哀と愛の邂逅
今後を左右する決定的瞬間がいつ訪れるか、それは人間には知り得ないことだ。
だからいつでもその時に対処出来るよう、備えているものだ。
私にとってのそれは拳銃、どんな時でも殺したい人を殺せるように。
今その殺したい人と二人きり。
『会えて嬉しいよ符夜雨ちゃん』
『馴れ馴れしく呼ぶんじゃない』
私が拳銃を構えて見せると、青年の顔が少し険しくなる。
『歓迎されてはいないみたいだね』
『当たり前でしょ、私は貴方と世罪理を探す為にあの人の後を追わず生きてきたのだから』
震えた手で拳銃を握る私を青年が嘲笑う。
『案外カワイイトコあんじゃん、ホラ撃ってみなよ』
今すぐにでも殺してやりたい所だけれど、この男には聞かなければならないことがある。
『世罪理はどこにいるの?貴方が連れ去ったんでしょう?』
『言えるワケないじゃん、拳銃構えた子相手に』
『言わないなら撃つ』
私の脅しに青年は一切屈する様子が無い。
『あのさ、なんでそこまで必死になるの?オレなんかした?』
この男本気で言っているのか!?
『貴方が結婚式を壊し、世罪理を連れ去ったからあの人は......』
『まだあんな男のことを憶えてるんだ、ホント呆れるほかないね』
『あんな男ですって?』
『あのような下らん男のことの為に生きていたのか、全く悲しくなるね、君もまだ高校生なんだからもっと有意義に生きなきゃ』
『有意義にですって......?』
初恋の味に酔いしれていた頃の私は、今のように手段を選ばないというわけでもなく、合理主義でもなかった。
娯楽を娯楽として享受していた、それをアンタが......!
『死んで詫びろ!』
震えた手で引き金を引こうとするも、腕に衝撃が走り、血が流れ拳銃が手から離れた。
遠くから撃たれた、そんな気がした。
『残念だけどさぁ、オレに逆らっても無駄なんだよね』
血を垂れ流すってこんなにつらいことなの、私は撃たれた腕を押さえて悲鳴をあげる。
『健気な君に教えてあげよう、オレの周りには狙撃手がいる、そして君の命も握られている』
青年が余裕気に近づき、うずくまる私を蹴り飛ばした。
銃で撃たれるってこんな感覚なんだ、軽く引き金を引けば理不尽に対象を破壊する。
血を垂れ流す腕からは感覚をマヒさせんばかりの痛みが走る、でも初恋の人を失った痛みに比べれば......
起き上がろうとしても青年に押さえつけられる。
『オレは君に興味がある、もう逆らわないと約束するなら......』
『そんな人生歩んだって意味は無い!』
『そっか、なら仕方ないか』
青年が注射器を取り出して見せた。
これを射たれたらどうなるのか、恐怖で震える私を余所に青年はニヤケづく。
『殺しはしない、せいぜいオレの性処理の為に働いてもらうさ、なんせオレは良いヤクザなモンでなぁ!』
注射を射たれるその刹那、突如バイクに乗って現れた男が私を抱えて走り去る。
『撃つな!撃たんでいい!』
助かったの......?
死を覚悟した中での生還、安心という安らぎに私の意識は眠りへと誘われる。
『今回は見逃してやるぜ、オレは良いヤクザだからな』
目を覚ますと見慣れない部屋にいた。
小綺麗で洒落た雰囲気を放ち、お金と心に余裕があるのを想わせる。
『あっ気がついたんだ』
これまたいかにも御曹子という雰囲気を醸し出した男が駆け寄ってくる。
『さっきバイクに乗っていたのは貴方?』
『お礼は良いよ、にしても良かった助かって、ああ安静にしてて』
『なにも良くないわ......』
私の復讐相手を見つけた、そこまでは良い、だけどまさか反社会勢力だとは思っていなかった、あんなのどうやって殺せばいいの......
『まぁでもホラ、生きてるんだし』
ノウテンキな男ね、全く羨ましいわ。
『ああそれと君の拳銃は捨てておいたから』
『関心しないわね、人の物を勝手に捨てるなんて』
『関心しないのはこっちのセリフだ、銃刀法違反だからな、どこで手に入れたかは聞かないけど、なんで銃なんて所持していたんだ』
『あら?銃を持つ理由なんて一つじゃなくて?』
御曹子君がご立派にもタメ息をついている、タメ息をつきたいのはこっちなのだけど。
『君になにがあったのかは聞かないでおく、少なくとも今は、でも君のやろうとしていることは阻止させてもらう』
私達って赤の他人のはずよね?
『どうしてそこまでするの?まだ知り合ったばかりだと言うのに』
『だって悲しいから、人が人を殺すのも殺されるのも、それに君は根っからの悪人という訳ではなさそうだし』
呆れるほか無いわ。
『いかにもって感じのセリフね、私をダシにキモチよくなろうってつもり?笑わせないでよ』
『自惚れたようなことを言って強がって、やっぱり見ていられない』
『なら見なければいいじゃない』
『知った以上はそういう訳にもいかないさ』
『だったらどうすると言うの?』
『君から復讐心を取り除く』
『私が今生きている理由は復讐のみ、貴方は私から生きる理由を奪おうというの?』
『君に別の理由を与えて見せるよ』
なんだか上から物を言われているような気がするけれど......
『面白いわ、やれる物ならやってみなさいよ』
『交渉成立だね、僕は愛住恋、君の名前は?』
『哀抔符夜雨』
『急にどうしたの?』
『そういう名前だから......』
愛住恋がしきりに笑っている、アンタのも十分オカシイから。
『それじゃ早速だけど、明日から僕の通う高校に来てもらおうかな』
『いくらなんでも急すぎるわ!?』
『やれる物ならやってみろって言ったのは君だよ?』
なーんかメンドウクサイ予感......
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




