ばんさいバンザイ
不登校児の復帰の依頼は達成されていないと思われた。
そもそもまだ受けたばかり、こんなにも早く復帰というワケにもいかないはずよ。
では何故......?
『健太君、いえ海崎君、急にどうしたのよ』
海崎君もなんて言えば良いのかわからなそうな顔をしている。
『生徒会長の愛住恋です、悩みがあったらいつでも相談してね』
愛住君の屈託のない笑顔に複雑そうにしている。
晴れやかな表情も吹っ切れたような雰囲気も感じられない、本人の意思が変わっていない状態で無理矢理登校させられているみたい、まさか。
『おうおう健太じゃねーか!どうしたんだ今日は?』
昨日バットで暴れていた男が現れ、教室内に異様な空気が流れる。
この空間があの男の、万歳座凶の在り方とやり方の全てを肯定するかのような、そんな空気。
『まさかちょっと脅しただけで戻ってくるなんてなー、あのクソ陰キャオタクの健太が!ギャハハ!』
万歳座凶とその取り巻きの嘲りを無言でやり過ごす彼を見て、黙ってなんていられない。
『なにしに来たのよ万歳君』
『あれ?おまえ海崎の家にいたヤツじゃん、健気だねー』
『質問に答えなさい』
『そうカリカリすんなよ、ただいじってただけじゃねーか』
『いじりですって?』
『そう、愛のあるいじり、俺ってば優しいからねー』
『貴方のそれはいじりじゃないわ、イジメよ』
万歳が目を見開く。
『俺のやることをイジメと言ったか!!』
私めがけて振り下ろされる拳、しかしそれは制止される、愛住君によって。
『ケンカなら僕が相手になるよ』
『けっ、つまんねー』
愛住君の手を振り払う万歳。
『もうひとつ、貴方海崎君になにを言ったの?』
『はっショーもないこと聞くなー、高校来なかったら家族ごと殺すって言っただけだよ』
信じられないわこの男......
演説でもするかのような振る舞いを見せつける万歳。
『まったく、そんなその時その時の状況に甘えてばかりの、努力なんざ一切していないヤツを守ってなにが楽しいんだ?』
『随分と海崎君を知ったようなことを言うのね』
『だってそうだろ?あんな陰気でオタクで女に振られたのを理由に引きこもるヤツなんかが努力してるワケねー』
『なるほどね、貴方は一部分を見ただけでその人のすべてがわかったつもりになっているのね』
『つもりじゃねーよ、わかるんだよ』
『だったら私も断言してやるわ、万歳座凶、アンタほどのクソヤロウもそうはいないでしょうね』
『言うに事欠いて俺様をクソヤロウだと!?』
流石に黙っていないみたいね、万歳もその取り巻きも。
『貴様!努力してる人を否定するのか!』
『そうよ!我らが神に逆らうな!』
『あんなのが神ですって?冗談もいい加減にしなさい』
『万歳座凶様こそ絶対的神!このお方に逆らうヤツは死を持って償え!』
『万歳君は優しいのよ、海崎君のような男の子にさえも、そうよ彼の行いは絶対よ!』
『善い行いをしたから認められるんじゃない、万歳様のやることはすべて認められて然るべきなのよ!』
取り巻き達による狂乱の歌声が響く。
それは、相手の感情を考慮しているようには見えなくて、ただ我らこそが正しいと信じて疑わず、他者をひたすらに否定し、罵倒する。
『熱くなるのはカッコ悪くない!熱くなれ!夢中になれる物があるのは素晴らしい!俺と相互理解を深めよう!』
万歳の発言にまたしても私の感情は揺さぶられる。
『クズの分際で......』
『ああー?』
『クズの分際で綺麗事を吐くな!』
『クソヤロウの次はクズ呼ばわりか......』
『なにが熱くなれだ!なにが努力しろだ!なにが相互理解を深めようだ!アンタら如きが善人面するな!』
私の啖呵に愛住君も共鳴する。
『露悪的な人には思う所がある、なんでそうやって敵を作るのだろうと』
『しかしキミ達みたいに乱暴な物の言い方ばかりする人達にはあまりポジティブな言葉は使って欲しくはない』
『へー、生徒会の会長さんまで割ってくんのか、ならば勝負といこうじゃないか!』
『勝負ですって?』
『負けた側が退学するんだ、俺様とそこの......、苦粗温苗とでな』
『いいでしょう、受けて立ってやるわよクソヤロウ君』
『ちょっと哀抔さん、そんな簡単に......』
『大丈夫よ、私を信じて』
『......わかった、でも一人だけで解決しようと思いすぎないで、もっと僕達を頼ってくれてもいいんだ』
『貴方の心遣い、感謝するわ』
『最後のイチャツキは済んだか?場所は取り壊し直前の廃屋、時刻は午後五時半だ!』
目に物見せてやるわ。
休憩時間の廊下にて、囁かれる噂話。
対象は海崎君。
体育の授業で足を引っ張ったとか、下手なりに頑張っていただとか、ようは陰口ね。
案外この高校にもイヤな所は目立って見えるのね。
今後を占う時間がやってくる。
勝負だなんてなにをやらされるのか不安にもなりながら、廃屋に足を運ぶ。
瞬間、辺りがライトでまばゆくなる。
そして私の目に写るのは、全身が血で染まり、吊るされる海崎君。
『海崎君!』
『ギャハハハハハ!!ざまぁねぇなぁ海崎君よぉ!』
下品に笑う万歳座凶のとなりには、柊朝湖が収まっていた。
『柊さん何故そこにいるの!?』
『コイツは俺の女だよ!海崎が惚れた女モノにすんのキモチー!』
どこまでもこの男は......
『そんじゃ初めようか』
万歳が無数のラムネ瓶をばらまく。
『名付けてラムネ瓶デスマッチだ!精々楽しませろ!』
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




