表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
第二王子アルヴェルト・アルシェリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

23話 殿下到来

グランディール伯爵領。

門前の石畳が、遠方から響く軽快な蹄のリズムを反射して震えた。


白銀の意匠を施された双頭の獅子紋章の馬車が、ゆっくりと坂を上ってくる。

そして――馬車が止まる。


伯爵家の門兵たちは一斉に膝を折り、侍女や執事たちも慌ただしく整列する。


「──殿下のご到来である!」


高らかな声が広庭に響き渡った。


馬車から降り立ったアルヴェルトはまっすぐに館を見据えた。

年齢に似合わぬ、重い決意を宿したまなざしで。


エドワード・グランディール伯爵は静かに歩み出た。胸に手を当てる。


「殿下。グランディール伯爵家へ、ようこそお越しくださいました。どうぞ、館へ。お疲れもありましょう。」





食堂。


伯爵のまなざしは、まっすぐ王子に向けられていた。


「殿下に、少しでもこの土地の空気を感じていただければ、光栄に存じます。お食事はラム肉料理。我がグランディール伯爵領でとれる自慢の一品でございます。」


「……本当に、美味しいです。王都では、こんな料理……見たことがありません。」


伯爵はわずかに頷いた。


「ええ、王都の料理とは少し違います。無駄を削ぎ、必要なものだけを、真っ直ぐに。それが、我が領の気風にございます。」


アルヴェルトは、そっとフォークを置いた。


「……婚約とは、ただの形式ではありません。グランディール家の“法”と“礼”は、王国にとって、楔のようなもの。

この家が揺らぐことは、王国そのものの秩序が揺らぐことと同じです。だからこそ、この家の令嬢――あなたの娘との婚約には、意味があります。」


エドワードの頬がわずかに赤くなる。少年らしい羞恥が、一瞬だけ差した。


「……その……クラリッサ殿は、張り詰めた空気の中にもまっすぐで、強い……国にとって必要な“光”を持っていると思うのです。」


十二歳の少年らしい、不器用な真剣さで言葉選んでいた。


クラリッサはそれを聞いて思っていた。


──いや、そんなこと絶対はないと思います!!!!





穏やかな街路を歩くたびに、

第二王子エドワードは奇妙な感覚にとらわれ始めていた。


この領は静かだ。穏やかな街並み。治安もいいのだろう。

だが、その静寂の下に。


目を見張るほど豊かな生命力が息づいていた。


羽ばたきの音が聞こえる。


「……鶏」

の数が、ものすごく多い。




市場で水を運ぶ女も、荷車を押す男も、腕は太く、背は高く、胸板は厚いように感じられる。


どの大人もまるで生きた彫像。


ライウェイ!!の声が響く。




広場に設けられた訓練場。

騎士団たちは鎧を整え、静かに列を作っていた。


王子アルヴェルトはその光景を、息を詰めて見つめる。


「……全員、あの体格……」


騎士団は、王子の視察で、色めき立っていた。


「そう構えなくていい。ありのままの姿を、見せて欲しいとの要望だ。みんな気張れよ!!」


「ライウェイ!!」



領主の屋に戻ってくると、庭園の隅にひっそりと小屋があった。


そしてそこは、無骨な木の板と荒々しい梁が、まるで異世界の存在のように存在していた。


扉の隙間から、金属の光と皮の匂いが漂っている。


「……エドワード殿……あれは……?」


「殿下、とうとう見つけてしまいましたか。あれが、あれこそが我が領の、最大級の異物であり災厄……我が娘のトレーニングルームです。」


「クラリッサ殿の……」


「はい。残念な事に。」


エドワードは意味深に頷いた。


「国や領を守るための騎士団の厳しい訓練。我が娘は、さらに自身を高めることを望んだ。だからこの“災厄”を建てねばならなかった。

領地の者は敬意と畏怖をこめてこうよぶ。

“ジム”と。」


「……ジム……!!」


「これに関しては領内で一番詳しいものがここにおります。」


淡い色のドレスを着こなし、エドワードの脇でクラリッサが、ゆるやかに膝を曲げてカテーシーを行った。




一度着替えをして再度集まる事になった。


部屋で着替えの手伝いをするマリアは、クラリッサに言った。


「い、いいんですか?クラリッサ様。あれ見せちゃって。

あんな、奇怪な鉄の塊を愛用する淑女だと思われちゃいますけど。やんごとなき方に。」


「ええマリア。さすがの私も、戦慄しているわ。」


クラリッサは大きめにため息をついた。


「王子の筋繊維って、ぶっ壊すと法律で問われるのかなって。」


「そうですよね。まさから領主の館にそんな人類の敵みたいな鉄の塊が──って、そっち!!!」






クラリッサが王子にトレーニングマシンの説明を始めた。


「殿下。トレーニングルームを使いたい。間違いはありませんね。」


「うん。頼むよ。クラリッサ。」


「実は流石に、気後れしている部分があります。やめておいた方がいいって。だって、筋肉に嘘はつけません。

王子でも、神でも、老若男女問わず、病人に対しても私は言います。

だって昨日の自分と越えるのは、筋肉に向き合った自分なので。」


──王族には公務があるのよね。

筋トレは大事だけど、公務と釣り合いが取れないと、続かないし……王族の生活スケジュールって聞いてもいいんだっけ?


流石のクラリッサも悩んでいた。


時間がないなら、その次回に適したメニューが必要。

本気にならなければ、一切筋肉は応えない。

その森羅万象、万物普遍の法則に加え、適切なメニューはあるに越したことはない。




「待て! 先ほどより聞き及ぶところによれば、殿下に対してそのような口の利き方をするとは――あまりに無礼ではないか!」


早速、王子の付き添いが騒ぎ立てていた。



(やっぱりこうなるよなー。)

「これは無礼じゃなく、事実です。筋トレとは体で対話するんです。嘘や遠慮は通用しません」


側近は拳を握りしめ、怒鳴る。


「通用しないだと!? 王子に向かって、

先ほどから聞いていれば無礼にもほどがある……!」


「筋肉は負荷を受けることで微細な損傷を生じます。

 筋繊維は以前よりも強化され、より大きな力を発揮できるようになります。これを超回復と呼ぶのですが、そこでさらに破壊することで最大出力が増加するんです。痛めつけなければならないんです。遠慮や優しさは、ここでは通用しません。」


クラリッサは澱みなく続けた。


「殿下は、剣の教えや、ダンスによって基本的な体幹は扱えています。しかし、それだけでは不十分です。筋繊維の限界を自覚し、自分自身と真正面から戦う覚悟――

 それがまだ足りません。」


王子はわずかに顔を赤らめる。


しかしその隣で、側近の怒りは限界を迎えていた。


「もう我慢ならん!!」


側近が大声を張り上げる。


「伯爵令嬢が、戦の理を何と心得ているのか!!

 殿下に向かい、戦い方を指摘するとは何事だ!!」




どうしよう。側近が怒った。


(でも筋肉には嘘はつけないし……。)


マリアはこっそりクラリッサに告げた。

「お嬢様。この場だけは嘘をつけばいいとおもいます!!」


「ねえ。マリア。ぼこしていい?あいつ」


「絶対にやめてください。」


「わかったわ。マリア。間をとるから。」


クラリッサは憮然とした様子で、脇から、模擬剣を持ってきた。




「あなたの言い分はわかりました。私もそう思います。」


クラリッサは模擬剣を差し出しながら言った


「なので、どうぞ。」


「どういうつもりか?」


「模擬戦です。」


面をくらう護衛騎士。


「まさか12歳の少女に剣の指導すらできないんですか?さんざん戦いについて偉そうに語っていたのに。笑えますね。」




館の広間にて、模擬戦となる。

クラリッサは、剣を振ったりしつつ、その準備をしていた。


「お、お嬢様、これって、一体、どことどこの間をとってるんですか?」


「殺害と和解。」


マリアはひくついた。

うわー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ