった柱には新しい装飾布が垂らされ、決勝の舞台は、選手の入場を待ち構える。
決勝戦。
その控室。
「それにしても偉かったわねマリア。よく私が誘拐された時、棄権しなかったわ!誉めてあげる!!」
「はい!!お嬢様の事、信じてました!!」
「これで、マリアが優勝すれば第二王子を利用して、国に筋トレを広められるわね!!えへへ。」
「お嬢様、笑顔が腹黒いです!!あと情緒が!!なんだか情緒がありません!!それにまだ勝てると決まったわけじゃありません!!決勝の相手はアルシェリオン王国、騎士団長です!!」
「それ、本気で言ってないわよね……?」
「……さすがにオーガより手こずらないと思っています……」
マリアは優勝した。
王国最強の名をマリアは手にした。
表彰式。
闘技場に、王国の儀礼音楽が流れ始めた。
金管の響きが空気を震わせ、太鼓が勝利を告げる。
観客は総立ちだった。
中央に用意された壇上には、真紅の絨毯が敷かれ、王国の紋章旗がはためく。
そこにはアルシェリオン王国国王が控えている。
白髪に金の冠。
重厚な王衣が光を受け、宝石が静かに煌めく。
「勝者、前へ」
マリアは、深呼吸し、壇上へ進み出る。
そして、靴底が絨毯の縁に引っかかって、盛大にマリアは傾いて転んだ。
なんなら、一歩目から右手と右足が同時に出ていた。
「あだっ!!!」
観客席から、低い声が漏れる。
「……っ」
声にならない音。
観客席が、ざわつく。
「緊張しすぎじゃないか……?」
「戦いの後だからか?」
「いや、さっきの……」
王は、何事もなかったかのように、
ゆっくりと声をかける。
王は微笑んだ。
「見事であった。」
その一言に、再び拍手が湧き起こる。
侍従が進み出て、黄金のトレイに載せられた勲章を差し出した。
王自ら、それを手に取る。
その色は白金。
王国最高位の武勲章。
剣を交え抜き、命を賭した者にのみ授けられる証。
王は、マリアの胸元にそれを掛けた。
「汝の勇気と力は、王国の誇りである。本大会、武術大会決勝戦の勝者――グランディール家所属メイド。マリアを、ここに王国最強と認める。」
その瞬間、
号砲が鳴り響いた。
――ドン。
――ドン。
――ドン。
祝砲三発。
空に白煙が咲き、紙吹雪が舞った。
闘技場は祝祭の渦に包まれていた。
酒の匂いが風に混じり、誰もが勝者の名を叫んだ。マリアと。
純粋な祝福
純粋な喝采。
「おおおおおおおおおお!!!!」
マリアは、深く、深く頭を下げた。
──マリア。おめでとう!!
歓声が、いつまでも鳴り止まない中で、クラリッサは、その少し外側に立ちそれを見届けた。
だが、視線だけは、別のものを追っていた。
(……配置、変わったわね。)
王族席の背後に、先ほどまでは見なかった法衣の一団が、静かに増えており、警備の動線も、微妙に詰められている。
「さすがだね。クラリッサ。全て計算どおりかい?」
「殿下。まさかそんな事はありません。日課が犠牲になった事が本当にショックで!」
振り返ると、第二王子アルヴェル・アルシェリオンが立っていた。
祝祭の場に似つかわしくない、深刻な表情で、アルヴェルトは、マリアの方を一瞥する。
まだ壇上で、観客に応えて手を振っている。
「彼女は?」
「今が一番、安全です。象徴は、高く掲げておくべきです。
下ろした瞬間、叩かれる。そしてこれは始まりにすぎません。こんな所で躓くわけにはいかない!来るべきボディビルの大会の為には──!」
「……やはり、わかっていたか。マリアは平民だ。そのインパクトはあまりに強い。明るすぎる太陽が、影を生み出すように。」
「ええ。優勝した時点で、こうなるのはわかっていました。
そして。管理されない力は、必ず嫌われる。
貴族社会では、さらに顕著でしょうね。」
「君を、今すぐ必要としている人間がいる。」
「殿下。お気になさらないでください。むしろ願ったりかなったりなので!行きましょう!」
アルヴェルトは頷き、踵を返す。
そして二人が歩き出しても、歓声は続いていた。
祝祭は、何一つ欠けていない。
闘技場の奥、普段は使われない回廊へと入った瞬間、音が遠のいた。
祝祭は、まだ続いている。しかし、王国はすでに、次の局面へと踏み込んでいた。
「――クラリッサ。祭りの間に言う話じゃないのは、わかっている。僕の力不足だ。本当に申し訳ない。」
厚い扉。
外光の届かない廊下。
空気が、冷たい。
低く、硬い声が、扉の向こうから響く、その扉の前で、アルヴェルトが立ち止まる。
「貴女に嫌疑がかかっている。それは悪魔であると。」
議会が開かれる。




