ラブとコメディの比重
暗い暗い闇の世界に身を堕していると気づけないことがある。
明るい明るい光の世界が如何に、人と人との繋がりを尊び、大切にしているか。
人同士の繋がりを繋ぎ止める為ならば、自分が繋げられている糸を簡単に切って見せられる。
自分と現世を繋ぐ糸すらも。
『自分を振った相手を命がけで守護るだなどと、とても正気とは思えませんね』
『正気じゃないのはあなたの方でしょう!?』
割って入った女子生徒の正論は伶には届かず、攻撃の意思を眼から宿すのを取り止めてはいない。
『二人とも止まって欲しいのだが!』
そう発したのは私でも乱入者でもなく、争いを引き起こした羅嫵娘萌悪本人だった。
『止まって頂きたいのならわたくしを制圧することです』
『娘萌悪君逃げて!』
『そうじゃなくて、僕少し理解出来たんだが、今までやってきたことの愚かしさに』
『命惜しさの戯言ではありませんよね』
『違うんだが!ただ第三者の視点から見るとなんでこんなことしてたんだろうって、そう思わされたんだが......』
乱入者の手を神妙に触れる彼は、ハーレムを作りたいと言っていた時のすっとんきょうさも、趣味を公にしていた時の冷淡さも存在せず、そこにあるのは他人を慈しむ慈愛の精神だと確信を持たされた。
『僕がやっていたこういうことだったんだが、趣味と称して人を傷つける、他人の感情を鑑みもせずに、僕はなんてことを......』
『別にわたくしはそれを気づかせるつもりで決闘を仕掛けたわけでは......』
何気なく伶の口を押さえ、空気の読めない空気漏れを制止させる。
『アタシのこと好きじゃないんでしょ、思わせ振りなことはやめてよ』
人間であること忘却の彼方に置き去りにしていた乱入者も人間性を取り戻したようね。
『確かに好きなわけじゃない、だがそれで放置しているのも可哀想だ、だから僕と付き合ってください!』
『娘萌悪君......』
良いとこあるじゃん、と言いたいところだけれど好きでないことを強調しなくても良いんじゃないかしら。
『とは言っても今までやったことの責任を取れなんて言われたら、それはそれで困るというか、あと迷惑をかけたのはキミだけじゃないけどその娘達には別になにもする気はないっていうかなんていうか......』
うん、なんつーか、あんまし喋んない方がいいわねこの子。
『その......ゴメンなさいッ!!!』
『ッだが!?!?』
あれだけ保身に入られたらそりゃ断られるでしょうよ。
かくして慈愛ではなく自愛に満ちていた彼の狂想曲もとい伶の見学は有事に幕を閉じたわけなのだけど......
『どのようなお叱りも甘んじて受け止めます、兄さん』
ケガを負わせたことに関してはしっかりと愛住君からお叱りを受けていた、当然止めなかった私にも。
『決闘罪って教えたよね、とにかくすぐ人を襲うのはもうやめにしよう?』
『すぐではありません、考え抜いた末の行動です、それに兄さんをためでもありますので』
まるで反省してないわね、まったく呆れるわ。
『哀抔さん、キミにも言いたいことはあるんだからちゃんと聞いて!』
愛住君の説教は伶の奇行を止めに入らなかった私にまで波及した。
『ハイハイそんなデッケェ声出さなくても聞こえてるわよっと』
生徒会副会長らしくもない不真面目な回答は、生徒会長の説教を白熱させるのには十分すぎるほどの腹立たしさがあったのでしょう。
決して短くはない時間、私達二人は正論で殴られ続けた。
それはラブコメを見ている時よりも長い時間を体感していると思わせる威力と退屈さが顕在していた。
結局お叱りが終わる頃には夕日も暮れていた。
『もうすっかり夜になってしまったわね、伶が決闘なんか仕掛けるからよ』
『わたくしにお任せになったあなた様も同罪ではありませんか?』
『二人共ケンカしないでってば!』
『だいたい説教が長過ぎるのではなくて?キ・ミ!』
『まだされ足りないんだ?』
『さて急ぎましょうか、もう外も暗いし』
『やれやれですねまったく』
『アンタが言うんじゃないわよ、だいたい何故私達についてくるわけ?』
『決まっているでしょう?わたくしは本日より兄さんと同じ屋根を共にするんです』
少し考えればわかりそうなことに気づかず、必要以上に驚いてしまった私はさぞ滑稽に映ったのでしょう。
私の精神が滑らかさを失ってざらざらとした感触を帯びただせる。
何故私の精神がつかの間の穏やかさを喪失しているのだろう。
愛住怜という厄介者と暮らすことになるからか、それとも......
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




