それがセツリ
私には姉がいた。
眉目秀麗で穏やかな雰囲気、その上誰にでも分け隔てなく接する性格を持ち合わせていた、そんな姉が。
好かれないはずもない。
でも私は嫌いだった。
私の好きなモノをことごとく奪っていったから......
心身共に平常ではない状態にして、さらに異常事態へ。
私の初恋の人との結婚式以来行方不明になっていた私の姉が眼前へと。
『今までなにしてたのよ』
『ゴメン、それは言えない』
『私はいつもアンタらのことを考えていたわ、アンタが消えてからずっと』
『アタシ達のことを想ってくれてたんだ?』
『ええ、どうやって殺してやろうかってね!』
必死にナイフを振るおうとも、世罪理には届かず、頭から叩き伏せられる。
上乗せされる痛み、こんなのに怯んでなんかいられない。
抵抗する私を嘲るが如く、首を手で包み込む。
私の命を奪い行く、力の込められた手と、死に行く私を哀れみ嘲る眼差し。
世罪理が差し向ける凶器。
情念があるようでまったく介在していない、恐ろしく冷ややかな振る舞いに、思わず身体が縮こまる。
それは世罪理に刻まれたトラウマだけではなく、生きとしいける者すべてを喰らいかねない程の威力を感じさせた。
これを相手に復讐だなんて、やるだけムダなのかもしれない......
復讐はおろか命をも諦めたその瞬間、首から包み込む感覚が失われる。
『殺さないでいてアゲルわ、符夜雨のことキライじゃないし』
復讐対象にこれだけ弄ばれてだまっていられる私じゃない。
『舐めんじゃないわよ、私はアンタなんかダイッキライなのよ!』
振り絞れるだけの力を注いでも即座にねじ伏せられる。
これだけされているというのに、与えられた痛みによって声を発せなくなっていた。
『符夜雨のそういうとこ好きよ』
『でもちょっぴりムカついちゃった、だから......』
私の腕が曲がらない方向に引っ張られ、鈍い音を発し、激痛が走る。
私の片腕が意思に答えなくなる。
『今日はこのへんで勘弁したげる、まだアタシを狙うようなら殺しちゃうかもね、わかった?符夜雨ちゃん』
不敵かつ優和な微笑みを向けながら、哀抔世罪理は去り行く。
なにも出来なかった。
ただ私は遊ばれただけ。
視界が薄れる中、抱くのは無念のみ。
意識を取り戻せばまた自室のベッド、傷だらけの状態で。
殺せなかった、結婚式を乱入したあの男のみならず、世罪理までも......
『気づかれましたか』
『ウヒャッ!?驚かせないで頂戴!』
『こちらこそ驚きました、あなた様の大声で』
涼しい顔をしながらりんごをつらつらと剥くメイドさん。
まだ愛住君の家での生活にはなれていないから、一瞬夢の中かと思っちゃった。
『お身体の方はどうでしょう?』
『平気なワケないわ』
復讐相手になす術もなく叩きのめされれば、こうもなりましょう。
私が折られたのは腕だけではないのかもしれない。
『ところで、愛住君はどこに?』
『気になるんですか?』
『からかわないで頂戴』
『廊下の窓際で黄昏ていらっしゃいます、きっと責任を感じているのでしょう』
『責任ってなんのよ』
『またしてもあなた様が傷つくのを許す結果となった、そんなご自分が許せないのでしょう』
なぁにそれ、私は守られてやるつもりなんてないのだけれど。
なんだか腹立ってきちゃった、文句の一つでも言ってやらないと気が収まらない程に。
傷だらけの身体を起こそうとしても、メイドさんに静止を促される。
『ダメですよ安静にしていないと、哀抔様も今は怪我人なのですから』
『こんなのどうってことないわ』
心の傷に比べれば、ね。
『お願い、どうしても愛住君と話がしたいの』
胸を抑えて顔を赤らめるメイドさん。
私なにか変なこと言ったかしら。
『あなた様の上目遣いに免じて、今回は止めませんが無理はしないようにと言わせてもらいます』
『ええ、わかっているわ』
......私上目遣いとかしてた?
身体中に走る痛みを必死で耐えつつ、窓際で黄昏る愛住君を見つける。
『哀抔さん!?もう大丈夫なの!?』
『大丈夫なワケないわよ』
『それならなんで......』
『私は守られたいなんて思ってないんだから!』
呆けた表情を見せる愛住君を前に、私は気恥ずかしさを憶える。
『だからあなたが私なんかを助けるこたな......』
よろめき倒れかけたが、愛住君が私を受け止めてくれた。
『離しなさいよ......』
『そんな弱いとこ見せられて離すわけないよ』
『弱いってどういう意味よ』
『キミは今は怪我人なんだから、僕の好意に甘えてもいいのに』
傷ついた心と身体には、えらく魅力的なアプローチに見えたが、同時に恐ろしくもあった。
この手を取れば、私が私でなくなってしまうような気がして......
愛住君の手を振り払って、問い詰める。
『そんなことより愛住君、私になにか変なことしたんじゃないでしょうね』
『変なことってなに?』
『今日お客さんと会ったら胸が痛んでそれどころじゃなかったのよ』
『キミになにか仕掛けたりなんかしてないよ、それよりまだ援交とかやってるの?』
しまった、余計なこと言っちゃった。
『そんなんじゃないから!』
『ちょっと哀抔さん!?どこ行くの!話はまだ終わってないから!』
翌日の朝、何気なく教室に入れば、女の子達数人に囲まれる。
『覚悟は出来てる?哀抔さん?』
少しは労りなさいよ。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




