100話 レヴィヤタン討伐1
ライウェイ。
それはライトウェイトを約した言葉。
諸説あるが、「軽い」という意味以外にそこに意味などない。
喉が裂けるように。
されど叫べ。
──ライウェイ
──ライウェイ
──ライウェイ
(死地こそ、死ね。
ただ行き、そして死ね。)
──No easy way.
(楽な道などない。積み上げろ。)
それは号令であり誓い。
突撃せよ。
一切、躊躇うな。
──屁でもねえ。
兵達は知る。
魔王戦線では、毎日がモンスターパレードだった。
状況はかなり酷似していた。
だが炎も、牙も、魔王戦線と比べれてしまえば、この群れなど、鯨の閃光など、戦いの幕開けにも満たない。
ならばこの程度の苦境など、躊躇のない献身にしたがい、蹴散らせ。
橋の上を、千の兵が再び加速する。
彼らの視界は、まだ揺れている。
網膜に焼き付いた青の残像。
耳鳴り。
震える足。
だが、立っているなら
「進め。」
戦意を、その命ごと刈り取るべく、レヴィヤタンの蒼光が喉奥に灯る。
第二射。
海岸に急造された仮想司令部の天幕。
本来は指揮の座であるはずのそこで、クラリッサは投石で参加していたが、その投げる手を止めざるを得ない。
「アラン!!被害は!?!?」
「少し削られましたが、大勢には影響ありません!!
セレスティア様の結界のおかげですな!!」
「さすがセレスティア。
人類の至宝!!
さあ、第二射がくるわよ!!」
第二射。
閃光とともに、セレスティアの結界が震え、空間そのものが軋んだ。
ビームは逸らされ、今度は空ではなく、水平線が白く消えた。
光が通過した軌跡に沿って、海水が左右へ弾き飛ばされ、
巨大な溝が海原を走る。
水が蒸発し、白い蒸気柱が連なって立ち上るように沸騰する。
轟音。
逸れた先の世界が、消えた。
──くそがぁ!!
──威力がえぐすぎる!!完全に戦略兵器!!絶対的に反則すぎる!!
(※おまいう)
(ビームの仕組みはこうだ。
何度もみりゃ、そりゃ誰だってわかる。
吸い上げ、
圧縮し、
混成し、
撃ち出す。
理屈は単純だ。
規模が大きすぎて、実際に止められるかどうかは、全く別の話だけど!!!)
レヴィヤタンの巨体で、海水を吸い上げ体内で圧縮。
魔力と混成し、超高密度の流束へと再構成する。
エネルギーが高すぎて、発射の瞬間に発光。
圧縮された水と魔力は、発射の瞬間、管状の空洞を生む。
それを一気に撃ち出すことで、前方の空気が爆発のように一瞬で押しのけられるが空気が逃げきれず圧縮。
空気そのものが「壁」になり、空気そのものがハンマーになり、次いで、光に遅れて衝撃。
この衝撃が実際に物を壊している。
結果として、世界を定規で引いたような、あまりにも整然とした直線的な破壊痕が生成される。
──人が築いた隊列も。
──練り上げた戦術も。
──覚悟も。
まるで裁断するかのように。
2射目にして、一気に部隊の前進が止まった。
レヴィヤタンの登場を、クラリッサは冷静に受け止める。
瞳の奥で、興奮が微かに揺れている。
──やはりきたわね。超越種。今回の作戦目標達成における、最大の脅威!!
「セレスティア!!まだいける!?
……あ、ダメージ受けてる……
だめそう!!」
結界を制御するセレスティアは、儀式陣で膝をついていた。
二回放たれたレヴィヤタンのビームの直撃を結界で逸らした代償は、明白だ。
明らかにグロッキーしている。
(ビームは、筋肉では正直どうにもならなかった、
まあ、とはいえ時間があったから、今回はしっかり対策打たせてもらったけど!!
でも逸らす事が精一杯!!
止める事は無理だ!!!)
「ここまでは、なんとかやり過ごせた。
でもセレスティアにダメージ与えるとは、さすがレヴィヤタン。
……骨がある。」
「あの巨体、早急に処理せねば前線が削られ続けますな。」
「活きがいいのはわかってた!!
破壊の規模は、腹立つことにやばいけど、なんとか想定通り!!
絶対直撃したくないけど!!
手は打った。
ここで絶対に仕留めるわよ!!」
(マリア。お願いね!!!!)
クラリッサは、メイドへの無茶振りに命運を託した、
第2目標。
クジラ型空中回遊大型魔物レヴィヤタン。
≪竜狩り《ドラゴンキラー》≫マリアとSランクパーティー≪竜の牙≫で対応。
また接近までの遠距離ビームは、セレスティアの結界で対応する。
橋上の最先端。
そこに辿り着いたバルド・ガルディウスは、そのレヴィヤタンの全貌を見上げ、ただ一言。
「でけえ鯨だな。おい。
全高は10m。ってところか。」
(※参考:ボーイング737
高さ:約 12.5 m
長さ:約 40 m)
重低音の唸りが、空気を震わせていた。
巨鯨が再び力を溜めるている。
第3射までの猶予は、幾ばくもない。
橋を守る結界は、見るからに揺らいでいた。
次に放たれれば、耐えられる保証はない。
「いけるのかよ。マリア。」
「お任せください。」
魔王戦線産のマジックアイテムを手にしたマリアが、そこにはいた。
重力大剣。
魔力を通した瞬間、周囲の空気がわずかに沈み、橋の石畳が鳴く。
「私は怒っています。
今回もまた、お嬢様はお怪我をされてしまった。
それどころか、今回は死にかけてしまわれた……
私自身の不甲斐なさに。
そして、直接的に危害をもたらしたあなた方に。 」
「完全に私情だなマリア!! だが、嫌いじゃねえぜ!! 」
「──一重力大剣。
──起動準備開始。」
マリアの装備は、幾重にも重ねられたアルシェリオン王国が誇る強化兵装。
魔力循環を極限まで高める、小回りを排した対巨大種特化の加護付与 。
それらが、重力大剣の上位スキル発動のための、躍動を始める。
──前段階。
≪鬼神脚甲≫。
機械のエネルギーが充電するように、マリアの両足のレガースに魔力が充実する。
──効果。所持者の生命すら削る破滅的な筋力極大上昇。
踏み込みだけで地盤がえぐれ、橋の石畳が爆ぜ、亀裂が放射状に走る。
剣を構え、その構えだけで地盤を抉る踏み込み。
宝玉が光の軌跡を描く。
両手の指に重ねられた、極細の魔導リング群。
≪深淵導環≫×6
──効果。魔力伝導効率向上。
胸元。 《耐衝撃のブローチ》。
──効果。痛覚耐性。
耳。 《集中のピアス》。
──効果。演算補助。
各種アクセサリーの起動、エンチャントオールグリーン。
出力臨界。
全バフ解放。
筋力最大出力。
「──重力大剣。
応えなさい。」
──重量100倍。
──世界崩壊。
そしてマリアは剣を振り下ろし、
海が割れた。




