116話 地下に作った
「お前ら。短時間で一万金貨は稼ぎすぎだろ。
うちのテーブル、壊す気か?
ここは遊び場じゃねぇ。
金を流す場所だ。流れを壊す奴は呼ばれる
稼ぐのはいい。
だが、稼ぎ方には“流儀”がある」
バルドの言葉。
軽い口調。
だが、その言葉の奥には別の意味がある。
──どんな手を使った?
(短時間で、カジノで、異常な勝ち方。
しかも再現性がある。
カジノの構造自体を壊せる可能性がある。)
だからバルド、呼んだ
──異常な奴らがいたら、最低限確かめなきゃならねえ……
──ただこいつらなら、もう問題は解決したようなものなんだよなー……
(俺は今カジノの胴元だ。
この仕事は甘くねえ。
人間の欲が最も露骨に現れる場所だからこそ、資金の流れを握り、それを取り締まる役目が必要になる。
資金洗浄。
金銭 搾取装置。
イカサマ。
こういうのはゴブリンみたいにすぐに出てくるからな。)
──役割はこなすさ。
──依頼だからな。
クラリッサは、きょとんと首を傾げた。
「運が良かっただけですわ?」
間と沈黙。
バルドの目が、わずかに細くなる。
バルドは入口の男たちへ、ちらりと視線をやる。
「なるほどな……で、お前らを連れてこいって言ったら、あいつらはボロ雑巾みたいになって帰ってきたと」
「ひっ……!」
びくり、と全員が肩を跳ねさせる。
クラリッサは、そこでようやく「あら」と声を漏らした。
軽く振り返る。
にこやかに。
「だって、弁償のお話もまだでしたし」
「床はお前が壊しただろうが。聞いているぞ。すっとぼけんな。」
「そうですよね……
すいませんでした。」
クラリッサは、速攻で観念して謝った。
尊敬するマッチョの前では素直でいい子になる。それがクラリッサ。
バルドは難しい顔をして、頭を抑える。
「はあ……。
おい。お前ら帰っていいぞ。
俺の関係者だ。
絶対に手を出すなよ。
仕返ししてやろうなんて、露ほどにも思うな
相手は、歩くドラゴンだと思え。
災害みたいなんもんだ。
まじで殺されるからな。」
「ひどい言い方ですね!!
仲間や関係者全員探し出して、この世の終わりを味合わせるだけです。
害虫駆除得意なんで。
極めて良心的です。」
「ドラゴンよりタチが悪いじゃねえか……
てことだ。
徹底させろ。」
「バルドさんの手のものなら、そこまでしませんって。」
「こええから……」
その言葉に、周囲にいた男たちが無意識に喉を鳴らした。
ごくり、と乾いた音がやけに大きく響く。
誰一人として、目を逸らせない。
リーシャはクラリッサの後方で、首を傾げていた。
「誰?あの大きい人。
クラリッサさんの知り合いみたいですけど?」
「お嬢様の推しですね
推しマッチョです。
《竜の牙》の前衛です。」
「いやいや、
《竜の牙》なんてSランク冒険者パーティの英雄だから。
こんなところにいるわけないから。」
「……う。まあ確かに。」
マリアは思った。
(私も元、《竜の牙》ですとは言いづらい。)
部下たちが去った後、バルドは、困ったように言った。
「嬢ちゃん。なんでここに?
一応、カジノは問題なく回ってるぜ。
嬢ちゃんたちが来るまでは。」
「借金がやばすぎて、賭場を崩壊させて回収しようかと。」
「いくらだ?」
「20万金貨。
1万金貨程稼いだけど、全然足りない。
でも稼ぎすぎたなら、返せる範囲で返すわ。
弁償もあるし。
リーシャにもあげちゃったから、実質4分の一だけど。」
「お、おう。悪いな。」
「はあ……
大体、セレスティアのレンタル費用が高すぎなんだけど。
1日1万金貨飛んだんだけど。
金のかかる聖女よね。
ほんと。」
「まあ、ゆっくりしてけよ。」
「ところでバルドさん。
完成しました?」
バルドは一瞬だけ黙った。
それから、小さくにやりと笑う。
すごく悪い顔をしている。
「……ああ。一応な
嬢ちゃんの言ってた通りだ。“流れ”は作った。
見ていくか?」
カジノの地下にそれはあった。
「闇営業のジムだ。
地下に作り上げた。」
バルドの言葉。
そしてその光景に、マリアは完全に固まっていた。
「お、お嬢様……
セレスティア様に固く禁止されてましたよね……筋トレ設備だけはだめだって。」
「そんなの聞くわけないでしょ。
でもバレたら終わるけど。
なぜか教義に違反しても多少は大丈夫なんだけど、これだけはバレたら一発アウトよ!!」
「いえ、そもそも教義に違反しないでください!!」
「どうだ嬢ちゃん。
一時的に《竜の牙》の活動を休止した甲斐があったろ。」
「さすがです。バルドさん。」
「ふふふふ」
「ふふふふ」
そこは闇営業のジムだった。
天井は高く、石造りの空間が無駄に広い。
壁一面には魔術刻印が走り、淡く光っている。
中央には、整然と並べられたトレーニング器具。
ダンベル。
バーベル。
スクワットラックに、ベンチ台。
床には滑り止めの加工が施され、汗と水気を想定した造りになっていた。
隅には簡単な水場とタオルが置かれている
「……本気だ。本気のジムだ……」
「当たり前よ。グランディールで試作して、ここで本格稼働しているんだから。
私以上に筋トレについて考えているものはいない。
必然的にそれは、世界最高峰のジムであることを意味している!!」
「へー……」
リーシャは器具の一つに刻まれた文字が目に入る。
それはバーベルのプレートに刻まれている。
『負荷調整:魔力補助可』
「あれ?この魔術ってわりと最新式の……というか、ものすごくしっかり刻まれてる……
いや、おかしいでしょ……」
さらに奥。
巨大な水槽。プール。
「まさか……あれ……」
「泳ぐのよ。有酸素トレーニングは、女子や怪我をしたものやお年寄りでも行えるから」
クラリッサは、当然のように言った。
「水精霊の加護は存分に活かさないと……ふふふ……」
「だな。
へへ。筋トレは誰もが平等にできねえとな。」
「さすがです。バルドさん!!」
クラリッサの目は、薬物をキメたよに完全にキマッていた。
キラキラしている。
リーシャは、遠い目をした。
(……なんていうか……すごくしょーもねえ……)
なによ、闇ジムって
「じゃあ、今日はお疲れ様。
また明日ね。」
「うん。ありがと。なんだかんだで楽しかったよ。」
「お金も稼げたしね。」
「お役に立てたようで。」
「あ、そういえば、先生から伝言あったわ。
リーシャも明日からエルフ領ね。」
「?」
「リーシャも行くんだって。
世界魔術協会の論文発表会。」
リーシャは、その場に立ち尽くした。
風が頬を撫でる。
――現実感が、遅れて戻ってくる。
「え……??
それクラリッサさんの奴でしょ?」
「私もだけど、リーシャもだって。」
何それ聞いてない。
「アルヴェルト殿下もいくから、一緒に行こうだってさ。
よかったわね。
王子に粉をかけられてるわよ。」
「ええ……!?!?
アルヴェルト殿下!?!?
なぜそこで殿下!?!?
なぜ!?!?」
「じゃあまた。」
「またね!!
リーシャちゃん」
クラリッサ達は去っていた。
「王子……
世界魔術学会……」
リーシャの思考が、止まる。
一秒。
二秒。
(いや待て)
「えええええ!?!?!?」
なんで!?




