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彼女がはにかんだ!!

 結局、僕とアルゼレアはラファエルさんについて行く。イビ王子率いるアスタリカ兵隊が囚われているという場所は、暗くて牢屋のある場所だった。だけどそれらしい人はどこにも見当たらない。

 彼は鍵を取ってくると言っていた。それが最後になるだなんて思いもしなかった。百歩譲っても、僕らが騙されていて閉じ込められるんじゃないかとは、頭によぎったかもしれないけど。

 ラファエルさんが部屋を出た直後に聞こえたのは銃声だ。驚いてしがみついたアルゼレアを支えつつ、僕はどうしても彼女だけは守らないとと必死になる。

 バタバタと駆けながら入ってくる男たちは、僕らには目もくれずに牢屋の中を確認して回った。そのうちの一人は落ち着いた足取りで僕たちの前へ。

「ご苦労だった。まさか君たちが功績を上げてくるとは思わなかったよ」

 その胸にはアスタリカの勲章を縫い付けている。早々にどこかから声が上がった。「見つけました! 無事です!」と。

「よくやったぞ。これで大臣も安心できるな」

 おそらく目の前の彼は潜入隊の指揮を取る人。周りに激励をし、僕とアルゼレアにも多少多めに褒めた。それで良かったね、とはならない。ラファエルさんには何があったんだ。

 誰もその事は話に出さないで、仕事を納めた余韻に浸っていた。

「君たちの任務はここまでなんだが。大臣の意向で来世への提案がある」

「来世?」

 目の前で弾を詰め直してから僕たちに銃口を向けた。

「多くのことを知り過ぎただろう。楽にしてやろうという話だ」

 銃を向けられるのは前からひとつだと思ったら、いつのまにか僕らを取り囲んで四方から向けられていた。ロウェルディ大臣は最初からそのつもりだった。

「捨て駒に賞賛を取られるのは惜しいからな。我々の願い的にも叶う。死人は真実を語れない……さあ、お別れだ」

 しかしその時「待って」と誰かが言う。「銃をおろせ。その人はボクの恩人だぞ」と誰かが言っている。その救世主のような声に対して潜入隊の人たちは少しおろおろした。

「もう一度言う。銃をおろすんだ」

 するとバラバラと銃口が外された。僕の真正面に立つ彼だけが最後まで抗っていたけど、それもとうとう下ろされた。

 僕はその隙にアルゼレアと一緒に部屋から逃げ出す。廊下に出て、一本道を走って行き、途中でエルサ教の信者と鉢合わせになったから厳重注意を受けて外に追い出されていた。

 ラファエルさんとは出会わなかった。最悪血を見ることになるかと思ったけど、それもなかった。跡形もなく……って言ったら良いのかな。いや、運よくってことにしておいた方が良いだろう。

「ラファエルさんは上手く逃げられたみたいだ。よかった」

 あえて口に出してアルゼレアにもそう思ってもらう。


 どっと疲れて僕もアルゼレアも何にも話す気にはなれない。車のヘッドライトに照らされるだけで、とりあえず帰る方向に歩いていただけだ。それが眩しいとも気付かないくらい無気力で。

「元気が出ないよね……」

「……」

 ご飯でも食べようかという気分でもない。誘う側も、誘われる側も。だって僕らは死ぬかもしれなかったわけで。今こうして外を歩けているのが奇跡みたいなものだ。

 でも横に、見慣れた赤髪が見下ろせて良かった。それだけは本当に良かった。

「アルゼレア?」

「……」

「大丈夫? アルゼレア?」

 外を歩き出してから一言も喋ってくれていない。恐怖体験が身体的障害を与えてしまったのかと心配した。だけどやっとこっちを向いてくれた。「はい」とも小さく返事をした。

「あまり思い詰める必要は無いよ?」

 それにも「はい」と答えたけれど、また俯いてじっと黙ってしまっている。たしかに僕たちが得た情報は濃密だったよね。どうしたら良いんだろう……。僕も黙った。

 大臣と王家の大きな溝があって、王家とゼノバ教皇の隠密な関係を知った。これが揃ってゼノバ教皇と大臣が仲良しなわけがない。しっかりと三角関係が築き上げられている。ラファエルさんの見解も入れたら相当恐ろしい未来が見えてきた。

「フォルクスさん……」

 僕に最も緊張を与える瞬間だ。考え込んでからアルゼレアが僕の名前を呼ぶのが怖い。もう喉元まで「嫌だよ」と出掛かっている。もしも内戦が始まってしまっても僕は別国に避難するに決まっている。

「あのさ、アルゼレア!」

 近くを通ったバイクのエンジン音で聞こえなかった事にして、僕から話しかけた事にすり替えた。情けない男なんだけど仕方がない。これが僕だし、度胸がないと呆れてくれて構わない。

「あ、明日! デートしようか!」

 一か八か過ぎて声が裏返ってしまった。

「……え?」

 何を言っているの? と同じニュアンスに聞こえる。やっぱり今言うべきじゃなかった。間違っていた。急に足を止めたアルゼレアが穴が開くほど僕のことを見つめている。

 その呪縛がふっと解かれるのは彼女が目線を下げたから。

「一日中ですか?」

 ……うん?

「本屋さん巡りだけじゃなくて何か……日帰りツアーとか遠出みたいなことでも良いんですか?」

 一瞬何を言っているんだろうと思ってしまう。あまりにもアルゼレアが積極的に話しているから。いや、これが普通のことなんだけど。興味を示してくれたのが意外すぎたというか……。

 メッセージを伝えるみたいに僕らの横を観光バスが通っていく。夜の街に消えないよう、煌びやかなライトを付けた観光案内の看板も目に付く。

 もしかしてアルゼレアはずっと僕とデートがしたかったのかな。でもデートじゃないけどいつも一緒にいたけど。

「す、すみません。やっぱり違います……」

「待って待って! 一日中だよ!? もちろん! アスタリカの夜景は綺麗に決まってる! 絶対に一緒に見なくちゃね!?」

 指を立てて張り切る僕。落ち込んで行きそうだったアルゼレアをギリギリで救えた。だけど、顔を上げたアルゼレアがとんでもない。

 過去で一番、嬉しそうに、はにかんでいたんだ。ふふっ、と笑うのではなくって、えへへっ、って感じだと言ったら伝わるのかな。朗らかで、柔らかくて、ふわふわしていて……僕の語彙力が足りない。

 とにかくこっちはその大爆弾に胸を打たれたし、息も飲まされた。だから僕は考え直さないといけないと思った。

「ごめん。やっぱ明後日にしよう。明日は下調べに使わせて」

「分かりました。じゃあ明後日に」

 地下鉄の改札口でアルゼレアを見送った後、僕は直帰せずに本屋巡りになる。そろそろ飲食店でも店を閉める時間ではあるけど、そうは言ってられないんだ。

(((次話は明日17時に投稿します


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