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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
武術大会編

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33/59

33話 石鹸の宣伝

勝者口上──いわゆる勝利者インタビューがはじまった。


《勝者口上》の由来は、古い。


王都アルシェリオン武術大会が、まだ「力ある者を選び出すための試練」に過ぎなかった時代、勝者は、剣だけでなく言葉の在り方も問われた。


時代が下り、大会は娯楽となり、やがて「形式的な公式問答」へと姿を変えた。


簡易魔導拡声器がマリアに向けられる。

勝利者は、一言を述べねばならない。マリアは一瞬だけ瞬きをする。


「―─おめでとうございます!勝因を教えてください!!」


「えっと……あの……」


マリアは、本来こういう場で前に出て話す人間ではない。


自己主張が得意なら、そもそもメイドなどやっていない。だが今回はその主であるクラリッサからの指示があった。


──石鹸の宣伝をしなさい!


断った場合の説明は何もなかったが、マリアは知っている。恐ろしい事になるだろう。


「……私は、この日のために、ここに出た時のために、石鹸を使って、美容を整えてきました!!見てください!この髪を、このなめらかさを……どうですか!?!?」


「髪……。髪の毛のことでしょうか!?」


「はいそうです!!」


少しだけ裏返った声は、自分でも驚くほど大きな声だった。


「肌つやも違うんです!!戦闘後とは思えない、しっとりとした滑らかさだと思いませんか!?そして、これはその場限りじゃありません!!再現性が可能なんです!!!それが石鹸なんです!!!お求めは――」


一拍。


「グランディール家まで!!!」



沈黙が落ちていた。


「……武術大会、だよな?」

「……確かに、肌のツヤはすごくないか?」

「髪もなめらかだ……戦闘後とは……思えない……?」


口を開けたまま言葉を失っていた司会は、助けを求めるように観客席を見渡したが、そこにあったのは、同じ表情だった。


ざわめきはある。だがそれは興奮ではなく、困惑のざわめきだった。


「えー……大変、えー……大変、個性的なご意見を、ありがとうございました!」


「し、失礼致しましたぁっ!!!!」


マリアは逃げた。





二回戦。


開始の合図が鳴っても、マリアの対戦相手は、闘技場に姿を現さなかった。


審判団の短い協議の後で静かな宣告が下された。


「本試合、対戦者未出場につき――マリア・グランディール。二回戦、不戦勝。」


「へ?」


マリアは、むしろ対戦よりも、対戦後のインタビューの方が心配だった。


なんならわざわざ、勝利パフォーマンス用の油汚れのすごい洗濯物まで用意していたのだ。


(まずい!何かやらなければ、何かやらなければ殺される!!お嬢様に何やらされるかたまったものじゃない!絶対ろくなことにならない!!!!)

「あ、あの!!勝利後のインタビューだけやってもいいですか!?!?すぐ終わるので!!」


「え?あ……はい。どうぞ。」


誰も止める間はなかった。


マリアは、油のついた汚れものをその場で、きれいにしはじめた。


ごし。

ごしごし。

ごしごしごし。


洗剤を一振り。石鹸を軽く泡立て、なぜか用意していた水桶へ、ためらいなく突っ込む。


闘技場に響くのは、剣でも歓声でもなく、洗濯の音だった。


ぱん、と引き上げられた布は、ついさっきまでの油染みが嘘のように消えていた。


「見てください!!この通りです!!戦闘用の頑固な汚れでも――問題ありません!!!」


「……きれい、ですね。」


「どんな油汚れもこれ一本で綺麗になります!!洗剤です。石鹸とセットでどうぞ!!!」


マリアは、深く一礼して、ガチで逃げた。




3回戦も不戦勝だった。


羞恥の限りのインタタビューという名のパフォーマンスをこなし、マリアは汗をぬぐって控え室へ戻った。


「……お嬢様、ただいま戻りました!!……あれ?どこに……」


返事はなかった。


控室のテーブルに、クラリッサが普段愛用しているパワーアンクレットが無造作の置れていた。


そのパワーアンクレットの上に、一枚の黒封筒。


震える手で開くと、中には短い文と、クラリッサが着ていた外套の切れ端が入っていた。




──勝つな。

4回戦で負けろ。さもなくば、令嬢は戻らない。




「……え。えええええ!!!!お嬢様が……クラリッサ様が誘拐されてしまいました……!!!」


力が抜け、マリアは床にへたり込んだ。


(……誘拐……)


頭では理解しているのに、感情が追いつかないが、どうしても疑問を禁じ得なかった。


ただ――どうやって誘拐したんだろう。お嬢様、オーガよりも筋力あるのに。








クラリッサは、薄暗い空間で目覚めた。


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