六番街のテロ騒動2
ジャッジを見失ってから僕はアルゼレアに追いついた。右手に開いた傘を持っていながら全然意味をなしていなかったからビショビショだ。もちろんアルゼレアも。
「ジャッジは、大丈夫だって。あいつ、幸運だから。死なない、から……」
息も絶え絶え。日頃の運動不足が効いている。アルゼレアも珍しく息が上がっていて返事どころじゃなかったみたい。
するとそこへ声が届く。
「テロだって! 見てみろよ!」
「マジかよ。そこの時計店じゃん」
家電店のショーウインドウに人だかりが出来ていた。若者から老人までが集まって何を見ているのかと近寄ってみればテレビ中継だ。ニュース速報にてさっきのテロ事件が取り上げられている。
「白銀の妙獣だって」
「マジかよ。見に行こうぜ」
若い二人がディスプレイ前から離脱した。ぼちぼちと他の人たちも、白銀の妙獣見たさにそっちへ向かっていく。
そんな妙獣さんはというと……時計店の看板裏から出られなくなっているみたい。中継カメラや物見客に囲まれることはジャッジなら相当喜びそうではあるけど、さすがに彼も裏では動揺していそう。
「ジャッジさん……助けた方が良くないですか?」
「うーん。方法が分からないけど」
とりあえず時計店の方へは向かってみるよ。家電店から二つ道路をまたいだところで本当に近かった。それにしてもすごい人だかりだ。さらにどんどん人が集まっている。
「さあ皆さん! 今私たちが見ている看板の裏に、あの! あの!! 白銀の妙獣が隠れているとの情報です!!」
「うさぎの姿が20パーセント。白いイタチが40パーセント。小動物の姿での確認が多い中、老婆や幽霊だとも言われています!」
「白銀の妙獣は法律的には窃盗罪に問われます! 警察官も厳重な対応を計っており、この日が妙獣と呼ばれる最後に日になることでしょう!!」
腕が鳴るという具合で報道者がまくし立てている。フラッシュもたかれて大変そうだ。ジャッジ……。
呆れているところにアルゼレアが僕の腕を引いた。
「フォルクスさん、何か合図を出しましょう」
「あ、合図!?」
「フォルクスさんがいる事を伝えたらジャッジさんは安心するんじゃないでしょうか」
「安心!?」
それって意味あるのかな。だけどアルゼレアは是非そうして欲しいと聞かない。合図って言われても、昔の友達同士で決めた合言葉やポーズなんてものも無いしなぁ。
周りを見てみるとファンサービスを求めるみたいに手を振っている若者が目についた。ほんと全く乗り気じゃないけど僕も紛れながらに手を振ってみる。
「もっと大きくです!」
「え、うーん。分かったよ……」
僕はジャッジにたくさん手を振った。横でアルゼレアも振っていた。それで何か変わるかな。それが大きく変わったんだ。
「出ました!! 妙獣!! 白銀の妙獣です!!」
「男です!! 白銀の妙獣はなんと男の姿だ!!」
ものすごいフラッシュでも出遅れる事なく、アスタリカ警察が屋根の上でジャッジに飛びかかった。しかしやっぱりジャッジは幸運なんだろうか、それか彼の実力なんだろうか。器用に手錠をかわしている。
そして全ての警察を振り切ったら全面を向いて奇声を上げた。
「フォルクス〜!! 助けてくれ〜!! 俺はそんな妙獣なんかじゃ無えんだよ〜!!」
たぶん泣きながらだろう。しわがれた声で僕を名指しにして両手を振る。当然僕は「げぇ」となる。
カメラのレンズと瞳のレンズが一斉に僕の方を向いた。それはそれは「やべえ」状況だった。
……に、逃げよう!! アルゼレアを抱き抱えて走りたいくらいだけど現実的に腕を取って全力疾走。
「妙獣の仲間が逃げます!!」
「お、おい! 妙獣はどこいった!?」
情報が錯乱した。僕は数名に追われるし、たぶんジャッジも今のうちに逃げて追われている。
「アルゼレア、頑張って走って!」
「は、はい!」
雨は上がっていた。通り雨だった。普通だったら二人で「よかったね」って言い合いたかっただけなのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
「くそぅ……ジャッジのせいだよな」
「フォルクスさん! ジャッジさんです!」
怪訝な気持ちのまま「ええ!?」と言ってその方を見れば、確かに横道の方から白銀頭の問題児男が走っているのが見える。
「フォルクス〜!! 娘っ子〜!!」
僕ならそのままあいつのことは捨て去る。だけどアルゼレアはそうはいかないんだよ。優しい子なんだ。だから彼女に腕を引かれるままにジャッジと合流することになった。単純に追っ手は二倍に増えた。
「こっち!」
仕方がないから僕が先導を切って細道をくぐっていく。
「お前ら本当に俺の親友だよ〜!」
「冗談が言えるくらいなら置いてく」
「や、やめろ〜!」
僕ら三人は住宅街の小道に入った。迷うことはない。僕の知っている道だったから。角の花屋を通る頃には追っ手も振り切ったみたい。このまま行けばとりあえずは僕の家だ。
この厄災をどうしてくれようか。それはうちで話を聞いてからにする。
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