101話 レヴィヤタン討伐2
海が割れる。
それはすさまじい光景だった。
誰もが目を疑った。
砂浜の司令部。
後続の部隊。
橋の上で戦う兵士達。
魔物すら。
重力の断罪を受け、大海原は裂け、深淵がその底を晒す。
蒼は断たれ、白泡は天へ噴き上がり、墜ちた巨獣――レヴィヤタンは、その中央に縫い止められていた。
──ぶおおお……
レヴィヤタンの悲鳴が、汽笛のように空気を震わせて戦場を裂いた。
砂浜で結界を構築していたセレスティアをして、驚愕をもってそれをうける。
「あれが噂の竜狩りの英雄マリア。
すさまじい力です。
重力大剣を完全に使いこなしている……
あの力は、高位魔族にも匹敵しますね。」
「本人に自覚はないけどね。
大丈夫?セレスティア。
レヴィヤタンのビームは、さすがの貴方も応えたみたいね。
でかいだけあって、出力が馬鹿げてる。」
「正直危ないところでした。
結界がいつ崩壊してもおかしくなかった。」
儀式陣でセレスティアは、砂地に腰をついていた。
クラリッサから伸ばされた手をつかみ、セレスティアは立ち上がる。
「手は震えますが問題はありません。
少し休めばまだいけます。」
「さすがね。」
セレスティアが大丈夫そうだったので、クラリッサは、次に柱をつかんだ。
柱は、儀式陣の近くに林立していた。
丁度、海岸と海を見渡せる、少し高台気味のそこに。
柱の作成者はセレスティア。
戦闘前に、クラリッサが依頼して、セレスティアが、地形操作で、疑問を抱きながらも用意していたものだ。
長さ、質量、密度まで厳密に指定されていた。
「剣を持つ者が、何が聖なるかを決めるってね。
今度はこっちの番。」
「……あの。クラリッサ。
柱なんて掴んで、何を?」
「決まってるでしょ?クソ鯨に教えてあげるのよ。
力は正義。激しく同意する。
なら最強は私。
つまり援護射撃するから。
セレスティア、早くバフもらえる?時間ないんだけど。」
「さらりと言ってますが、意味が……これ柱なんですが……
まあいいです。嫌な予感しかしませんが。
わかりました。強めの奴でいいんですよね?」
「最強の奴でお願い。」
セレスティアの困惑しながらのバフ。
聖性身体強化。
セレスティアの指先から、光が紡がれ、クラリッサは力の充実を感じる。
クラリッサは不敵に笑った。
「桃白白って知ってる?
教えてあげるよ。」
柱は投げられた。
次の瞬間、柱が消え、視認できぬ速度で空を裂いた。
(命名。≪人腕で撃つ神杖≫)
ルビ長すぎで( `・∀・´)ノヨロシク
音は遅れてやってくる。
重力の檻に縫い止められたレヴィヤタンへ
爆ぜる衝撃波。
橋上の空気が根こそぎ引き剥がされ、兵の外套が逆巻き、海面がめくれ上がる。
橋の空気が引き剥がされ、柱は一直線に天を走り、
蒼穹に、一本の白線が刻まれる、
神殿のような支柱が、今や神罰の矢となり、柱はレヴィヤタンの胸鱗に白い閃光を弾けさせた。
どごおおおおおおおおおッッ!!!!
大海が逆巻き、裂け目はさらに広がり、泡立つ白波が天へと噴き上がる
その中央で、重力に囚われたレヴィヤタンの鱗が砕け、肉が抉れ、
巨獣の身体がわずかに仰け反る。
バルド・ガルディウスは叫ぶ。
「何が起きやがった!!!!」
「お嬢様の援護射撃です!!!!」
マリアは叫んだ。
柱がレヴィヤタンに深々と突き立っていた。
まるで天が下した杭。
逃げ場はない。
空が爆ぜるように衝突し、その瞬間に音が追いついて海が震えた。
柱は、今もなお巨獣の鱗を砕き、肉を裂き、骨を震わせてる。
「バリスタか!?」
バルドは叫ぶように言う。
──いや違う!!
──バリスタにしては矢があまりにでかすぎる!!
「でかいカタパルト……いや、あんな柱を飛ばせるカタパルトは見た事ねえ!!
あんな重い物をあんな速度で飛ばしたら、その瞬間に自壊するはずだ!!」
「槍投げですね!!」
「……」
バルドは固まった。
「は……?
や、やりなげ?」
「そうです!!お嬢様が類いまれな筋肉で柱を投げ飛ばし、動けないレヴィヤタンを狙撃したんです!!」
「いや、意味が……!?!?
それにあれは槍じゃねえ!!!
柱だ!!!」
「同じことです!!!」
「それは絶対にちげえ!!!」
「バルドさん!!
第二射が来ます!!備えてください!!」
思わず、バルドは海岸線を振り返る。
遥か彼方。
遥か向こうに、小さく見える陣地。
人の見分けのつかぬ距離。
小さく見える人影が、次の柱を持ち上げているのが見える。
「え、マジで普通に投げてるの!?これ!?!?」
「……お嬢様ですから!!!!」
マリアの声は誇らしげだった。
──ありえねえ!!人が豆粒に見える距離だぞ!?!?
小さな影は着々と準備を進めていた。
神殿ような支柱を、片手で。
くるりと肩で回し、構え。
──目標捕捉《Target locked》。
──発射《Fire》。
その距離を、人の腕力で埋めるべく。
「おい待て。──まじでやめろ!!」
バルドの制止は遅い。
蒼穹に再び白線が走り、着弾。
音は、また遅れて来る。
音は遅れて聞こえ、海は二つに割れ、そして。
どごおおおおおおおおおッッ!!!!
レヴィヤタンの巨体に柱が再度突き刺さり、巨鯨はさらに海へと沈む。
「バルドさん、ここで決めますよ!!!」
マリアの声が号令となり、《竜の牙》が同時に動く。
呼吸は阿吽。
視線すら交わさぬ。
竜を屠った連携。
まさに牙を剥くように。
マリアが重力大剣を掲げた。
──重力軸、≪強制偏向≫。
偏向された重力により、空間が歪む。
海水が左右へ押し退けられ、巨大な溝が生まれ、海低が露出する。
海が割れ海底へとレヴィヤタンは縫い付けられる。
バルドが吠える。
「今だ!!野郎ども、仕留めるぞ!!」
──挑発要塞。
バルドの隣の大盾を背負った巨躯の戦士。
重力に縫われたレヴィヤタンの視線が,彼に固定され、巨獣の意識が引き寄せられる。
その刹那、長弓を携えた細身の射手が動く。
放たれた矢は三条。
──致命刻印。
矢は爆ぜず、穿つ。
魔力が傷を広げ、防御の流れを乱し、巨獣の体内魔力が、乱流を起こす。
一本は眼。
一本は鰓。
一本は、先の柱の刺さった傷口。
──凍結拘束。
白銀の杖を持つ後衛の魔術師が、詠唱を終える。
レヴィヤタンの足元の大地に巨大な陣。
そこから、水分子が震えて残された海水が凍りつき、レヴィヤタンの逃げ場をさらに奪う。
この時点で拘束は二重。
重力と氷。
巨躯は、動きは封じられた。
「おらあ!!」
前衛であるバルドは、跳び、叩きつけるように吠える。
──魔力斬撃。
「ありったけくれてやらぁ!!全部平らげて死にやがれ!!!」
竜の素材をふんだんに使って作成された、《竜鱗大剣》。
その一撃は竜のブレスにも等しく、そしてバルドの鍛え上げらえた肉体から繰り出される、衝撃に特化した一撃。
レヴィヤタンの巨体が、反動硬直する。
いずれの一撃も、並の魔物なら耐えられるものではない。
重力大剣の重力100倍。
音速に迫る柱の投擲。
《竜の牙》の連携。
レヴィヤタンは恐るべき耐久力でもって、それらすべてを受け止めた。
その瞳には怒りの色が宿る。
決め切れていない。
マリアは、迷いなくその剣を掲げる。
竜を倒し、竜狩りの称号を得た時もそうだった。
その一撃を繰り出すために、彼女は全ての迷いをそぎ落とす。
主より永遠と繰り返される無茶振りのタスクをこなす為に、培われ、養われたその鋼の精神力をもって。
マリアの声と共にそれが振り下ろされた瞬間、世界が一瞬だけ、静止した。
「一撃で決める。
堕ちなさい。」
剣は振り下ろされた。
──鯵の三枚下ろし
鯵を三枚に下ろすときのコツは簡単だ。
背骨に沿って、静かに引けばいい。
良い料理とは、良い素材と、正しい技術から生まれる。
音が止まり、空気が固まる。
そして。
レヴィヤタンは、3枚に下ろされた。




