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誤解

 僕が調理場から見ていた大部屋ではなく別の。と言っても、大きな空間にソファーがある何をするための部屋なのか分からない場所に案内された。

 王族というのは本当にすごいところに住んでいるんだな。

 これだと何をするにもソファーからいちいち立ち上がらなくちゃならない。しかも冷蔵庫もテレビも本棚も無いなんて、本当に何をして過ごす部屋なんだ。

「お客人はこちらでお待ちください」

 そう言い残してマーカスさんは行ってしまうし。

 質感の良い革ソファーに座ったら最後。立てなくなると考えた僕は、とりあえずランプシェードの作りを眺めた。

 特段変わりのない布地を観察したら、もうやることが無くなって結局ソファーに座っている。

「落ち着かないみたいだね」

 先にソファーで休んでいたトリスさんには見抜かれていた。僕は苦笑を浮かべるしかない。

 そういえば、あの屋敷では酷く緊張していたトリスさんだったけど、このお城の中ではすっかり落ち着きを取り戻している。

 思い返してみればマーカスさんの車に乗ってからも、何処へ連れて行かれるんだと泣き叫んでも良いシチュエーションだっただろう。

 トリスさんはその時から落ち着いていた。

「アスタリカの警察は、そんなに恐ろしい人達なんですか?」

 疑問から知らずに声に出ていて僕はハッとなる。目の前で顔を上げているトリスさんには理由も続けて話した。

「アルゼレアがアスタリカ警察に捕まっていたと聞きました。トリスさんとリニーさんが助けて下さったとか」

 トリスさんは吐息のような声で「そうだ」と答える。

「君が心配するのも無理は無い。でもアルゼレアさんは酷い目に遭わされてはいないよ。あの子は、逃げた私を引き戻すために捕えたかっただけだ。最初はね」

「最初は?」

 トリスさんは複雑そうな思いで唸っている。

「……そう。あの子が釈放になって、私とリニーが保釈になった後のことだ。誰かは知らないが、どうやら私の研究について物知りな人物がいたようだ。その人物がアスタリカ警察に色々と話したらしい」

「……」

 すぐに一人の男の影が脳裏にチラついたけど、とりあえずは取っ払っておこう。

「それで研究論書のことが明るみになった。君やアルゼレアさんを巻き込んでしまう結果になってしまったね。私はどういうわけかあの屋敷に監禁され、リニーは行方不明だ。いったい何が起こっているのか私にも掴みきれないんだよ」

 果てさて秘密を漏らしたのは誰だったのか……と、トリスさんは頭を悩ませる。

 僕からは一緒になって首を傾げておいて、少々不器用なタイミングだけど「ちなみに」と切り出した。

「あの屋敷は……スティラン・メーベルさんの屋敷だったんでしょうか?」

 同じ苗字なだけで人違いだったらそれでいい。

 全然違うと笑って返してくれるのでもいい。

 しかしこの切り出し方で、トリスさんは神妙な顔つきになって僕を睨んだように見えた。

 ……しまった、怒らせてしまった。

 それしか僕には浮かんでいなかった。だけど違う。

「君もそう思うか……」

 指を立てて言ったんだ。

 同じを夢を見たと不思議体験を共有したように、お互い顔を固まらせている。

 そのままトリスさんの顔は恐る恐る僕に寄せられた。真相のすり合わせに緊張し、僕らは浅い息をしている。

「実は私もそうじゃないかと思っていたんだよ。スティラン・メーベルの屋敷。メーベルは私の祖母にあたると家族から聞いたが、生きて出会った事は無い。十六歳の殺人鬼……甦りの儀式……。私はあの屋敷の部屋数を数えようとしたんだ……」

 途端に肩から足元から寒気がしてく流感覚だ。

 こういう話は苦手だった。僕から振っておいて後悔している。

「へ、部屋数は、どうでした……?」

 トリスさんは静かに首を横に振った。

 息を飲んでいると廊下の方で誰かが歩いたようだ。足音と人の話し声で一旦遮られることになる。

 静かになれば再びホラーな雰囲気に戻るかと思ったら、トリスさんは「なんてね」と言っていて舌を出す。

「部屋数は数えていない。地下があったんだが怖くて降りられなかった。召使いは地下の部屋で過ごすと聞いたことがあるだろ? 死体が十六体も転がってみなさい。私が気を失ってそのまま十七体目になってしまうじゃないか」

 はっはっはー。と笑っているけど、さすがに合わせて笑うのは無理だった。

 予想もつかないサプライズを貰った感覚で、僕とトリスさんとの間に空気感のズレが出来ている。

「僕は映画の見過ぎですかね……」

「そうだな。祖母の真相は私も知らない。しかしそんな酷い話のせいで、私の研究にも誤解されることが多いよ」

 ちなみにトリスさんとメーベルとは親子関係だったとジャッジから聞いたはずだったけど。

「それも映画の影響だね」と軽々言われた。

 映画についてはこう言及した。

「あれは名作だが医者として観ていると、怖がらせるよりむしろ笑わせに来ているのかと思うよね」

「は、はあ……」

 話も状況も飲み込みづらい中、トリスさんだけが軽快に笑っていた。

 まあ……よかった。トリスさんが恐怖から解放されて、こんなに明るい人だと分かったんなら。それでよかった。こちらもある意味誤解していたみたいだ。

 気抜けしているところに扉がノックされて人が入ってきた。

「久しいな、トリス!」

「ラルフエッド!」

 お互い知り合いみたいで両手を開いてハグだ。相手の顔を見てみたら、この国の王様で驚いた。

 トリスさんはラルフエッド王には会いたくないと言っていたんだ。なのに二人で再会を喜んで何度も肩を叩き合っている。何なんだこれは。

 置いてけぼりの僕にはいつまでも触れないで、トリスさんとラルフエッド王はしきりに色々話していた。

 しかしラルフエッド王の表情が曇ると、何か大事があるのかと緊張が走った。

「トリス。お前を呼んだのは他でもない。今すぐ来てくれ」

 僕の存在に気付かないままラルフエッド王は扉を引き返して行ってしまう。

 このまま僕は待てば良いんだろうかと思っていたけど、トリスさんが一度僕を振り返った。

 それを着いて来ても良いという意味だと受け取った僕は、トリスさんの後から同じ場所へと向かうことにした。


(((次話は明日17時に投稿します


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