愛住君と共同依頼
人の噂は七十五日なんて言葉もあるように、噂というのは定着せず風化しどこかへと姿を消す物である。
しかし高校生にとって七十五日は決して短くない時間でもある。
つまりその言葉を鵜呑みしたなら、七十五日もの間、アレを見せつけられることになる......
『結婚式の事件に巻き込まれたってホント!?』
『怪我はしておりませんか?』
『犯人はすでに死亡したそうですが、万が一のこともあります、だから警護させて!』
いつも通り愛住君と二人きりで登校、というワケにもいかず、大勢の女の子達と同行、大所帯になってしまっている。
あんな事件があったんですもの、当然よね。
だけれど......
『こんな大人数じゃ邪魔になっちゃうからアタシとだけで行こうよ!』
私の足を踏んだり、身体にぶつかるのは当然じゃないわよ。
あと愛住君がいい気になっているように見えて、なんかムカつく。
『朝っぱらから女子を侍らすとは良いご身分ね、もう少し清い生活を心がけなさい』
『そんなつもりじゃないから!』
『そうよ!訂正してお詫び申し上げなさい!』
あらあら朝からずいぶんテンション高いですこと。
『おやみなさんはよざーっす!』
男の子の集団が合流してきた、ただでさえ大所帯なのに。
『オレらも混ぜてくださいよ~』
『ちょっと!アタシらは愛住君一筋なのよ!他の男子に興味なんてないんだから!』
『連れないな~、おっと哀抔さんご一緒しない?』
忘れてた、私モテるんだった......
『それいいじゃない!ほらさっさと連れていって!』
私を男の子達と一緒に隔離しにかかるなんて。
愛住君と離れるの自体はいい、しかし彼の寂しそうな顔を見せられては、ほっとけない。
さりとて私と愛住君を近づけたがらないのは男子も同じ。
私を囲って身動きを封じられ、その間に女子ご一行は姿を消していた。
やっぱり慣れないわ、この校風。
ホームルーム五分前、ようやく教室にたどり着く。
遅刻ギリギリじゃないのよ......
朝から疲れるわ......
『なにくたびれてるの哀抔さん』
『理由くらいわかってんじゃないのあなたは、ちょっとは見てたでしょ』
『言っとくけど共同依頼の先延ばしはしないから』
『ちょっとみんな居るところでその話は......』
『キミと二人きりの生徒会室、楽しみだよ』
クラス中が殺気立つのが身体に刺さるように伝わる。
やっぱりサドねコイツ。
先日の結婚式の事件によって、私も疲弊しているのだけど気づいていないのかしら、愛住君は。
生徒会長様と二人きりで生徒会活動なんてより一層疲労を積み重ねるだけだというのに。
そんな私の疲弊情緒に気づいてもいない様子である。
『それじゃ始めよっか』
満面の笑みである。
私は今どんな表情をしているのでしょうね。
愛住君と正反対の顔をしているのは間違い無いわね。
『失礼します、ご相談があって来ました......』
さっそくの依頼。
『どうぞ席へついてください』
思えば依頼に興じる愛住君の姿は初めて見るわね。
『それではお聞かせ願います』
『あの、ちょっと困った人がいて、その人を追い払って欲しいんですけど......』
ストーカー絡みかしら。
ふと依頼人と目が合う。
気のせいかしら、一瞬鋭い目付きをしていたような......
『ねぇ愛住君、こういうのは警察にでも任せれば良いと思うわ』
『まぁまぁ、とにかく話を聞いて見ようよ』
ホントお人好しなんだから。
『その困った人の特徴を教えてくれるかな?』
『えっと、髪は黒くて......』
うん。
『目は紅くて......』
うん。
『サイドテールで......』
うん、うん?
『援交だとかの黒い噂の立っている人です!』
私じゃないの。
『他にも聞かせて?』
私よ多分。
『恋愛に関わる物を否定してたり』
私じゃないの。
『自己紹介で嫌いな物を言ったり』
私じゃないの。
『人とコミュニケーションを取るときに嫌いな物を聞いてみたり』
私じゃないの。
『生徒会副会長をしています』
だから私じゃないの!
ストレート過ぎるわよ!
あと私のコミュニケーション術はなんで知ってんのよ!
『ありがとう、これなら見つけられるかも』
そう呟いた後、愛住君は依頼人の手を握りながら再度呟く。
『時間はかかるかもしれないけど、安心して、僕が護るから』
依頼人が目に見えて発情もとい興奮しているのが伝わる。
『ありがとうございました!』
扉も閉めずに出て行った依頼人。
というか私なにもしてなかったわね。
『あのさ愛住君、こんなんで良いのかしら?』
『彼女は僕に話を聞いて欲しかっただけみたいだから、それに彼女の言う困った人ってキミのことだろうし』
『僕は追い払おうなんて思ってないから』
『恥ずかしいこと言わないで頂戴!』
『それに私今回の依頼なんにもやってないわよ、こんなので良いの?』
『僕の仕事振りを見て欲しかったから』
モテるのを良いことに甘いセリフ吐いてただけでしょ。
満月が眩しく輝く夜。
事件からまだ少ししか経っていないというのに、今は驚く程に平和な空気が漂っている。
健康的かつ美味なる食事と快適な生活空間。
同居人である愛住君もメイドさんも人当たりが良く、今の私は恵まれているのだと実感させられる。
私はそれが恐ろしくてたまらない。
復讐を、私の生きる意味を忘れさせられるのではないかと、そう思わされてから。
『どうしたの哀抔さん、夜風にでも当たってるの?』
『少し考え事をしてたのよ』
私に向き合う愛住君は、妙に真に迫った眼差しをしていて。
力の入った腕からは私を解放する意思は見受けられなくて。
後ろに映る満月が美しく見えて仕方ない。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




