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カルテNO6-1 寝落ちから始まる

転移オフィスの雲カウンターが、控えめに「ぷにっ」と鳴いた。


受付妖精は、ハーブティーをすすりながらカルテを確認していた。

今日も平和な転移日和。申請書の山はふわふわと雲棚に積まれ、空には申請済みの夢が舞っている。


そのとき、カウンター前のベンチに、いつの間にか誰かが座っていた。

いや、座っていたというより──すでに寝ていた。


スーツ姿の女性。髪はゆるくまとめられ、表情は穏やか。

寝息は静かで、まるで風の音に溶け込むようだった。

受付妖精がそっとカルテを確認すると、そこには手書きの文字が並んでいた。


「坂城友恵、年齢非公開。使命あり枠で……転移希望中(仮眠中)です」


受付妖精は、ペンを落としかけた。希望職種欄には、こう記されていた。

「昼寝による平和」


妖精はしばらく黙っていたが、やがて目を潤ませながら頷いた。

「もちろんです〜。昼寝に使命があるなんて、素敵です〜」


申請書がふわりと風に乗り、空へと舞い上がる。案内板には、手書きの文字が追加された。

『使命あり/昼寝枠/寝てるだけで神回!夢に期限なし!』


その瞬間、実況スタジオの窓が開き、女神様が顔を出した。

「この人、最高〜!カルテに“昼寝神枠”って書いとこ〜!スキルは“寝てる間に周囲が勝手に解決”系で〜!」


カルテには、こう記された。

『坂城友恵:使命あり枠。

昼寝によって周囲の“ちょっとした問題”が勝手に解決される。

スキル発動中は寝息がBGM。副作用:本人は何も覚えていない。』


スキル開発部からは、ふわふわのファイルが届いた。

《スリープ・ハーモニー》──昼寝中、周囲の感情が穏やかになる。

《落とし物リターン》──近くにある落とし物が、風に乗って持ち主の元へ。

《和解フィールド》──昼寝中、喧嘩していた人々が自然に仲直りする。

《夢の再申請》──一度諦めた願いが、昼寝中に再び届く。申請書は空に舞う。


虹色の転移ポータルの前に、友恵は静かに座っていた。スーツの裾を整えることなく、すぅ…と寝息を立て始める。誰もが見守る中、彼女はただ、眠っていた。

「……行ってきます。寝てるだけですが、誰かの心がほどけたら、それで十分です」


女神様が手を振る。

「いってらっしゃ〜い!昼寝枠、年齢制限なし〜!夢は、いつだって再申請できる〜!寝てるだけで実況開始〜!」


光の渦が静かに広がり、友恵はそのまま、眠ったまま転移していった。


実況スタジオが起動する。

「は〜い!始まりました、坂城友恵さんの“昼寝による平和”旅〜!舞台は異世界の街!ベンチと毛布と、ちょっとした奇跡が揃ってます〜!」


コメント欄には、すでに応援の声が溢れていた。

「寝顔で世界救うって新しい」「推せる」「昼寝スキル、地味に強い」


寝息が誰かの心をほどいてくれるなら──それでいい。

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