愛想を尽かした女
初恋。
それは人の心に生きる希望を、人生に潤いを与える甘い果実。
私もその甘美に酔いしれていた。
しかしその甘味は苦味となりて。
私が惚れた人は私の姉に惚れていた。
その人の恋は成就し、私の初恋は無惨にも砕け散った。
交際は順調だったようで、結婚の知らせを私に報告してきた。
結婚式に誘われもしたけど、どんな顔をして行けば良いのか解らず、行けなかった。
この選択が私に一生物の後悔とトラウマを刻み付けた。
私の初恋の人が自殺したのだ。
結婚式に乱入した一人の男が私の姉を連れて去っていった、寝取られたんだ。
結婚式を破壊され、結婚を約束した女も取られ、大事な物を奪われた私の初恋の人は遂に命をも失った。
もし私が結婚式に来ていれば破壊を阻止出来たかもしれない、あるいは寝取られた所を慰めて私のモノに......
今となってはタラレバでしかないが、一つ解っているのは私から恋愛に対する興味を奪ったということだ。
恋愛なんてする物ではない。
そんな非人間的な考えを植え付けられた私に出来ることは復讐だけ。
私から初恋の人を奪ったアイツらを殺すことこそ私が生きるただ一つの理由なのだから。
今日も教室内は下らない話で盛り上がっている。
やれ好きな人がどうだの漫画のキャラがどうだのと。
全くバカバカしいことこの上は無いわ。
現実の恋愛にしてもラブコメのアニメ漫画にしても、高二にもなって、ほかにやることとか無いのかしら。
『哀抔さん丁度良かった、ねぇ合コンに付き合ってくれない?急に一人来れなくなっちゃって』
帰宅の準備をしていると一人の女子生徒に絡まれた。
『私そういうのには興味無いから、ほかを当たって頂戴』
合コンの誘いを無下にして教室を後にする。
しきりに私の噂話が聞こえてくる。
大概は私を否定するような内容、称賛される所は外見くらいか。
愛想の無い冷たい女、それが私、哀抔符夜雨が高校という狭いコミュニティに与えられしイメージである。
友人と呼べるような存在もいない、でも問題は無いわ。
私の近くにいても傷を付けるだけだから。
『哀抔ちゃーん!』
『あらあらオジサマったら今日も盛っちゃって』
放課後の私は一回りも年上の男性と遊んでいる。
食事をしたり、裸で抱き合ったり。
たまに女性ともね。
相手は若い女を抱く為に、私は対価を得る為に、そこに愛などという下らない感情は存在しない。
金銭だけではない、情報も立派な対価になり得る、今の私に一番必要な物だ。
『はい哀抔ちゃん、これ今日の褒美ね』
下着姿の私にお金が差し出される。
『その調子だと目新しい情報は無いようですわね』
『おじさんも注意深く人の観察なんてしてないからねー、にしても人探しとは健気だねー、哀抔世罪理さんだっけ』
結婚式に乱入し、私の姉である世罪理を連れ去ったあの男を見つけたら......
『見つけたらどうするんだい?』
『目一杯抱き締めますわ』
『ああ、久しぶりに会えた時にはそうするといい』
必ず叫ばせてやる、喜びではなく苦痛でね。
バックに忍ばせた拳銃を見つめ、ホテルを後にする。
夜の繁華街にて、聞き込みに回る。
勉強よりも部活よりも青春よりも恋愛よりも、私には復讐の方が大事なのだ、故に情報収集を行っている。
『情報が欲しいのなら酒もってこいや』
『あのさおじさん、私が学生なのは服装を見れば解るでしょう?』
『学生だってのは解ってるよ、俺はただ学生に酒買わせるのが好きなだけ』
タメ息の一つでも漏れるわ、まぁでもおっさんの意味不明な趣味にも付き合ってあげなきゃ、これも情報の為。
人通りの少ない自動販売機を目指すが、中年男性に呼び止められる。
『おい哀抔、お前こんな時間になにやってんだ?』
私が通っている高校の教師に見つかってしまった。
『先生こそなにしてるんですか?』
『質問してんはこっちだぞ』
おじさんと遊んでましただの、酒買おうとしてましただのとは言えない......
『お洋服を見ていたら時間かかっちゃって』
『お洋服ね、所でお前さ、自分が色々とウワサされてるの知ってるか、例えば援交とかよ』
『いい歳こいてそんなウワサを信じてるんですか?』
『ウワサってのもバカにできんのだよ、特にお前のような生徒のはな』
『教師というのは案外ヒマなんですね』
『そうでもないさ』
教師が不敵な笑みを浮かべながら写真を見せびらかす。
私が援交相手と歩いている写真だ。
『お前みたいな不良生徒に構わなくちゃならなくて忙しいんだよ』
『なにがお望みですか?お金ですか?それとも私の身体?』
『随分お利口なことだ、やっぱり気に入らねえなぁ』
『やっぱりとはどういうことで?』
『俺は昔からお前みたいなガキが嫌いだった、この世の全てを知った風なガキがな、だからお前からはなにも受け取らない、これを突き出して退学に追い込んでやる』
『それならまたウカツでしたわね、私に宣言するでもなくさっさと突きつければいい物を』
『この写真だって本物かどうかは解りきっていないんだ、だからお前に言質を録ったのさ』
まさかさっきの会話が録音されていた!?
『まさかとは思いますがつけていたのですか?余り褒められたことではありませんが』
『そんなのは関係無いさ、疑われているのはお前なんだから』
ここで拳銃を出せば脅し返すことができるか、いやまだ早い、これはあくまで復讐の為の......
『いやはやなにしてんですかお二人さん』
どこか飄々とした青年が割って入る。
『あ?外野はすっこんで......?』
凄んでいた教師の態度が一変する。
『お前まさかあの組の......』
『その写真と録音、貰っても?』
教師が言われた物を差し出し、退散していく。
『ご無事ですか?お嬢さん』
『こういう時はお礼でもするんでしょうね』
『なにしてくれるの?』
『好きにしていいわ、私の身体』
『それは魅力的だなぁ』
青年が私の身体を吟味している。
『君があの娘の妹だなんてね......』
妹?妹と言ったの?
『結婚式に来なくて残念だったよ、そうすれば素晴らしいモノが見られたのに』
『まさか貴方が!?』
『今度は貴方を貰いに来ました、哀抔符夜雨さん』
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




