幕間劇 ValentineBullet
高校中が異様な空気を帯ただしている。
男子達がそわそわと落ち着きの無い仕草を。
女子達は気恥ずかしそうな態度を見せていた。
今日なにかあったかしら。
『哀抔さん、奇遇ですね!』
『あら絵園さん、ごきげんよう』
『え?あっごきげんようです!』
いつも楽しそうにしている絵園さんだけれど、今日はいつにも増している。
『本当にごきげんね、なにか良いことでもあったの?』
『皆さんの恋愛沙汰を堪能出来ますから』
あー......、なんというか聞きたくない類いを話しだったわ......
『確かに妙に色気付いているわね、周りが』
一体なんなのかしら。
『アレ?まさか知らないわけもないですよね、今日がなんの日なのか』
『祝日じゃないわよね今日は』
『バレンタインですよバレンタイン!』
完全に忘れてた......
『男子はともかく女子は楽しいのかしら、チョコを期待されてウンザリしてそうだけれど』
『そんなことないですよ!皆さんちゃんとチョコを渡せるか、とか喜んでもらえるかとかですよ!きっと!』
相変わらず乙女全開ね。
『あなたは誰か渡す相手とかいるの?』
『本命の人はまだいませんので、あっでも生徒会のみんなには渡しましたよ、義理ですけど』
ちょっと見てみたかったかも、その様子。
『はい哀抔さん、あなたの分もありますよ!』
私のもあるんだ......
『別にくれなくても良いのよ』
『哀抔さんにだけ渡さなかったら仲間外れにしてるみたいになりますから』
それはお優しいことね。
個包装された箱からはえらく純真な雰囲気が感じ取られ、フラッシュバックに招かれる。
私にもバレンタインを楽しんでいた時期があったのだと、昔を掘り起こされる。
出来もしないチョコ作りに励み、包装にも悩んで。
渡した相手は私の初恋の人。
あの時の笑顔を忘れてしまっていた私が、腹立たしくて仕方ない。
『哀抔さん?どうかしましたか?』
『あら?私なにか......』
『いえ、少し怖い顔をしていたので』
『あらゴメンなさい、なんでもないの』
『そうですか、ではそろそろ行きますね、ガンバってくださいね!』
『頑張るってなにに?』
『またまた~、チョコ贈りますよね?生徒会長に』
冗談お上手ですこと。
『ヒィッ!さっきより顔怖い!』
『私がそんなのやるワケないじゃない、第一今日がなんの日か忘れていたんですもの』
『照れ隠しじゃなかったんですか?』
『面白いこと言うわねあなた』
慈しんだ瞳が浮かばせてたわ、思わず。
『ヒィヤァッ!!こっこのへんで失礼しますッ!!』
あらら去って行っちゃった。
でも思えばこれまでにも何度か助けられてはいるのよね、愛住君には。
行きましょうか、お買い物に。
『哀抔さん、これはなに?』
『チョコレートよ?』
『いやカカオだよこれ!?どういう意図なの!?』
やっぱりアゲルことはなかったかな......
せっかくリボンとか付けたのに......
『愛住君なら原材料の方が喜ぶと思ったのだけれど』
『僕チョコ作れないし、あと匂うんだけどこれはなに?』
『お酒をかけたのよ』
『はい聞き捨てなりません、どういうつもりなの?』
あらら怒っちゃった。
『お酒の入ったチョコってあるじゃない?それを作ろうと思ったのよ』
あっタメ息つきやがってる、ムカつく。
『あのね哀抔さん、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずこれだけは念を押すね』
強大なる一撃の前兆の如き静けさを挟み、愛住君の攻撃が振り下ろされる。
『未成年がお酒買っちゃダメでしょ!!!』
うーむ、ごもっとも。
『なによ、買ったなんて言ってないわよ』
『じゃあどうやって手に入れたのさ』
『自販機で買った』
『正座しなさい?』
『なっなんでよ!』
『法に触れかねないからだよ......』
『第一誰かに見られてるかも、とか考えなかった?』
ホントに説教始まっちゃった......
『それにカカオだなんて、安くはないはずだよ』
『あら?私には収入があるのよ、これくらい買えるわよ』
『哀抔さん、前に言ったよね、そういうのはダメだって』
『アンタもどう?受けてアゲルわよ』
『一番お酒が入ってるのはチョコじゃなくてキミの方だね』
あら上手。
『上手いこと言えたあなたに座布団アゲルわ!』
愛住君に座布団を叩きつけ、さっさと逃げる。
負けじと追いかけてきたわ。
世の思春期達がはしゃぎ散らす日に、私達はなにをやってんでしょうね。
でもたまには悪くないでしょう。
異性とのおいかけっこも。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




