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ケンケンカッカ

 譲ることの出来ない意思と意思がぶつかる様を、人は修羅場と呼ぶ。


闘争の果ての凄惨な結末。


その渦に呑み込まれかけもした。


だが私は生き延びている。


多少なりとも修羅場を潜り抜けてきたつもりだ。


単なる揉め事やケンカだけでなく、命の取り合いまでも。


しかしそれは当事者としてのこと。


第三者として修羅場に立ち合ったことは無いに等しい。


見舞われるのではなく、目撃しているというこの状況。


放ってなんていられない、依頼と関係があるのかもしれないから。


生徒会副会長の肩書きを言い訳に、私は修羅場に突入する。


『落ち着きなさいな二人共』


『うるさい!部外者は引っ込んでなさいよ!』


とりつく島もない彼女らは悪鬼のように思えた。


マジで発砲しようかな、などと考えている間に見学者が割って入る。


『はしたない罵声を浴びせていないで深呼吸でもしてください』


私の話を聞かずに介入した愛住怜(あいずみれい)に、精神(こころ)の奥底からマグマに匹敵せんばかりの怒りがこみ上げ、それを発露させる。


対象に向かい、怒りを宿した拳の一撃を、寸前で受け止められる、片手だけで。


『不意打ちとは物騒なお人ですね』


『アンタが言うんじゃねーわよ』


『なにをお怒りになっておいでで?』


『私はただ見ていろと言ったはずよ』


『そういう場合ですか?』


如何(いか)なる状況でもね、アンタが死の局面に直していてもなにもせずに黙って見ていろと言ったのよ』


『どうやらわたくしは嫌われてしまったようですね』


『わかってんならさっさと消えなさい』


『あの、ケンカしてるのならやめてくれませんか?』


修羅場はさらなるステージへ、進むことはなく修羅場を発生させていたはずの二人に逆に揉め事を止められる。


自分よりも怒っている人がいるとかえって冷静になるってヤツかしら。




『それであなた達はなにを揉めていたのかしら?』


お互いクールダウンをして心の内を開いてもらう。


『彼と仲良さそうにしているのを見て腹立っちゃって......』


『彼って?』


羅嫵娘萌悪(らぶこめお)君です、知りませんか?』


ラブコメの主人公になるために生まれてきたような名前だけれど、聞き覚えは無かった。


『申し訳ないけれど知らないわね』


『今の依頼人の名前ですね』


『なんですって?』


それが本当ならハーレムなんて夢のまた夢のように思えるけれど......


『というかなんでアンタが知ってんのよ』


『依頼人の名前ぐらい把握する物ではありませんか?』


そんなの教えられてないのだけれど。


『プライバシーを考えなさいよ』


『別に隠してはいないでしょう』


でもまさか彼女らのケンカが依頼人由来の物だったなんて。


ひとまず羅嫵娘萌悪(らぶこめお)についての情報を集めましょう。


『あなた達が取り合っている彼について教えて欲しいのだけれど』


彼女らが語った羅嫵娘萌悪(らぶこめお)という男子生徒は、提示される情報からは平々凡々とした造詣(ぞうけい)を想像させるが、特奇(とっき)とも思わせることがあった。


彼女らは彼に救われたのだという。


彼のおかげで今の自分があるのだと。


彼女らが羅嫵娘萌悪(らぶこめお)について語らう時の眼、そこから溢れる雰囲気は偶像を崇拝する者のそれであった。


だが気がかりがある。


『彼の嫌いなところとかあるかしら』


『ウワサ通りですのね、嫌いな物のことばかりお話しになるというのは』


『黙らっしゃい』


年頃の男女の関係ならば一つ位、気に入らない部分があるはず。


『ありません』


曇りの無い晴天の如き眼差しから繰り出されるそれからは、一切の邪念を感じさせない。


とても人間関係を築いているとは思えない。


『次にあなた達と彼の関係性をお聞かせてもらえるかしら』


『たまに二人きりで遊びに行くくらいの仲ですが......』


『わたしもそのくらいです』


二人共距離の近さは同じってワケね。


『二人で遊ぶ際になにか気に障ることをされたりは?』


『それもありません』


その言葉とは裏原宿に二人の眼が少しばかり濁っているのを感じる。


『わかりました、ご協力感謝します』


(きびす)を返して再び生徒会室へ。


『どうするのです?』


『とにかく依頼人の話を聞くのが先決よ』


嫌々ながらも慣れてしまった生徒会の扉を開ける。


だがそこに彼の姿は無かった。


『私が戻るまでここに居てって言ったでしょうに!』


『みっともないですよ哀抔(あいなど)さん、癇癪を起こすなどと』


『その減らず口を縫ってやろうかしら?』


『依頼人を放置してまでですか?』


『所詮は他人よ、それに恋愛なんてしても人生のムダよ、相談なんて受けてやっても依頼人が損するだけよ』


『可哀想ですわね』


愛住怜(あいずみれい)が私に向ける冷ややかな目線。


氷柱(つらら)の如く鋭いその眼からは、一切の情熱を感じさせない、そこにあるのは冷たさだけ。


熱と冷を合わせ持つとされる私とは別方向に人を寄せ付けさせない物が彼女の中に宿っていた。


『アンタに同情される(いわ)れはないわ』


『恋愛に盛ってばかりも鬱陶しいですけれど、愛欲の(しな)びたお方を見るのも、それはそれで悲しくなりますね』


『人をババアのように言うんじゃない』


『これは意外ですね、あなたの振る舞いからしてそのように見られるのは承知なのかとばかり思っていましたが......』


『アンタの顔をシワだらけにしてやっても良いのよ』


『その場合兄さんが黙っていないでしょうね』


『黙らせてやるわよ、あんなの』


一触即発の空気。


それを醸し出しているのは私達だけでは無かったようで......


『おい!屋上で痴情のもつれ起きてんだってよ!行こうぜ!』


まさかと思い、屋上へ向かい、イヤな予感が的中していたことを知る。


『わたしじゃダメなんだ?』


『そうは言ってないよ!僕はただ......』


言うなよ、ハーレム作りたいとか。


『女の子を散々振り回した挙げ句にこっぴどく振って沈んでるとこを見たいだけなんだ!』


ハーレムどこ行った?

この物語はフィクションです。

犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。

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