109話 海合宿イベントエンディング
少女が、洞窟の地べたに正座していた。
きちんと背筋を伸ばし、手を膝に置き、妙に行儀よく正座。
その周囲には、泉の水が静かに揺れている。
少女の髪は水のように透き通り、空気そのものが彼女に従っているようだった。
水精霊。
神に等しき、古き精霊。
──この姿は仮初。
(神のうつしみ。
生物との交流用の生体模倣ユニット。)
仁王立ちで腕を組み、クラリッサはその生態ユニットを威圧していた。
──言うだけは言う。決めていたから。
(不敬だろうか、神罰だろうが、なんだろうが知らん。)
「ねえ。
あなた水精霊よね。神よね。
なんで、リーシャを暴走させたの。
世界終わっちゃうでしよ。
文句の一つや、二つや、百くらいは言わせてもらうから。」
「……面目ありません。」
水精霊は怒られる子供みたいに、ちょっとしゅんとしている。
「休眠から起こしてくれた人に、力を渡すのはわかる。
だけど、はしゃぎすぎ。
世界壊れかけたんだけど。
なんで力を渡す前に、それが制御できるかわからないかな。
剣を持つ筋力を持たないものが、剣をもったらどうなるかなんてわかるでしょ?」
「はい」
クラリッサの説教は続いた。
死にかけたので私怨もあった。
パワハラ気味のOJTが展開されていた。
「精霊なんだから、ちょっとは、超常パワーを制御にわりましょーね。
チェック項目ないの?
暴走したとき止める仕組みのフェイルセーフとか!
局所運用試験とか!!
報連相とか!!!
そんなん、人類ですら社会のいっちゃん最初に教わる業務の基礎だから!!!!」
完全におまいう案件。
水精霊は
ギャン泣きしだした。
「だって。
だって!!寂しくて……」
「お嬢様!!ひどいです!!
こんな少女をいじめるなんて!!」
「いや、何億歳とかだけどそいつ。
その姿。擬態……
というかマリア。
なんで、拳を握りしめて完全にマジになってるのよ。」
「何億歳でもダメです!!
心を見てください。」
「あのねえ。
そう言って人は人を、簡単に騙すから。
何見てきたのよ今まで。
貴族社会をずっと見てきたでしょーが。」
「この子は大丈夫です!!」
「ねえセレスティア。
マリアって神を子供扱いしてるんだけど。
これは不敬じゃないの?」
「うわ。お嬢様!!それはずるい!!
セレスティア様の見解を聞くのはずるい!!」
「だって、マリアが正論を言うんだもん。」
「お嬢様、実はものすっごく図星だったんじゃないですか!?!?
水精霊様の機嫌損ねたら、世界滅ぶって教えてくれたのお嬢様じゃないですか!?!?」
「対話の為に、水精霊はわざわざ生体ユニットを用意するんだから、このくらいじゃ滅ぼさないから。大ジョーブだって。」
「そのクソ度胸はどこからくるでしょうか!?
それでも子供を泣かせていい理由にはなりませんから!!!」
「クラリッサ。
神も、自分の事を棚に上げて、子供にパワハラするあなたにだけは、指導とか言われたくないでしょーね。
水精霊も反省しています。
リーシャさんは、もう大丈夫みたいですし。」
「いーえ。ダメです。
リーシャが、良くても私がダメだから。
だからだめです。」
「すでに精霊は、わかっていますよ。
あなたに言われずとも。」
「そーですよ!お嬢様!!」
「うぅ……」
水精霊は、ぐすぐすと泣きながらマリアの袖を掴んでいた。
──いや、そっちになつくんかい。
(精霊って母性で攻略できるんだ……
リーシャも胸が大きいし、そんなもんなんだろう。
世界の真理って浅いわね。)
肩をすくめた。
「仕組み化してないから、こうなるんでしょ。
神のケアレスミスで世界壊れたんじゃたまったもんじゃないのよ。
神の寿命は長いんでしょ。
なんなら、同じような事がちょいちょいあったんじゃないの?」
水精霊は固まった。
──あったんだ。
「……仕組み化とは?。」
「休眠を防ぐ為の仕組み化。
設計図は書いたけど、ブラッシュアップが済んでない。」
レポートが差し出された。
セレスティアは思った。
いつ書いたんだよ。こんなの。
パラパラとセレスティアは設計図をめくる。
──なるほど。
(今回の災厄の復興計画を付随して、水精霊への信仰を集める仕組みを作る。
さらに信仰の循環を維持し、水精霊の休眠状態を予防。
信仰の季節イベントを分散配置し、祈祷の頻度を年間スケジュール化。
相変らず頭が切れる。)
だけど。
「筋トレ設備はだめです。」
「え?
なんで?」
「それがわたしが手を貸す条件です。
魔王戦線の二の舞にはさせません。」
「ひどいよセレスティア。
それはひどいって。
私、そのために頑張ってたまであるのに!!!」
「ひどくないです。
あなたが頑張ってたのは、友達のためではないのですか?」
「人は浮気する生き物だから。
それが神の用意した、人類の基本的な生物的設計だから。」
「だめったらだめです。絶対にだめです」
「セレスティアあああーーー!!!!」
セレスティアは去った。
クラリッサは絶望のあまり床にへたりこむ。
ぶつぶつ言っている。
「お嬢様。
聖女様、すごく頑なでしたね。」
「ひどい……
ぐっすん。
いいじゃない……ちょっとだけ聖女信者を丸ごとたらふく唆して、聖なる戦士を全員をマッチョにするくらいで、なんであんなに怒るのよ……
そのくらい、みんなやってるじゃない……」
「……」
誰もやってません。
「しょうがない……
せめて来るべき筋トレ大会の為のステージ設計だけでも、計画図に入れておこう……
用途不明な感じで。」
まだやるんだ。こりない。
そう思う、マリアだった。
そのレポートには大きな文字でこう書かれていた。
トレザール領。
大リゾート地計画。
水精霊は、マリアの袖を握ったまま、
そっとリーシャに聞いた。
「リーシャお姉ちゃん……きんとれ、ってなに?」
リーシャは少し考えた。
「……筋繊維と世界を壊す可能性のある、大人の嗜みかなあ……」




