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カルテNO6-3 昼寝禁止令

異世界の街に、ある日突然、条例が施行された。

その名も「昼寝禁止令」。


発令したのは、街の管理局長・カリカリ氏。

理由は「昼寝ばかりしていると、街の生産性が落ちるから」だった。


広場の掲示板には、赤い文字でこう書かれていた。

『昼寝は怠惰の象徴であり、公共の場での仮眠は禁止します。違反者には“起床警告”を発令します』


その日から、街の空気が少しずつ変わった。

ベンチに座る人々は、背筋を伸ばし、目を見開いていた。


公園の木陰には、誰もいなくなった。

風は吹いていたが、毛布は畳まれたままだった。


坂城友恵は、いつものようにベンチに座っていた。

スーツ姿のまま、毛布を肩にかけ、静かに目を閉じる。


その姿を見た通報者が、管理局に連絡を入れる。

「昼寝してます!条例違反です!」


しかし、管理局の職員が到着する前に、奇妙なことが起きた。

通報者の声が、だんだん小さくなり、最後には「……まあ、いいか」と呟いて帰っていった。


その場にいた人々も、なぜか怒る気が失せていた。

誰かが落とした手紙が、風に乗って持ち主の元へ戻り、

噴水のそばでは、昨日喧嘩していた兄妹が、何も言わずに手を繋いでいた。


実況スタジオがざわつく。

「はいはいはい〜!来ました〜!昼寝禁止令、無効化されてます〜!」


女神様が叫ぶ。

「スキル《和解フィールド》と《落とし物リターン》、寝息でフル稼働〜!条例より寝顔が強い〜!」


コメント欄には、笑いと感動が混ざっていた。

「昼寝で条例破壊って何」「寝顔に勝てる法律なし」「推せる」


その夜、街の広場に、誰かが落書きを残した。

『昼寝は文化です』


翌朝、管理局長・カリカリ氏がその文字を見て、しばらく黙っていた。

そして、掲示板の条例をそっと剥がし、代わりにこう書いた。


『昼寝は、静かな反乱である。必要な人には、必要な時間です』


その日から、街のベンチには再び毛布が置かれるようになった。

昼下がりの風は、少しだけ優しくなった。


坂城友恵は、何も知らずに、ただ静かに眠っていた。

彼女の寝息は、街の空気をほどき、誰かの心をやわらかくしていた。

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