カルテNO8-4 旅の終わりは、街の改造計画書
異世界の街は、石畳の広場を中心に、古い建物が並んでいた。
屋根は傾き、ベンチは割れ、雨水の排水路は詰まり気味。
人々は慣れた様子で過ごしていたが、どこか疲れた空気が漂っていた。
そこへ、駒井ジュンが現場入りした。
工具ベルトを腰に巻き、スマホ型カメラを掲げ、地図を広げる。
「よっしゃ〜!街の改造計画、始めま〜す!まずは広場にベンチ、屋根、あとDIYカフェも作っちゃおうか〜!」
《説明動画詠唱》発動。
空に字幕が浮かび、BGMが流れ始める。
『街の改造計画/広場整備/住みやすさ向上』
市民たちは、最初こそ戸惑っていたが、ジュンの勢いと字幕に引き込まれていく。
「この人、何言ってるかよくわからないけど……なんか、楽しそう」
「DIYカフェって何……でも、ちょっと見てみたいかも」
ジュンは《工具召喚》で、折りたたみ式の作業台と、謎に光るスパナを呼び出す。
《即席バリケード》を応用し、ベンチを組み立て、屋根を設置。
見た目は雑。だが、雨をしっかり防ぎ、座り心地も悪くない。
広場の一角には、木材と布で作られた小さなカフェ風の屋台が完成する。
看板には、手書きでこう書かれていた。
『DIYカフェ/工具貸し出しあり/休憩自由』
市民たちは、少しずつ集まり始める。
誰かがベンチに座り、誰かが屋根の下で雨を避け、誰かがカフェでお茶を飲んだ。
女神様実況(雲ソファより)「ジュンさん、旅の締めは街ごと改造〜!DIYカフェって何〜!?でも、街の空気がちょっとだけ明るくなってる〜!」
カルテには、手書きでこう記された。
『駒井ジュン:ノリ枠。
実況乗っ取り済。
工具召喚安定。
街の評価:雑だけど、なんか住みやすくなった。』
その夜、広場のベンチで市民たちが語り合った。
「この人、説明は動画っぽかったけど……なんか、居心地よくなったね」
「実況がうるさかったけど、街がちょっとだけ優しくなった」
ジュンは、スマホ型カメラを空に向けてつぶやいた。
「現場完了〜!次の転移者、工具は持ったか〜?ノリと勢い、あとちょっとした字幕があれば、世界は変えられるっしょ」
字幕が空に浮かぶ。
『街改造完了/旅終了/次の現場へ』
女神様は、実況スタジオで満足げに頷く。
「この人、ほんとに実況乗っ取った〜!でも、街がちょっとだけ住みやすくなった〜!次の転移者、準備はいい〜?」
転移オフィスの案内板には、新しい文字が追加された。
『DIY枠/実況乗っ取り済/工具支給あり/ノリ重視』
そして、虹色ポータルの前に、新しい転移者が立っていた。
その背中を、女神様が見守る。
スクリーンの端には、ジュンがベンチに座っている姿が映っていた。
工具ベルトを外し、カフェの屋台でお茶を飲みながら、
「次の現場、どこかな〜」と笑っていた。
風が、静かに吹いた。
字幕が、ひとつだけ浮かんだ。
『チャンネル登録、ありがとう』
──旅の記録:ノリと工具で世界をちょっとだけ改造した転移者。
見た目は雑。実況はうるさい。
でも、誰かが笑ってくれたなら、それで十分だった。




