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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
武術大会編

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30/55

30話 本戦

マリアは勝ち進んだ。


箒を握る手はまだ震えているが、試合を重ねるごとに少しずつ呼吸は落ち着き、砂地での立ち回りにも慣れてきた。


力を競った者は、まるで山を相手にしているかのようだと言う。


攻撃をしたものは、まるで風を相手にしているかのようだと言う。


拳を打ち込めばすり抜け、剣を振れば、まるで風のように無力化され──


そして気づけば場外に投げ出されていた。


意味がわからない。


戦いの理屈も、技の原理も、すべてが狂っていた。



「余裕出てきたわね!重畳!」

「お、お嬢様!!また勝ちました!!」


「そりゃ勝つわよ。数値の暴力だもの!さあ、猛者達が貴方を注目し始めたわ。

石鹸の宣伝のしどころよ!」


「す、すいません。正直にいうと、勝てると思ってなかったので、石鹸の宣伝なんて一切考えてきませんでした!」


「なら、服を脱いで。」


「え……?」


「服を脱げる範囲で脱いで、髪を靡かせて。肌のきめ細やかさを見せなさい。一発だから。」


「ひどい。」





マリアは、違反を疑われていた。


武術大会には健全な運営の為の監視がある。

マリアと対戦した出場者達からの告発が上がったのだ。


控え室の木の床に足音が響き、静寂を切り裂くように、運営委員会の面々が現れた。


黒の外套に身を包み、肩口や胸元には銀や金の徽章が光っている。


「グランディール家の二名ですね。試合の結果について、少々確認させてもらいます。」


「お、お嬢様!私に違反の疑いが!!なんかしました!?私、なんかしました!?!?」


「大丈夫よ。貴族お得意の嫌がらせだから。ちょっと行ってくるわ。」


クラリッサは涼やかな笑みを浮かべ、運営委員会の後について、悠然と歩き出す。


控え室を出る間際、クラリッサは振り返り、片目を瞑ってマリアに釘をさす。


「それより、知らない人に、ご飯をくれるとか言っても、ついてっちゃダメだからね。

そろそろ毒を入れてくるから。大会の出す飲み物も一切口にしないで。」


「何それ、こわ!!」






運営委員会。

王都闘技施設、尋問室。


威圧的な面々に囲まれ、クラリッサは詰問されていた。


「グランディール家の出場選手に、違反の疑いが出ています。」


「出場資格は満たしてるはずだけど?」


「前代未聞です。」


「ルール読んだけど明記してなかったわ。そちらの落ち度でしょう?」


「戦闘手段を開示していただけますか?」


「純然たる戦闘能力以外にどう説明しろと。」


「対戦者からの聞き取りでは、不可解な術をつかっていると。転移魔術でも使っているのではないでしょうか。」


「使えるわけないと思いますけど。本気で言ってます??」


意味のない問答が続く。


──おそらく、時間かせぎかな。


議論を続けることで、隙が多そうなマリアを孤立させ、心理的に追い詰める意図があるのだろう。


それと同時に、発言の中で瑕疵を見つけて、グランディール家の違反による敗退を目論んでいる。


でも、屁理屈は得意なのよね!!悪くない狙いだけど!!


クラリッサは薄く、不敵な笑みを浮かべた。




議論は平行線だった。

難癖としか思えない詰問を、クラリッサはのらりくらりと交わす。


使用した武器や戦闘手段。

服装が大会に適合していない事について。

勝利のために予期せぬ方法を用いた覚え。



その時、重厚な扉が静かに開かれ、1人の人物が入室してきた。


「あー、その者は大丈夫だ。」

「殿下!!」


運営委員会の面々の視線が一斉に集まった。

第二王子が、威厳を纏いながら立っていたのだ。


そして、一斉に膝を折る。


委員達の心中は穏やかではなかった。


第二王子アルヴェルト・アルシェリオンが武術大会に訪れていたことは知っていた。


だが、まさか、この尋問室にまで足を踏み入れるとは。


「件の出場者であるマリアは、私が目をかけた者だ。

クラリッサは私の婚約者でもある。運営の責任者である男爵にも伝えておけ。」


「王子。助かりました。」


「クラリッサ。派手にやっているみたいだね。」


「それほどでも。注目を頂けて光栄な限りですわ。とはいえ、プロテインの時間になっても尋問が終わらないので、少々辟易しておりました。」


「そっち……」







尋問室からの去り際、重い扉に手をかけたところで、クラリッサはふと足を止めた。


跪いたままの運営委員会に、ゆっくりと振り返る。


その瞳には先ほどまでの軽やかさはなく、ある種の冷徹さと確信があった。


クラリッサは微笑んだ。それは、礼儀正しく、そして残酷な笑みだった。


「伝言を一つ。そちらにも特定の出場者を勝たせたい算段があるのでしょう?」


委員たちの肩が、わずかに強張る。


「もし、マリアが邪魔だというのなら……平民の、メイドの、たかが小娘ひとり。

正攻法で叩きのめせばいいじゃないのかしら。不正調査の指示を出した方と、運営の責任者にも――

そのまま、そう伝えていただけます?こちらは逃げも隠れもしないので。」

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