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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その37~憑依

作者: 天海樹

「無視すんなよー!」

リクの呼びかけにマコは顔も向けなかった。

ただあまりにもしつこいので

人混みを避けて路地に入ると、

ようやくリクを見て言った。

「私しか見えないんだから人前で話なんてできないでしょ!」


知り合って半年が経とうとしていた。

出会いはマコが見たことがある顔だと思いリクを見たら、

その視線を逃さずリクから声を掛けたのが始まりだった。

マコはナンパだと思い無視していると、

店のウインドウにリクの姿が映っていないことに気付いて

リクは“見えない人”というのを知った。


「どうして距離が縮まらないんだろう」

マコもなんとなくそう思っていた。

「スキンシップがないからかなぁ」

考えながらマコが答えると

「憑依するから、誰がいい?」

とリクが身近にいる人から選ぶようにと言った。

「じゃあ、あの人」

マコが気づかれないように指をさすと

「容姿重視かよー」

「当然!」

「でもギャップが大きいと、オレじゃないじゃん?」

「あの人は?」

リクは彼のところへ行くと身体に入った。

マコのもとへ戻ってきて手を差し出すが、

「初対面みたいで恥ずかしい!」

と照れてその手をパンと軽く叩いた。

でもリクは一瞬でもマコに触れることができて

ちょっとうれしかった。

「マコに触りたいー!」

リクが叫ぶと

「似てる人を探してきてよー」

そう言って笑った。


2日後、マコの目の前にリクが現れた。

いつもよりはっきりくっきりしていた。

「どう?」

マコはなんだかうれしくなって、

リクの身体中を両手でパタパタと叩きだした。

そして手を握った。

マコは何だか胸の奥から込み上げてくるものがあり

目に一杯涙を溜めた。

「ハグしていいか?」

リクはそう言うと

顔を覆って俯いているマコを優しく抱きしめた。


時が経つと彼はマコにとってすっかりリクになっていた。

普通の恋人達と同じように手を繋ぎ、

キスをして、セックスもするようになった。

さらに半年が過ぎようとした時、

「もうお別れしなくちゃ」

リクが言った。

「憑依すると魂が削られていって、そのうち消滅してしまうんだ」

と告白した。

「なんで憑依なんかしたの!」

マコは嗚咽混じりに言った。

「どうしてもマコを身体で感じたかったんだ」

リクは身体に刻みつけるように

最後までマコを力いっぱい抱きしめた。

そして

「こいついいヤツだから」

と憑依していた肉体をマコに預けた。

マコは改めて目の前の彼を見つめた。

するとリクを見かけた時に思い出した人、

「マコちゃん?」

初恋の彼がそこにいた。

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