カルテNO5-3 征服計画、完璧な演出
異世界の街の広場は、今日もにぎわっていた。
露店の香り、魔導楽団の演奏、空を飛ぶ郵便ドラゴン。
その中心に、ひとりの少女が立っていた。
黒羽南。制服姿のまま、手には《征服計画書》。
その表紙には、今日の予定が記されていた。
『第三段階:市民の信頼獲得
方法:演説(演出強化)/内容は図書館の利用時間延長について』
彼女は、深呼吸をして《演出強化》を発動。
──光が走る。
──音楽が鳴る。
──空に星型のエフェクトが舞う。
市民「えっ、何!?なんか始まった!?」
ミナミは、静かに語り始めた。
「皆さん。私は、図書館の利用時間を、あと1時間延ばしたいと思っています」
市民「……えっ、それだけ?」
「知識は力です。力は支配に繋がります。よって、図書館の延長は、世界征服の第一歩です」
市民「……なんか怖いけど、ちょっと納得した」
演出は派手だった。
でも、内容は地味だった。
それでも──
司書「……この子、ほんとに図書館好きなんだな」
市民「なんか、応援したくなる……」
猫「にゃー(この子、なんかすごい)」
女神様実況(雲ソファより)「演説完了〜!光と音は派手〜!内容は地味〜!でも市民の心、ちょっと動いた〜!」
その夜、ミナミは図書館の一角で計画書を更新していた。
『第四段階:市民の好感度上昇
方法:静かに役に立つ/猫と仲良くする/演出は控えめに』
彼女は、ペンを置いて呟いた。
「……世界征服は、騒がしくなくても進められる。誰かの記憶に残るだけで、支配の種は蒔かれる」
猫が、彼女の膝に乗った。
「……よし。好感度、上昇中」




