カRY手NO11-4 実況の余韻とぬいぐるみ
異世界の街は、朝からざわついていた。
広場には即席のステージが組まれ、屋台が並び、魔物も盗賊も村人も、なぜか一緒に準備をしていた。
その中心に、ふわふわの服を着た少女が、ぬいぐるみを抱えて立っていた。
南條ユイ。
見た目は癒し系、語彙は格闘実況。
その姿は、戦士でも冒険者でもない。
ただ、空気をぶち上げる実況者だった。
「さあ始まりました異世界フェス!実況は私、南條ユイが担当しますッ!この街に、実況の余韻を残していきますッ!」
《実況詠唱》発動。
魔法は花火となって夜空に舞い、《テンションバフ》で街全体が盛り上がる。
子どもたちが踊り、魔物が拍を取り、盗賊がリズムに乗る。
ユイ「さあフィナーレですッ!ぬいぐるみを抱えて、実況の幕を閉じますッ!」
実況スタジオが静かになる。
女神様が雲ソファから立ち上がり、マイクを握る。
「実況枠、完了報告入りました〜!南條ユイさん、異世界実況旅、無事終了〜!敵も味方も踊ってた〜!ぬいぐるみが指揮官だった〜!次の転移者、準備はいい〜?実況の余韻、受け取れる〜?」
案内板には、新しい手書きの文字が追加される。
『実況枠/ぬいぐるみ所持/テンション高め/語彙が戦闘寄り/空気をぶち上げる』
その隣に、まだ名前の書かれていない申請書が一枚、そっと置かれていた。
だが、まだ誰もそれを手に取っていない。
広場のステージでは、ユイがぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、静かに一礼した。
「実況とは、誰かの心を動かす魔法ですッ。戦場でも、街でも、空気を変える力があるッ。そして、ぬいぐるみは、いつだって味方ですッ!」
その言葉に、誰もが深く頷いた。
──旅の記録:
実況で空気をぶち上げた転移者。
語彙は格闘実況、見た目は癒し系。
敵が焦り、味方が笑い、
その余韻は、街の広場に今も残っている。
──完了報告:南條ユイ、実況枠、任務完了。
次の転移者、マイクは整っております。
実況スタジオ、いつでも開幕可能です。




