112話 新しい章のはじまり。模擬戦
魔術による模擬戦。
それはなんだかんだで、圧倒的なテンプレにして、通過儀礼ともいえる一般的な魔術学校のイベント一つだった。
避けては通れないもの。
本来なら、もっと早くに終わっているはずのもの。
今更ながら、それを行う。
なぜそれを行うか。
それは、何度書いてもうまく書けなかったからに他ならない。
というか日常全般が、全滅するレベルで書けねー……
その2人の模擬戦は、おかしかった。
1人はリーシャ。
かつてのおどおどしていた平民の少女は、もういない。
ただずまいからして、もはや違う。
その身に宿る魔力は、誰が見てもわかる程に海の意志のごとく膨れあがっている。
彼女は変わった。
彼女が杖を掲げた瞬間、水が集う。
「蒼き深淵よ。
巡り満ちる水の精よ。
我が呼び声を聞き、そのひとしずくを顕せ。
――顕現せよ。」
杖が、静かに振り下ろされ、巨大な水球が打ちだされる。
クラリッサは逃げずに向き合いながら思う。
──水精霊の力を引き出してる!
(リーシャの今までの魔術とはレベルが違う。)
一撃で演習場が水没しかねない一撃。
クラリッサは、ただ一歩足を踏み出す。
石畳が沈む音とともに、杖を横薙ぎに振る。
めきり。
――ドン。
クラリッサに直撃しかけた巨大な水塊は砕け、豪雨となって四方へ散った。
──仕組みは簡単。
(杖には多少なりとも、魔力への干渉力がある。
それを用いれば、あとは物理の計算に落とし込めばいい。
つまり、重さ×速さ=破壊力。)
軽い金属でも速度によって、銃弾となる。
ましてやクラリッサは鍛えている。
そこまで考えれば、飛んでくる巨大な水球など塵にも等しい事は想像に難くない。
猿でもわかる話だ。
魔術学校演習場。
広さは50m四方
演習場の外周には、魔術結界が刻まれる。
魔術の衝撃を外へ逃がさず、炎も雷も、氷も風も、その暴威をこの円の内側に閉じ込めるためのもの。
──リーシャの内部世界
一流の魔術師は、内部世界を持つ。
精神と魔術が結びつき、魔力の源泉がもう一つの世界として知覚される。
水精霊との契約を得て、リーシャはその領域に至った。
だが。
「言う事を聞いて!!!
水精霊ちゃん落ち着いて!!
学校が水没しちゃうから!!」
リーシャは、溢れる魔力を必死に抑えつける。
「殺す!!
クラリッサ・グランディール!!
絶対に殺す!!」
そこにいた、青い髪の少女の姿をした神が、暴走しかけていた。
リーシャの魔力を通して、高圧水流が生み出される。
それは直進せず、空中でわずかに曲がると、クラリッサを追うように、軌道を変える。
さしづめ無数の誘導レーザー。
それは結界の一部を切り裂いた。
クラリッサは頑張って避けた。
リーシャは、半泣きで嵐のような魔力の制御を続ける。
──どうしよう!!全然言うこときいてくれない!?
──いつも静かでいい子なのに!!
(水精霊は、クラリッサさんに対してだけ物凄く好戦的になる!!
とゆーか怒り狂ってる!!
殺意すら覚えているのでは!?)
「死ね。クラリッサ・グランディール!!」
精霊は、リーシャの内部世界で静かに手を掲げた。
続いての魔術。
海召喚。
気づいたリーシャの顔が青ざめた。
「まずい!!
それは、ダメ!!
本格的に学校が水没する!!
洒落にならないから!!!」
「リーシャお姉ちゃんは、甘すぎるの!!
これくらいしないとクラリッサ・グランディールは殺せないから!!!」
「殺しちゃだめだから!?!?」
「殺すの!!」
巨大な桶をひっくり返したように水が召喚され、
溢れた水により演習場の環境が更新された。
魔術の結界は、半球を描く。
結界内で膨大な水が轟音とともに空間へと流れ込み、水位が上昇していく。
観客の生徒たちのざわめき。
魔術の規模が、明らかにおかしい。
壊れないはずの結界が撓みひびがはいっている、
崩壊までは、間違いなく近い。
その間にも結界内の石畳が海に沈み、結界の内側に、波が立つ。
そしてそこに、その海をかき分けるように高速の波しぶきがあった。
「アレは……」
観客として見ていたマリアは思った、
──アレは、バタフライだ!!。
(両腕を同時に水面の上へと振り上げ、大きな弧を描いて前へ叩きつける。
その勢いで水を押し出し、体を海面から跳ね上げるように進む泳ぎ方。
以前お嬢様に見せてもらった泳法の一つ。)
美しいフォーム。
まるで、海を狩る獣。
――シャチ。
魚雷のようにクラリッサは泳いでいた。
荒れた水面を切り裂き、巨大な水の演習場を迂回するように進み、そしてリーシャの視界からクラリッサの姿が消えた。
(どこ?
クラリッサさんが消えた!?)
リーシャが周囲を見回す。
その一瞬。
隙を見せたリーシャに、クラリッサは杖を投げた。
杖は一直線に飛び、
的確にリーシャの魔法障壁へと突き刺さる。
突き刺さった理由は簡単。
速度✖︎重量だ。
(どこから?)
──リーシャお姉ちゃん!!後ろ!!まわりこまれてるの!!)
「あだ!!!」
杖は魔法障壁を貫き、リーシャの後頭部に直撃していた。
リーシャの悲鳴が響いた。
ザバーん。
魔術の制御が乱れ、リーシャが水底に沈んでいく。
水精霊は、舌打ちするように水の制御を解除する。
途端に水が退いていく。
やがて水が完全に引くと、クラリッサは歩み寄り、杖をクラリッサは拾った。
「まだまだねリーシャ。」
──水ははけた。
(よし。ここからだ!!)
「クラリッサ・グランディール失格!!
杖を投げるな!!」
「……え?」
「え?じゃない!!
ルールを確認しただろう!?
戦闘不能。あるいは杖を落としたものは敗北だ。杖は、魔術の発動媒体だからだ!!
というか杖を投げるとは何事だ!?」
クラリッサは知った。
というか知らなかった。
魔術師って杖を投げちゃだめなんだ!!
そしてクラリッサは、職員室に呼び出されていた。
ローデンカイン。
元王宮魔術師。
担任だ。




