黒白の決闘
人を死に至らしめる刃が私に差し向けられる。
復讐の道を歩む私にとって、それ自体は今さら特別なことではない。
今重要なのは、愛住君の妹にナイフを突き付けられているということである。
妖しく輝く宝石のあしらわれ、繊細な花びらの紋章を刻み込まれたそれは、一瞬ほど私を魅いらせたが、間一髪で避けて見せた。
だが攻撃の手は緩まれない。
果敢なるナイフでも攻撃を避け、私の顔に目掛けられる蹴りを両手で受け止める。
『随分と大胆な行動に出るのね』
『夜の森林に人なんてそういないですから』
『私なにかあなたの気に障ることしたかしら?』
『兄さんは今まで多くの女性に言い寄られて来ました、当然財産目当ての人もいました、わたくしは兄さんを毒牙から守護りたい』
愛住君の為ならそれ以外の犠牲は厭わない、彼女の切なげな眼差しから、そんな覚悟が感じ取られた。
『毒牙だなんて随分とバカにしてくれるじゃないの』
なんて啖呵の一つでも撃ってやんないと気が済まない。
『わたくしにはわかります、あなたは暗黒に身を落としている、闇の住人と言い換えても良いでしょうね』
『だから追い出そうと?』
愛住怜の足を払いのけ、すかさず繰り出されるハイキックをも避けて見せた。
『光と闇は交わる無かれ、哀抔符夜雨さん、あなたは兄さんにふさわしい女性ではありません、ご自分でも良く理解していらっしゃるのでは?』
『勘違いしないで頂戴、私は愛住君に取り入ったワケじゃないわ』
『過程は問題ではありません、薄汚れた咎人風情が兄さんの近くを這いずり回るな、それが言いたいのです』
この様子だと私が援交に手を染めていることも、拳銃やナイフを所持していることも筒抜けか。
『お兄さんのこと、好きなのね』
『ええ、世界で一番』
『うらやましいわ』
姉とはこれっぽっちも仲が良く無かったから、より一層眩しかった。
だがそれは親族と仲が良いからではない。
仲が良くなれる親族を持てていることに、である。
目の前に個体として存在する光に線を描く。
愛住怜のドレスにナイフがかする。
『私が生きるのは復讐を果たす為、愛住君から引き剥がされることはどうでも良い、だけれど死ぬワケにはいかないわ、復讐を遂げるまでは!』
刃物には刃物を。
今度は私がナイフをけしかける。
純黒のドレスを身に纏う私と、純白のドレスを身に纏う愛住怜によるナイフでの攻防。
人気の無い夜の森林の中、二人だけの輪舞曲と洒落込んでいる。
ナイフ同士のぶつかり合い。
奏でられる金属による耳に障る音が、私の闘争心と復讐心に焔を付けた。
『復讐ですか、一人身で勝手にやる分には良いでしょう、ですがあなたには喪う物がある!』
つばぜり合いの最中、土手っ腹に入れられた蹴りは私を吹き飛ばすのに十分な威力だった。
『ふざけんじゃないわよ、これ以上喪う物なんて......』
ナイフも叩き落とされて尚切れるのは啖呵のみ。
『あなたは今愛住家の庇護下にある、それだけじゃない、生徒会に所属し、それはそれは仲良くやっているじゃありませんか』
口を挟む隙もなく、つらつらと続けられる。
『おわかりですか?あなたは無敵でもなんでも無いのですよ!』
満月輝く宵闇の夜、天使か妖精に似たなにかは、蹴飛ばされて倒れ込んだ私に急速に近づき、首もとに艶やかなる刃を突き付けた。
『あなたに選択肢を与えます、もし金輪際兄さんと関わらないと誓うのなら死への闇には誘いません、誓えないのならば......』
ナイフの刃先を突き立てられ、少量の血液が身体から流れ行く。
身体から力が抜けでり、めまいまで引き起こされる。
追い詰められた末に可能性への道を与えられた。
私の取る選択は決まりきっている。
初恋の人が自殺したあの日から。
『なんですかその反抗的な眼は、死の闇に沈みたいと、その意思表示と受け止めても良いのですか?』
尚も絶やさない、絶希混濁せし篝火の輝汚灯せし眼光。
『そうですか、ならば』
装飾を施されたナイフが私の首もとから離れ、今まさに私の頭へと振りかかろうとしている。
『死の先に光見らんことを......』
絶望の闇に彷徨い続け、いつの間にか光と闇の区別すら怪しくなっていた。
私が視る世界は、猛り狂う獣が如き闇と、トチ狂ったかのように乱発される点滅の光は、別物でいて同物に映らせた。
だが一点。
降臨せしめん天啓的一筋の光。
見逃すワケも無い。
死線へ導く刃振り下ろされん時、すんでの一瞬装飾ナイフを弾き出し、闇拭う救世機を取り出し、愛住怜の喉元へとチェックをかける。
『拳銃ですって?』
『今度は私が選択肢を与えるわ、これ以上私に危害を加えないのなら手を引いてアゲル、その約束が出来ないなら......』
引き金に指をかける。
『撃たずに済むならそれに越したことは無いのだけれどね』
『そちらこそわたくしを舐めないで頂きたい、生命を投げ打つ覚悟は出来ています!』
『ああそう』
引き金を引く最中鈍く光る投げナイフが視界に映り、とっさに蹴り飛ばし、再度拳銃を構える。
かたや愛住怜もまた投げナイフを構える。
『こんなところで死ぬモンか!!』
『死んでも兄さんを守護る!!』
決着の時。
発砲と投てき。
銃声に彩られる勝利者の行方は......
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




