ムラムラしてもムダ
様子のおかしい人に絡まれてしまった。
魔力だとか精力だとか、そんなこと私にはどうでもいいけど、しばらくはその単語を聞くと思い出すのでしょうね、今見ているこの光景を。
『もしかして依頼ですか?』
『愛住君!目ェ合わせちゃダメよ!ほら行きましょ!』
『今イくって言った!?』
『どういう意味だと思ってんのよ!』
こじれ行きそうなこの状況は、愛住君のスマホから電話がかかることで、私に一抹の希望を抱かせた。
『ゴメン哀抔さん電話出てくるよ、すぐに戻るから!』
ちょっと置いていかないで頂戴!
なんて言う間もなく走り去っていった。
アレを理由に逃げようだなんて甘い考えだったのね。
にしてもなんだか逃げるようにも見えたのだけど気のせいかしら、電話ってのもホントでしょうね?
取り残されし私を待ち構えるのは腰を振って踊る変態及び不審者。
『御用ならば生徒会室の方で伺いますので』
『ウヒョッ!逆ナン!』
問答無用でつっぱねりゃ良かったかしら。
慣れてきたはずの生徒会室を前に妙な緊張が走る。
あんなのを入れて大丈夫なのか。
疑ったまま開けたその扉、閉じておくべきだったと後悔する。
『ウッヒョー!!ここのみんなで乱パですか!?』
その発言に凍りつく上谷君。
『乱パってなんですか?』
だが絵園さんは知らなかった、その言葉の持つ意味を。
『ああそれはですねェ、多人数でのセッ......』
『それで結局なんの用事でしょうか?』
『ああはいはい、依頼の方を少し』
『早速お聞かせ願います』
『いや~嬉しいな~、あなた見たいな人に話を聞いてもらえるなんて』
『良いから話しなさい』
『ちょっと良いか哀抔』
良いから話せと言った矢先に依頼人を待たせてしまう。
でも罪悪感なんて湧かないわ、変態だし。
『この依頼、一人で平気か?』
『私だけで大丈夫よ、だから絵園さんを退避させて』
『なにかあったらすぐオレらを呼ぶっス!秒で駆けつけるっスよ!』
『気休め程度に憶えておくわ』
私一人で相手するには荷が重いのかもしれない。
だけれど何故でしょう。
みんなを巻き込みたくないって、そう思ってしまったの。
あと大神君は乱パの意味知ってるのかしら。
『それではお話を伺います、どのようなご用件で?』
『アイドルのビキニ姿のコラ画像を作成してSNSで本人に見せたら嫌がられたんですけど、これ悪いのあっちですよね!?』
『イヤアンタよ』
呆れ果てるわ、どうもこの変態の頭には常識の二文字は欠けているのね。
というか恋愛の依頼でもないわね......
『いや僕悪くありませんよ!だってそのアイドル水着姿とか出してんですよ!?だったら別に良いでしょ!?』
『仕事で自分の意思でやるのと誰なのかわからない人に知らない内にやられるのとでは話が違いすぎるわ』
『僕そのアイドルに認知されてましたもん!誰かわからない人じゃないですもん!』
『ウソつかないで頂戴』
『ホントだもん!』
突き出されたスマホには、この変態とおぼしきアカウントがアイドルにウザ絡みしている様子が、てかよくこんなの見せつけられたわね、ウザがられてる自覚ないのね。
『認知されているとは言ってもネット上だけであるのなら多少の距離感、保つのが筋だと思うのだけれど』
『リアルでも会ってるもん!』
続いてお出しされたのはアイドルと変態のツーショット。
アイドルからあからさまにイヤな顔されていてよく残しておいたわね。
その鈍感さには感心するわ。
『あなたはもう少し人と距離をおくことを憶えた方が良いわ』
『アイドルのみんなと離れるなんて出来ません!』
こんな変態がそうやすやすと人の話を聞き入れるワケないわよね。
『だって僕アイドルと仕事してるんですから!』
呆れるわ、ホントに呆れるほかないわ。
『信じるモンですか』
『これを見てもですか』
私の目の前には何故か漫画の単行本が突きつけられていた。
『どうしたのよ、急に本なんて取り出して』
『この本の作者は僕です』
『アンタね、ウソつくのも大概にしときなさいよ』
『ウソじゃないもん!かれこれ二十年以上も関わってんだから!』
『アンタ見たいな変態がそんな長く......』
は?二十年以上?
『......つかぬことをお聞きしますが、アンタ何歳よ』
『ふぇ?あっしまった!』
ふぇ?てアンタ......
『僕高校生ですよ?十代後半に決まってるじゃん』
『思い切りしまった!とか言ってたのに』
『とにかく僕がアイドルになにしても文句を言われる筋合いは......』
『見つけたぞ!』
なんか警察来た。
『田辺洋痴漏!貴様をわいせつ、不法侵入、不快罪で逮捕する!』
まさか警察沙汰になるだなんてね。
イヤ予想つくか。
『自称漫画家のムーランこと田辺洋痴漏が逮捕されました、変態でした』
『このバカは容疑を否定し、取り調べに対し、魔力って当たり前に生命エネルギーとして認識されてるじゃないですか?つまり魔力イコール精力つか性欲と捉えるのが自然じゃね?などと意味不明な供述をしており......』
目の前で警察沙汰を目撃した夜はとても落ち着けたモノじゃなかった。
私まで捕まるのかと気が気でなかった。
所詮私も薄汚れた女だから......
にしてもまた変なのを相手しちゃってたわね。
これもすべて愛住君が私なんかを助けたからよ。
その愛住君は妙にソワソワとしているし。
『どうしたのよ愛住君、様子がおかしいわよ、それに変態の相手してる間に戻ってこないし』
『えっとその、哀抔さん』
『なによかしこまっちゃって』
『けっ結婚式に誘われたんだけど、一緒に行かない?』
警察沙汰をも越えうる衝撃。
あまりにも唐突な招待状は私をある記憶へ誘った。
消えることの無い傷を負わせた記憶へと。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




