111話 完璧なる結末を迎えたクラリッサの結末
潮風が吹き抜ける桟橋の上。
《竜の牙》に向けて、クラリッサは手を振る。
声は明るく、どこまでも屈託がない。
「バルドさん。
グランディール領にいつでも寄ってくださいね!!
お土産たくさん渡すんで!!
具体的には肉を。」
「お、おう。そのうちな。
じゃあな。」
「あ、ちょっと待ってください。」
そう言ってクラリッサは、バルドの肩を触る。
(……やはり圧倒的な筋密度とボリューム。
筋緊張も少ない。
骨格も巨岩の柱ののようだ。
栄養が違う?しまった。食生活は聞き忘れた……私としたことが……迂闊……)
その瞳は、研究者のそれ。
「なんだよ。
別れが名残おしくなったのか?
お前、そんなたまじゃねえだろ。」
「ショルダープレスで150は固いか……
ベンチは180もいけるかもしれない。
自重だけでこれか……
もしかしたらマリアを通してトレーニング理論を進化させたのかもしれない。」
「いや、怖いから。」
信仰、交流、監視、
祈祷、祭礼、巡礼、観光、
水精霊の為に人の往来と視線を常に集める仕組みづくりは終わった。
利益が出るのは数年後にはなるだろう。
だが長い年月が経ち、やがて今代の精霊の契約者であるリーシャが老いて死んだとしても、水精霊が休眠することはもはやない。
彼らは、その一大事業の基礎を数日のうちにやり遂げた。
グランディール領兵――千人。
レベルの暴力を用いた。
兵士たちは、戦場の片付けに慣れていた。
瓦礫の撤去。
資材の運搬。
仮設の建築。
彼らの手によって、島は急速に整えられた。
橋の補強。
崖の固定。
道の整備。
戦場は、超特急ではあったが次第に災厄を克服し、災厄が訪れる前の土地へと戻っていった。
役目を終えた彼ら1000人も、やがて彼らの戦う場所へと帰っていく……
命令に従い。
今回の騒動。
それは正しく災厄だった。
空から海が落ちたりした。
それは同時に政治資本として、信仰制度に変換し恩に変えられた。
そして恩は使うためにある。
王家。
教会。
貴族。
商人。
この島は、やがて多くの人間を呼び寄せるだろう。
アルシェリオン王国だけでなく、世界中から。
巡礼。
観光。
外交。
取引。
さまざまな思惑が交差する場所になる。
クラリッサは小さく笑った。
「……ふふ。」
海風が設計図をめくる。
馬車にのり、クラリッサの髪もなでる。
この島はこれから、さまざまな用途に活用される場所になる。
祈りの地になり、
休養の地になり、
そして――
(まあ、少しは寂しくないでしょ。これで。)
大体、何億年も生きていながら寂しいってどういうことなんじゃい。
慣れろや。
──夏が終わる。
やがて世界を襲った災厄が落ち着きが見せた頃、
クラリッサは学校にそれを提出した。
学校そのものが休学していたが、復学したのだ。
後日。魔術学校。
クラリッサは意気揚々と、上記をレポートにして、夏合宿の成果として学校に提出した。
トレザール領リゾート計画が軌道にのれば、10年とたたず国家予算の一部を賄える利益を出せるだろう。
概算で7%ほどになる。
その計算過程と根拠を出していく。
聖女を経済資源として数値化し、国家財政モデルに組み入れたものだ。
実際そうなる。
完璧なレポート。
実際の事実をもとにした、あまりに危険なレポート。
──さらに、この聖女顕現地を核とした観光信仰経済モデルは、王国経済における新たな成長産業となりうる。
その危険すぎるレポートを見て学校は、思った。
何やってるんだろう。こいつ。
「ねえマリア聞いて。」
夕暮れ。やり遂げたようなクラリッサの表情だった。
心無しか白い灰になっていた。
「どうしたんですか?お嬢様。」
「夏合宿、マイナス評価だったの。
出したレポートのテーマは「聖女を利用した、国土開発計画とその改善点」。」
「え……魔術関係なくないですか?
なんか赤くないですか?文字。」
「ふっ……赤点ね。
補講案件よ。
その上、利益までありのまま計上したら、国家機密を漏らすなと国からもクレームきたのよ。
学校からも、聖女を経済効果に利用するな。死にたいのかだって。
ねえ。おかしいと思わない?
産業構造って学術的な価値もあると思うの。
時代を先取りしすぎたかもしれないけど、カテゴライズできないものをカテゴライズすることで、人は文明を進めてきたと思うの。
トレザール領リゾート開発計画は、国家経済への長期寄与モデルにもなりうるから、実用性も極めて高いのに……
ねえ。
おかしくない?
マリア。」
首を傾げて、本気でクラリッサは疑問に思っていた。
マリアは思ったという。
(いや、何から何までまちがってます……)
何やってるんだろう。お嬢様って。
やがて、その日の授業が終わり、クラリッサは足早に立ち上がる。
「さて。」
「あ、お嬢様。どこにいくんですか?」
「筋トレよ。
行く?」
「はい!お供しますね!! 」
気づいたようにクラリッサは言った。
「そうだ。リーシャも暇そうだし、誘っていきましょう。」
「多分、やらないと思います」




