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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
第二王子アルヴェルト・アルシェリオン

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28/52

28話 浴室にて

入浴場の床は、薄い灰色の石を磨き上げたもので、湯の熱を受けて仄かに温かく、歩くたびにしっとりとした感触が足裏に残った。


大きな浴槽からは湯気が立ち上っていた。


クラリッサは腕をまくり、静かにマリアを洗っていた。


「なんかすごいいい匂いしますね。」


「食事管理の一環で、油も色々試したのよ、エゴマ油とかあればいいんだけど。まあ、研究中。

ちなみにこれは、木を燃やして出る灰を水で煮出すことで得られる弱アルカリを、油にぶち込んで香料を入れて固めたもの。石鹸ね。」


彼女は泡のついた手を湯に軽く沈め、とろりと滑るような泡をすくってマリアの肩へ落とした。


「まあ、経済にはそんなに興味はなかったから、作って満足してたけど、状況が変わったわ。筋肉だけじゃダメとか、終わってるわ。ホント。」


「お嬢様って、一体どこへ向かってるんですかね?」


「最強。」


微笑すらないクラリッサの言葉に、マリアは慌てて手を振る。


「いえ、あの、そういうことではなく」


「どうやら、お金が足りなくなりそうなのよ。だから、美容品の生産ラインを整えて、それを王子のツテで売り出します。

マリアの武術大会出場は、美容品販売のための宣伝も兼ねてるの。」


「あの……お嬢様。私ってそこまで容姿に優れていませんけど。」


「――宣伝に必要なのは“絶世の美”じゃなくて、“変化が目に見えること”だから。」


マリアは瞬きをする。


クラリッサは泡をすくい上げ、マリアの二の腕を優しくなぞった。


逃げられないが、守られているような、不思議な強さだった。


「あなたは、努力が外側にちゃんと出るタイプ。清潔にして、肌を整えて、髪が艶を持てば――周囲はすぐ気づくわ。『マリア、最近綺麗になった?』って。お高く止まってる貴族の淑女どもを、嫉妬させましょう!!そしてその財布の中身を搾り取ってやる!!」


「お嬢様はなんでそんなに戦意が高いんですか!!!嫌な事でもあったんですか!!!」


「デビュタントで学びました。やる時は徹底的にやるのが貴族社会だと。」

  

「こわ。貴族社会こわ!!」


クラリッサはマリアの肩をぐっと掴んだ。


「マリア。搾取される側に回りたくないなら、やりなさい!!徹底的にやりなさい!!いいわね!!」


「はいいい!!!!」




クラリッサは淡々と瓶の蓋を開け、透明な化粧水を掌に受け、マリアに塗り付ける


次に乳白色のローション。


そして最後に、クラリッサはオリジナルの魔術を行使した。

ただし派手な光はなく、皮膚表面の水分保持を補助する、極めて地味な術式。


「あとは数時間は静止。筋肉痛と一緒ね。回復待ち。」


「そんなにじっとしてたら……あの、業務が。というか、なぜそんなものがここに?」


「え?筋トレの間のレストタイムが暇だったから、インターバル中でせこせこ……あとはアイディアを設計図を書き起こして、お父上に流すだけよ。材料聞きたい?水。蜂蜜。塩。ゴブリン。」


「はい?」


「ゴブリンの死後、しばらくしてから、骨の内部に滲み出す魔力を含んだ水分。

あと眼窩の奥に溜まる半透明の粘液。

魔力成分と美容についての関連は、さすがの私もまだ研究途中でして……サンプルがねー」


「ひええ!!!!」




翌朝。

まだ陽の光が柔らかく、廊下に薄い金色を落としている時間帯だった。


クラリッサは食堂の隅で瓶を軽く振っていた。


その液体は琥珀色の液体が光を弾き、どこか薬品めいた香りが漂っている。


「マリア。これを飲んでもらえる?」


「お嬢様がいつも飲んでるやつですよね。」


「飲んだわね。じゃあ教会いきましょう。」



教会の簡易鑑定魔法陣が淡く光り、

司祭がぽつりと告げた。


レベル12。


「……え?なんで?」


教会の重い扉を開け、そして出てくると、マリアは首を傾げていた。


クラリッサはマリアを出迎え、先ほどの琥珀色の液体を再度渡す。


「お嬢様……レベルが上がっていたんですけど……あの……絶対おかしくないですか?私ってレベル10だったんですけど……あ、これ飲むんですね。」


「そう。レベルが上がっていたの。良かったじゃない!」


「すいませんお嬢様。私ってデビュタント以降、魔物一匹も倒してないんです……これ、何を飲ませてるんですか?」


「魔石。」


「ぶーーー!!!!」


「マリア。勿体無いんだけど。あと私にかかってる。汚い。」


「ええええ!!!!言ったじゃないですか!!!!魔石は食べられないって!!!!死んじゃうって!!!!うええ……!!」


「教会の提唱してるソウルコア理論に基づいて考えたのよ。

私達って、魔物を倒した時に、その魔物の持つソウルフラグメントをソウルコアが取り込むから、教会はその時に出るノイズを除去する事で、その共鳴を使えるようにするのがレベル上げの仕組み。

だったら、魔石を直接摂取すれば手っ取り早いでしょって、それでうまくいっちゃって。」


「いっちゃってじゃないです!!!ま、まさか最近うちの騎士団がやたらレベル高いのって……まさか……」


言葉が、喉で引っかかる。


ゆっくりと、クラリッサを見る。


「……まさか……」


クラリッサは微笑んだ。

否定も肯定もせず、ただ一言。


「内緒でご飯に混ぜたの。」


マリアはその場で固まった。



「はい。バーベル。」


屋敷に戻ってきた。

庭の小屋を改修したジムで、クラリッサはマリアにバーベルを勧めた。


マリアはポジションをセットしながら、ふう、と息を吐いた。


「以前にレベル10になって、腕立て伏せがようやくできるようになったばかりなんですけど……ですよねー。上がりますよねー、体が軽いです。」


レベル12の恩恵は恐ろしいほどに即効で、マリアの身体を重さに順応させていた。


クラリッサは満足そうにうなずいた。


「そう良かった!そのうちゴブリンの頭を握り潰せるようになるわ!」


「いやです。乙女がいいです。乙女の未来を歩ませてください!!」


「はは」


「冗談じゃないですから!!!!聞いてぇぇぇぇぇ!!!!!」







小さな緑の魔物が悲鳴を上げ──次の瞬間、ぶしゅ、と嫌な音がした。


マリアの手の中で、ゴブリンの頭が、本当に潰れた。


本当に、握り潰せていた。


「……」


マリアは固まり、クラリッサはというと、慣れた手つきでゴブリンの体から光る欠片を拾い上げていた。


「魔石の質が今日はいいわね。」


いそいそと袋にしまいながら、

実験材料が手に入ったとばかりの満足げな顔。


マリアは白目になりかけていた。


そしてマリアは悟ったという。


──本気だ。


──本気でお嬢様は、自分を武術大会に出場させる気だ。


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