15話 5年後2
柵の中にそいつはいた。
柵は、太い丸太を何本も縦に立て、互いに鉄製のリングで補強され、簡単には破れない頑丈さを誇る。
木々は折れ、枝が散乱し、地面には破壊の後が見て取れた。
騎士団が大勢で当たっているが、報告の通り、手こずっているようだった。
剣が木の柵を叩く音が響き、木片が舞い上がる。
衝撃が地面に勢いよく突き刺さり、騎士団の足元に砂利が弾けた。
斧や槍がぶつかり合う金属音も響いていた。
オーガだ。
「うちの奴らをここまで手こずらせるとは……中々ね。」
「ええ。かなりの大物です。森の深層に潜んでいた奴かと。」
「──へえ。面白そう。」
クラリッサは腕と足のパワーアンクレットを外した。
ドゴオ!!
地面がゆらぐような音が響き、衝撃は地面を伝い、砂利や小石を跳ね上げた。
クラリッサは一歩前に出ると、ゆっくりと肩を回した。
筋繊維が伸び、関節が正しい位置へと収まる。
ゴキッ、ゴキゴキッ。
骨を鳴らす。
「さあ、始めましょうか。」
肩を鳴らしながら、囲いに入る。
木と杭で作られた、コンビクトデスマッチ。
クラリッサの恰好は、鍛え上げた筋力に、防具が耐えられなかったので、防具は必然的に最小限のものとなっていた。
上半身は自由に動かせるよう革製の簡素なアーマー。
胸元は戦闘に支障が出ない程度に切り込まれ、軽量化している。
下半身は軽やかな布や皮でまとめられたズボン。
装飾は最小限。伯爵家の紋章がさりげなく刻まれた革のバックルや、戦闘時に邪魔にならない小型の装飾だけ。
「私は……クラリッサ!」
声は低く、しかし森に響き渡った。
「グランディール伯爵令嬢にして……筋肉の高みを目指すもの!」
オーガは気づいた。
姿は10才いくばくかの少女。だがその威圧感は森を揺るがす。
「距離を……取れ!」
指揮官の声が、緊張で震えていた。
騎士たちは後退する。だがオーガはそれを追わない。クラリッサの威圧感に縫い留められていた。
オーガの巨躯が前に踏み込み、両手で握る大剣が高々と振り上げられた。
「■■■■!!!!」
オーガの森を震わす重低音の咆哮とともに、刃が振り下ろされた。
振動が地面に伝わり、砂利が飛び散り、枝葉が一斉に揺れる。
――皮一枚。
刃はわずか数センチの差でクラリッサの肩の横をかすめる。
クラリッサは静かに拳を構え終えていた。
「マッスルストライク──なんてことはない。ただの右ストレートだけど!!!!」
バァァンッ!!
オーガの腹筋の腹筋と内臓が強烈な衝撃で破壊される。
オーガは地面を踏みしめる力を失い、崩れ降ちた。
巨体が地面に叩きつけられ、砂利と土が跳ね上がり、振動が森の枝葉を揺らす。
騎士団は一瞬、息を飲む。
クラリッサは微動だにせず、筋肉を軽くバンプさせる。
「そんな程度の腹筋じゃ、ないと同じ。プランクでもして鍛えてきなさい。」
クラリッサは少女の姿からは想像もできない、圧倒的な破壊力を全身で示していた。
その場に立つだけで、戦場の空気を支配する――それが、鍛え抜かれた戦士、クラリッサだった。
爆発のような歓声。
脇で見ていたマリア思った。
──いや、お嬢様!!あなたは伯爵令嬢なんですけど!!ツッコミたい。非常にツッコミたい!!
朝起きると、クラリッサは迅速に活動を開始する。
身軽なトレーニングウェアに着替え、軽くお腹を満たして筋トレに取り掛かる。
「おらあ!!!!ふん!!!いいねえ!!!」
血管が浮き上がり、鍛え抜かれた筋繊維が光を受けて煌めていた。
フリーラックとダンベルの完成度はかなり高まっていた。
各種マシンはあるが、これはまだ、実用にはいたらない。今後完成度を高めていく必要があるだろう。
優雅に朝食を済ませる。
食事を終えると、クラリッサは書斎に移動する。
机の上には魔術書、領地の資料、戦術書などが整然と並ぶ。
銀縁のペンを手に取り、日誌を書きつつ、書籍を読みといたり、講義を受けたり、魔術の理論を整理する。
「よし!次は剣術ね!!」
午後は、剣術教室の名を借りた筋トレをする。
そしてご飯食って、筋トレして夜食食って寝る。
ある日の事
クラリッサは、鏡の前でポージングをしていた。
オーガを上回ると筋力を持っていると思えない、華奢とも言える体格をしていた。
「もっと負荷を……!!もっと効率的に……!!」
明らかにおかしかった。
筋肉肥大しない。
筋力はオーガよりあるのに。
「マッチョになりたい……なりたいのよ!」
もしかしたら、この世界には、魔力があり、レベルもある。
筋力は、肥大ではなく、別の進化をしているのかもしれない。
首を捻っていると、父エドワードが入ってくる。
「あら、お父様。何か用事ですか?」
「お前もそろそろ12歳の誕生日を迎える。」
「そんなになりますの。」
「舞踏会への参加が決まった。準場しておくように。」
そして父は去った
「ぶ、舞踏会……」
「とうとう来ましたね。お嬢様!、晴れ舞台です!」
話を聞いていたマリアは無邪気に喜んでいた。
「……わ、忘れてた」
ここ、乙女ゲームだった。




