カルテNO4-2 変身!書類が舞う魔法少女
異世界の街は、石畳とガス灯が並ぶクラシカルな雰囲気だった。
星野まどかは、スーツ姿のまま街の中心に立っていた。
周囲には露店、馬車、そして魔法使い風の人々が行き交っている。
「……異世界って、もっとファンタジー全開かと思ってたけど、意外と通勤できそう」
彼女は、経理部で培った冷静さを発揮しながら、街の構造を観察していた。
通りの名前、店舗の配置、税率の掲示──すべてが気になる。
そのとき──
「きゃあっ!」
通りの先で、魔導暴走車(魔力で動く荷車)が制御不能になり、子どもに向かって突進していた。
まどかは、反射的に走り出した。
「危ない──!」
心臓が高鳴る。
感情が揺れる。
スーツのボタンが、ひとつ外れた瞬間──
《オフィス・トランスフォーム》発動。
書類が空中に舞い上がる。
経費精算書、出張申請書、残業届──すべてが光に包まれ、魔法のリボンへと変化する。
「変身……します!」
スーツが光に包まれ、魔法衣装へと変わる。
ピンクとネイビーを基調にした、落ち着きと可愛さの絶妙なバランス。
ヒールはそのまま。髪はふわっとほどけ、星型の髪飾りが浮かぶ。
BGM:社内チャイム(異世界アレンジ)
「星野まどか、32歳──魔法少女、再申請完了です!」
彼女は手をかざし、《経理魔法:残高照合ビーム》を発動。
魔導暴走車のステータスが空中に浮かぶ。
『魔力過剰注入/制御装置未更新/保険未加入』
「……なるほど、予算不足ですね」
まどかは、魔力を集中させ、光のリボンで車輪を固定。
荷車は停止し、子どもは無事だった。
街の人々がざわめく。
「今の……魔法少女?」
「でも、なんか……書類が舞ってたような……?」
まどかは、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。
「魔法って、夢と現実の間にあるものだと思うんです。
だから、ちょっとくらい事務的でも……いいですよね?」
女神様実況(雲ソファより)「変身完了〜!書類が舞って魔法衣装〜!年齢?関係ない〜!夢は、いつだって再申請できる〜!」
その夜、まどかは街のカフェで紅茶を飲みながら、魔法少女としての初日を振り返っていた。
「……あの子、無事でよかった。私の魔法が、誰かの役に立ったなら──それだけで、十分です」
窓の外では、星が瞬いていた。




