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上から出た発言、下から沸き出た怒り

 流血すれば痛みが生じる。


流している者だけでなく、流させている者も。


それが人間が人間として生きる為に必要な機能だと思われる。


私は今血を垂れ流している。


だが痛いのはそれだけが原因ではない。


身体への攻撃のみならず、精神への口撃を加えられているから。


『醜いのはテメエだろゴミが!具体性もない貴様なんぞが花嫁たるアタシに逆らうなよクソバカクズが!』


中身の無い罵倒が打ち付けられる。


行けば良かったと思っていた結婚式。


来てみれば殺人事件に巻き込まれ命の危機に晒される。


結局は同じなのかもしれない。


私が居ようと居まいと。


新郎新婦が離ればなれになるのを許してしまった。


忘れようの無い過去の記憶に誘われる。


結婚式に行かなかったことが申し訳なくなり、自宅を訪れ、せめてもの謝罪と祝福を伝えるために向かった。


そんな私を出迎えたのは首を吊った死体。


花嫁を奪われた私の初恋の人が自殺し、私はその現場を目撃した。


信じられなかった。


自分の目を、自分がいた場所を。


今見つめているモノを事実として認識すれば、私の心は行き場を失くし、壊れ崩れ去る。


だから(あざむ)きにかかった。


だけれど私の目に映るモノが、そうはさせてくれない。


ごく当たり前の日常として私の視界に入り、関わり、私に恋を芽生えさせたあの人が、微動だにせず冷たくなっている。


いつもそばにいると信じた日常の一部が消え去った。


余りに残酷な事実を前に、平常でなどいられず、気を絶した。


気を取り戻し、目を開けて真っ先に視界に入った景色はやけに濁って見えた。


私が恋した人はもういない。


今後思い出を作ることも叶わない。


私の生きる意味はもう存在しない。


後を追うことも考えた。


だけれど心に残ることがある。


私の初恋の人を死に追いやったあの二人はどこにいるのか。


アイツらを放置したままなんて、そんなの許せない。


私から初恋の人を奪った二人から、死に追いやらん程の絶望と、それでもこの世に留めるだけの怨念を私に与えた。


私から生きる理由も死ぬ理由も消し去って、結果生まれた復讐の亡者。


立て続けに衝撃的出来事が巻き起こり、私の情緒はメチャクチャにされて恋の感情を、その存在そのものを否定するようになった。


恋を、恋愛を肯定したら初恋の人の死まで肯定することになる気がして。


私が生きる意味を、存在する理由を持たないことを、私が世罪理(せつり)に負け、一生物のトラウマを刻まれたこともあるべき姿として認めることになる気がして。


だから私は否定する。


恋愛によって傷ついた者に出来るせめてもの手向けなんて言わない。


私の初恋の人を殺した奴らが憎いと、それだけの自分勝手な理由で。


過去への旅は終わりを告げて再び花嫁狂いと向き合う。


『別に特別似ているワケではないのだけれど何故でしょうね、思い出すのよ私の姉を』


『ああ?花嫁以外の話すんなやゴミ!』


『いつもいつも私を見下して、私の物を奪い、どこかへと消え去って行く、そんな姉をね』


『もっとハッキリ言えや!具体的によぉ!!』


『いちいち見下してんじゃねぇわよ!!花嫁狂いのアンタなんかより私の方が人間的に上なのよ!!』


『テメェェェェェェェ!!!このクソクズバカゴミがァァァァァァァ!!!』


四番の激昂と共に食い込み行くツタをよそにナイフで喉元へ突き立てかかり、私の身体から痛みが引き行く。


四番が私から離れてツタを抜かれたのだ。


『キレてかかっても自分の命は第一ってワケね』


『なんだとコラ!どういう意味だ具体的に言え!』


『なら言ってやるわ!やっぱり上よ私の方が!!』


雄叫びを上げて突進する四番の足を切りつけ、すぐさま距離を取る。


『息巻いた割りにはビビったんか!?ああ!?』


『アンタにビビる私じゃない』


拳銃を取り出して見せる。


『ハッ!拳銃如きで我が花嫁に敵う物か!』


定める狙いは決まっている。


照準を合わせた先は四番ではなくその上の方向。


吊るされたシャンデリアに向かって、殺人に酔いしれし狂い咲いた花嫁に鉄槌の銃弾を。


鳴り響いた発砲音が、もたらされた静寂よりも静かになった直後。


『どこ撃ってやがんだよ!そんなモンかよガッカリさせやがって!』


『ええそんなモンよ、アンタへの鎮魂の弾なんて』


シャンデリアが落ち行き、真上に居た四番は下敷きとなって活動を停止した。


美しい衣装を身に纏い、花嫁に魅いられその結果、自分以外の花嫁を殺しに回った殺人狂には相応しい末路ね。


人を下に見た言動を繰り返した四番を見下ろし、部屋を後にしようとドアに手をかけたその時。


空気の入った拍手が響く。


振り返った先に存在した男から感じる異様なモノ。


拳銃を片手にぶら下げた女と、シャンデリアの下敷きになっている女を見てこの男は表情を崩れていない。


『コレ、あなたがやったんですか?』


『アンタ何者?』


『ああ失礼、自己紹介がまだでした、俺の名前は下杉雷太郎(したすぎらいたろう)、そこで寝てる人の婚約者です』


狂った花嫁の相手を名乗られ、とっさに拳銃を突きつける。

この物語はフィクションです。

犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。

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