カルテNO11-1 実況のテンションが異世界を揺らす
転移オフィスの朝は、いつも通りゆるかった。
雲でできたカウンターはふわふわで、受付妖精たちは湯気の立つマシュマロティーをすすりながら、申請書の山を眺めていた。
「今日も平和だね〜」
「転移者、来るかな〜」
「来ても、どうせ戦士枠でしょ〜」
そのとき、カウンターの雲が「ぽふっ」と揺れた。
ふわふわの服を着た少女が、ぬいぐるみを抱えて現れた。
「転移申請、提出しまーすッ!」
声が、異様に通る。
語尾が、異様に熱い。
ぬいぐるみは、異様にかわいい。
受付妖精「えっ……癒し枠……?」
少女はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、申請書を掲げた。
「実況は私、南條ユイが担当しますッ!異世界初戦、開幕ですッ!」
妖精たちが吹き出した。
「実況!?今!?」「ぬいぐるみ抱えて実況!?」
申請書には、こう書かれていた。
『職業:元・格闘技大会の実況者/スキル:《実況詠唱》《テンションバフ》《戦況分析》』
案内板がざわつく。
手書きの文字が追加される。
『実況枠/ぬいぐるみ所持/テンション高め/語彙が戦闘寄り』
その瞬間、実況スタジオの窓が開いた。
女神様が顔を出す。
「実況枠!?実況詠唱!?テンションバフ!?戦況分析!?スキル開発部〜!この子、実況で魔法撃つって〜!」
スキル開発部の妖精たちが混乱する。
「実況しながら詠唱って何!?」「テンションでバフってどう計測するの!?」「ぬいぐるみは何の役割!?」
ひとりの妖精が笑いすぎて雲から転げ落ちた。
「実況が魔法になるって、どういう世界線〜!?」
女神様「とりあえず実況スタジオに“実況枠”追加して〜!混線覚悟で〜!」
転移ポータル前でユイがぬいぐるみを抱きしめながら叫ぶ。
「さあ異世界の舞台、開幕ですッ!実況は私が責任を持ってお届けしますッ!」
虹色の渦が光を放ち、ユイはそのまま吸い込まれていった。
その瞬間、実況スタジオが起動する。
女神様実況「実況が二重〜!誰が本線〜!?テンションが高すぎてスタジオが揺れてる〜!」
スクリーンには、ユイが異世界の村に着地する姿が映っていた。
ぬいぐるみを抱えたまま、着地の瞬間に実況が始まっていた。
「さあ始まりました異世界初着地!実況は私、南條ユイが担当しますッ!」




