カルテNO5-1 征服計画書提出
転移オフィスの朝は、いつも通りふわふわしていた。
雲のカウンターが「ぷにっ」と鳴り、受付妖精たちは紅茶をすすりながら、転移希望者のカルテを整理していた。
そこへ──
「……転移希望です。使命はありません。ですが、世界は私のものになる予定です」
静かな声が響いた。
現れたのは、黒髪の少女。制服姿のまま、手には分厚いファイル。
受付妖精:「えっ……使命なし?でも世界征服希望?え〜〜〜と……」
ファイルの表紙には、こう書かれていた。
『征服計画書 第一版(仮)
目的:異世界の支配
方法:地道に信頼を得る/図書館を拠点にする/演出は派手に
備考:猫は味方につけたい』
女神様が実況スタジオから顔を出す。
「この子、最高〜!使命ないのに野望だけある〜!カルテに“征服予定枠”って書いとこ〜!」
案内板には、手書きの文字が追加された。
『使命なし/世界征服予定/本人は本気/世界はたぶん気づいてない』
スキル開発部がざわつき始める。
「この子、地味にすごいぞ……演出だけ派手にしたいって、逆に難しい……!」
カルテにはこう記された。
『黒羽南:使命なし枠。
世界征服をしたい少女。
スキルは計画性と演出重視。
魔法は地味だが、演出は派手。副作用:たまに照れる。』
スキルファイルが届く。
《征服計画書》:計画通りに進むと魔力が上がる。失敗すると書類が燃える。
《演出強化》:魔法の威力は普通だが、光と音が派手。周囲が勝手に驚く。
《支配領域:半径3m》:自分の周囲だけ完璧に整う。椅子の配置が異常に美しい。
《孤独耐性》:ひとりでも快適。寂しくなると猫を召喚する。
転移ポータルの前で、ミナミは静かにファイルを閉じた。
「……では、行ってきます。世界征服、第一段階──図書館の確保から始めます」
女神様が手を振る。
「いってらっしゃ〜い!使命なしでも、物語にはなれる〜!征服計画、実況するの楽しみ〜!」
ミナミは、虹色の渦に包まれて消えていった。
その瞬間、女神様の実況スタジオが起動する。
「は〜い!始まりました、黒羽南さんの“使命なしだけど世界征服したい”旅〜!
初日から図書館が狙われる予感〜!」
こうして、使命なし・世界征服をしたい少女の物語が始まった。
世界は、まだ気づいていない。
でも、彼女の半径3メートルは、すでに完璧に整っている。




