真っ赤な五等分
『ねーパパー、ジューンブライドってなんで六月にあるの?』
『それはね、六月にイベントが無さ過ぎて可哀想だから神様がでっち上げてくれたんだよ』
父はクズだった。
年端もいかないガキ相手に嘘を吹き込んでは悦に入る、どうしようもないクズ。
結婚の失敗例を間近で目撃しても尚、昔の私には恋愛だとか結婚の類いは輝いて見えた。
結婚式の招待状。
送られるのは初めてではない。
今もなお私の頭の中にこびりついて離れない。
私の初恋の人から招待されたあの時が......
あまりに無邪気な笑顔を浮かばせながら結婚式に誘う初恋の人を前に、おかしくもなりかねなかった自身の情緒を押し殺し、ヘラヘラと笑いながら断った。
心が壊れてしまいそうだった。
初恋の人と世罪理の笑顔が私の精神を悪夢へと誘い続ける。
再び悪夢が現実となって私の現実を侵食せんと顕現する。
『どうしたの哀抔さん、大丈夫?』
『大丈夫ってなにがよ』
『身体が震えているし、呼吸も乱れているから』
『震えてなんかいないわ』
『......結婚式嫌いだった?』
『好きなワケないでしょ、恋愛も結婚もホントくだらない』
『そっか、寂しいけど仕方ないよね』
『待ちなさい、行かないとは言っていないわ』
『あっ行くの?』
結婚式に行くのは正直言って恐ろしいけれど、それ以上に恐ろしいことがある。
『あなただけに行かせると手の届かないところへ飛んで行ってしまう気がして、だから私も連れていって』
震えた身体を必死に押さえつけ、決意を表に。
『急に恥ずかしいこと言うんだね』
『茶化さないで頂戴』
『嬉しいよ、キミにとって僕がそれだけの存在になっていることを知れて』
『そんなんじゃないわよ、ただあとで後悔したくないだけよ』
『いまさら恥ずかしがらなくてもいいよ』
『そんなことより、私達以外には誰が来るのよ』
『生徒会メンバーと光威さん、あとメイドさんもついてくって』
『生徒会のみんなとメイドさんはともかく、なんで光威さんまで......』
『仲良さそうだったから誘ってみたんだけど、不都合だった?』
『仲良くなんかないわよ!』
しまった。
ムキになったものだから愛住君が微笑してる。
『もう一つ聞かせて頂戴、誰の結婚式なの?』
『僕の親戚さ、昔から僕に優しくしてくれていたから精一杯祝福したいんだ』
『私は祝福するつもりなんてないのだけど、それでも良い?』
『きっと祝福する気になるよ』
『舐められたものね、絶対祝ってやらないんだから』
『意地の悪いことだね』
なんとでも言えばいいわ。
結婚式がなければあの人は......
二人の人を祝福する施設がそびえ立つ。
家族という呪いで一つの集合体と成り行く彼らは大勢の人から祝われ、二人は幸福の感情で包まれる。
しかし、光在れば闇もまた然り......
私には幸福とは正反対の感情が渦巻いていた。
結婚式なんてものが存在していなければ。
今でもそんなことを考えてしまう。
人々が幸せでいっぱいになる、そんな場所が存在していることに怒りがみなぎる。
私のこの汚ならしい感情に、たまに自分でもイヤになる時がある。
私の周りには、綺麗な感情で溢れているから。
『なんだか目頭が熱くなってきたよ』
それは早いわ愛住君。
『どんな料理が出るか楽しみだ』
食べに来たのね大神君。
『ウェェェイ!!結婚式だァァァ!!』
これは一概に綺麗と言えるかは別だけれどね。
『静かになさい上谷君』
『テンション低いんだから、フヨちゃんたら』
『高いワケないじゃない、知らない人の結婚式なんだから』
『愛住さんに誘われておいてそれとは、随分イヤみったらしいのね』
『これは意外だわ、まさか光威さんが浮かれているのを隠そうともしないなんて』
『沈んでいたら失礼でしょう?ここに集いし皆様方に』
浮きすぎて大気圏突破しないでね。
『どうして他人の結婚式でそうも浮かれられるのよ』
『だって運命の赤い糸で結ばれた二人の晴れ舞台なんですよ!?落ち着いてなんていられません!』
いつになく絶好調な絵園さん。
まぶしいったらありゃしない。
『お身体が優れていないようですね』
『ごめんなさい、こんな時にまで気を遣わせて』
『それが本分ですから、それにまだ腕も折れているのですし、あまり無理はなさらぬように』
『ええ、今は休ませてもらうわ』
『それじゃ僕が付き添うよ』
『こんな時にまでご一緒してくれなくてもいいのよ』
光威さんも睨んでいるから。
『キミは怪我人なんだから、少しくらい甘えても良いんだよ』
『今は甘えていてアゲル、でも見てなさい、次は私が甘えさせるのだから』
『それは楽しみ』
負のオーラを全開にする光威さんをよそに休憩所にお邪魔する。
愛住君と二人きりで、だなんて妙なウワサが立ちそうだけれど、仕方ないわね。
私に刻まれた傷は深く、もう消えることはないのだろうと、そう絶望する。
『ゴメン哀抔さん』
『どうしたのよ急に』
『結婚式に呼んだの、余計だったかなって』
『あくまでも私の意思で来たのだから悔やむことはないのよ、招待された時は驚いた、なんてモンじゃないけれど』
『驚かされたついでに聞かせて、私を誘った理由を』
読めてるけどね。
『哀抔さんに少しでも恋愛に興味を持って欲しかったんだ、だけど無神経だったようだから』
『そうね、結婚式なんて単語だけでも吐き気がするわ』
『でも安心して、いつかそうなった理由を聞かせてアゲルから』
『無理することはないよ』
『バカにしないで頂戴』
そこまでの仲になることもないでしょうけれど。
愛住君との談話。
長く持つこともない。
真に迫る悲鳴によって。
『愛住君!行きましょう!』
『危ないよ、キミは離れてて!』
『あんな悲鳴が上がってほっとけないわよ!』
悲鳴がした方へ向かい、現場と思われる部屋に入る。
真紅。
入ってすぐ目に入った色だった。
赤い色が部屋中に散乱としていて、幸せの絶頂とは程遠い印象を受ける。
そしてその色を撒き散らしたのは......
五等分に切り分けられた花嫁。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




