表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
デビュタント

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/36

16話 デビュタント

照明の柔らかな光が、白磁めいた肌を淡くなぞっていた。


肩をわずかに露わにするドレスは、深紅。


コルセットのおかげで、クラリッサの胸元のラインが驚くほど形良く整っている。


──いや、誰?この美人。


クラリッサは本気で後ずさった。


日々の鍛錬と栄養管理の末に身体を仕上げていた。

それがドレスの繊細な刺繍と宝石で“別の生き物”と化している。


クラリッサは完全に引いていた。これが乙女ゲームのキャラクターの本来のポテンシャルなのかもしれないが、これはあまりに。


「わあ、お嬢様、お綺麗ですね。」


「待って。脱ぐから!!」

「なんでですか。」


「これは嫌!!トレーニングウェアがいい!!」


「諦めてください。子供じゃないんですから」


「やーだー!!!」



舞踏会は、公爵領で行われる。

――国では通年の慣例だった。


季節ごとに細かい催しは各地で開かれるが、“社交界の幕開けを告げる大舞踏会”だけは、必ず公爵家が主催する。


歴史と格式と権威を象徴する、一年で最も重要な社交の場。


馬車は石畳を踏みしめ、緩やかに進む。

窓の外に広がる景色は見慣れた伯爵領から、公爵領の街並みに変わっていく。



「マリア……私。忘れ物があるの……」


「なんですか?」

「それは筋肉、置いてきた気がする!!」


「大丈夫です!ドレスの下にちゃんとあります!!大丈夫です、お嬢様はお美しい。――堂々と行ってください」


──いや、そういうことじゃないの!!!!


クラリッサの嘆きはよそに、やがて公爵領へと到着し、目的地に辿り着き、扉が開かれる。


光、音楽、香水、談笑のざわめき。


そのすべての中へ、クラリッサは一歩足を踏み入れた。


舞踏会が始まる。





薄明かりのシャンデリアが煌めく大広間――音楽が静かに場を満たす中、デビュタントたちは入場していた。


淡いブルーのドレスに身を包んだ者。

金色の髪を後ろで編み上げた者。

紫のシルクを優雅に揺らす者


──それぞれが光を纏ったように舞踏会の間を歩く。


クラリッサは、深紅のドレスを纏っており、肩から流れる長い髪には真珠の飾りが光っている。


緊張の色を隠すように、彼女は背筋を伸ばし、ゆっくりと歩む。


そして見知った顔を見つけると、クラリッサはスカートの裾を持ち上げ、足早に近づいていく。


その紳士は、黒曜石のように深い漆黒の礼服を纏い、長身を優雅に伸ばしてクラリッサを迎えた。


目が合う瞬間、どこか保護するような優しさが宿っていた。


兄セドリックである。


完全にデビュタント仕様に仕上がっている。すごく紳士している。


開口一番。クラリッサは言った。


「お兄様。帰っていいでしょうか。」


まだ会場に入って数分、花のように微笑みながら、クラリッサは聞いた。


「そういうと思ったよ。だめだね。」

「そこをなんとか。お願いします。」

「終わったらね。」


逃げ道を塞がれたことに気づき、クラリッサはしゅんと肩を落とした。


兄はそんな妹の頭の高さに視線を合わせ、微笑んだ。


「大丈夫。お前ならできるよ。」

「……はい。終わらせます。」


セドリックは満足そうに頷き、静かに手を差し出した。


「じゃあ、行こう。クラリッサ。」


「え、嫌です。」


「観念しようね。」


低く落ち着いた声が、会場の喧騒を遮るかのように届く。


「殿下の入場です。」




――その瞬間、空気が変わった。


司会の声が響くと同時に、ざわめきが波紋のように静まり、会場の視線が一斉に入り口へと吸い寄せられる。


そして主催者である公爵夫妻がゆるやかに歩み出て、華やかな礼服を翻しつつ、扉の前で一礼。


数百の視線が集まる一点――会場を埋め尽くす貴族たちは息を呑み、その先を見守る。


そして、音楽が変わる。


弦がひときわ澄んだ音を奏で、扉が静かに開いた。


そこに立っていたのは、若き第二王子、その人。


髪は光を受けて淡く輝く蜂蜜色。

しかし瞳はその対極――深い湖面のように冷たい蒼。


年齢12歳。



――その宣言は、会場全体の鼓動をひとつ高鳴らせた。


「さて、オープニングダンスの時間です――」


司会の声が響くと同時に、弦楽がやわらかく、しかし確かな重みをもって旋律を奏で始める。


灯りが少し落とされ、シャンデリアの無数の光が揺らいだ。


大理石の床は、まるで銀色の湖面のように煌め。そしてそこに――ゆるやかに道が開かれる。


最初のステップを踏むのは、主賓である第二王子。


第二王子は静かに一歩進み出て、周囲の空気を従えるようにホールの中央へ向かっていく。


貴族たちが見守る中、彼は立ち止まり、ゆっくりと視線を巡らせた。


クラリッサの心臓が一拍、跳ねた。


なぜならその視線が、彼女の方へまっすぐ伸びてきたからだ。


王子は歩みをさらに進める。


クラリッサの前へ。


まるで迷いなど初めからなかったように。


そして、優雅に、深く一礼した。


「――ご令嬢。最初の一曲を、私にいただけますか?」









「えっと……お断りします!!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ