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トリスを探せ1

 通りに出たら途端に周りは騒がしい。自動車と路面電車が行き交う大きな車道もそうだし、夕食の店を求めて街に出てくる人々もそうだ。

 それに僕とジャッジの揉め事もまだ続いている。

 ただ普通の日常を送るビジネスマンや家族連れの間をすり抜けながら、僕は構わずジャッジに言葉を投げていた。

「アスタリカとセルジオ。お前はどっちの回し者なんだよ」

 僕もジャッジも横並びにセカセカ歩いている。

「うるせえな、どっちもだよ。八十万と六十万」

 報酬金額の額を知りたいんじゃない。

 そんなものを聞かされたところで、僕が目の色変えてジャッジの言いなりになるわけ無いだろ。

 つくづく友人を嫌いになっていく中、僕は見知らぬ土地で看板ばかり目で追っていた。

 レストランに映画館、ショッピングモールの明かりが連なる歓楽街。こんなに発展した街だと大きい駅ぐらい必ずあるはずだ。

 そして車の通りが一段と多くなってきた頃、ついに駅名を指す看板と横道を見つける。

「じゃあ悪いけど僕はここで別れるから。トリスを見つけてアルゼレアを助けなくちゃならない」

「ああ、そうだな。俺も早いところソイツを見つけて金だけ必ず貰う」

 あろうことかジャッジがそんなことを言うから、僕は駅への横道に曲がれなかった。

 人混みで見失わないうちに直進するジャッジの後を追いかけることになった。

「ジャッジ、お前もトリスを探してるのか?」

「そうだ。最初からセルジオの軍人に頼まれてた」

「最初って?」

「アスタリカ行きの船に乗る前にな」

 衝撃事実を知りながらも駅への道はどんどん離れていっている。

「……どこに向かってる?」

「知るか。歩きながら考えてんだ」

 珍しくジャッジが焦っていることに僕は驚いた。

 でも、闇雲にただ歩き回っているだけじゃダメだ。

「ちょっと待てよ」と肩を掴んで引き止め、一旦歩道の端に寄って話を整理する。

「トリスはメーベルの屋敷に居るんじゃないのか。アスタリカに戻るならすぐ電車に乗った方がいい」

 それしか最短ルートは無いぞと真面目に話す僕に対し、ジャッジもまた真面目な顔になった。

「屋敷の場所を知ってんのか……」

 僕は頭がこんがらがった。

「とぼけるなよ、日陰の家だろ。お前が僕を連行して! 置き去りにして! ……アルゼレアと再会できた家だ」

 全部お前の仕業だったろ! とか強気で言いたかったけど。アルゼレアを見つけられたんだから、その点だけはジャッジのおかげってのがなんか悔しい。

 そしたらジャッジがその辺りの出来事を思い出してくれたみたいだ。

 でも真面目な顔から一転。その場で腹を抱えて笑い出した。僕はその態度を見ながらすっごく嫌な気分がしている。

「……メーベルの屋敷じゃなかったんだな。お前は僕を騙したんだな」

 ジャッジは笑いすぎて喘息気味にヒイヒイと呼吸をしている。

 だんだん息が整うと、笑ったり落ち着いたりを繰り返しながら「ごめんごめん」と言ってきた。

 とはいえ僕だって、あの日陰の家がメーベルの屋敷だって信じ切っていたわけじゃない。貴族末裔の最後の住まいっていうより、あそこはただの民家だったし。

 それに何より証言者がジャッジという適当人間だから余計にか。

 時刻はあれからもう三十分も経ってしまった。

 本当に急がないと。

「僕が知っている中で、トリスに関連しそうな場所ってそこしか思い付かなかったんだ。たとえ違ったとしても、明日までに居場所を見つけるなら、最悪アスタリカ警察に乗り込んで聞き出すのが一番早そうだと思わない?」

 ジャッジもなるほどと指を鳴らす。

「そりゃ名案だが最悪だな」

「そうだ。最悪だ。こんな事になるなら、ちゃんと屋敷の住所まで読んでおくべきだった」

 後からならいくらでも後悔できる。けどあの殺人鬼の解説内容は苦手だ。何度挑戦したってあんまり読み進めたくないかもしれない。

「不動産屋か役所関連に聞けば住所が分かるかな?」

「そんな馬鹿真面目に考えるなよ。ありゃ半分オカルトだぜ」

「オカルト……」

 神的要素があるのか?

 僕が頭で考え事をし始めると、人混みの中から男二人衆を見つけた女性がいたようだった。

 冬用コートは前を閉めないで、中の露出度の高い服装を見せつけていた。

 あんなに肌を出していたら凍傷を起こしてしまう。心配になる横ではジャッジが「わお」と鼻の下を伸ばしているけど。

 こういう時、断り文句を知らない僕なら走って逃げるだろう。

 でもジャッジはスタッフとして働いていた経験と、単純に好きでよく通っている常連として、やり過ごし方を知っていた。

「給料日になったら顔出すわ。名刺だけもらっとこうかな」

 まるで初対面とは思えない気さくな会話だ。咄嗟によく出来るな……。

 感動というかドン引きに近い感情で、僕は客引きの女性が名刺を配っているのを眺めた。

「お兄さんにも。はいっ」

「ああ、すみません。頂きます……」

 なんだか退職してからの方が、こういう名刺やカードをもらうことが多くなった気がするな。

 そうぼんやり思った時、僕はピンと来た。

「ジャッジ! 公衆電話だ!」

「はえ?」

 呑気に女性に手を振っていたジャッジが、だらしない顔のままで僕を振り返った。僕はほとんど無意識でソイツにデコピンを食らわした。

「痛ってーな。暴力かよ」

「これだよ!」

 何度も処分しようか迷ったけど、持っていて良かった。ナヴェール神殿でもらったカードだ。

「なんだ、あれじゃん。なんとか研究室だっけか」

「マニア研究所。電話番号も書いてある。オカルトなら情報があるかもしれない!」

 希望の光が見えた僕はすぐに公衆電話を探し出す。

 そんなもの宛になりゃしないとジャッジは嫌々だったけど、金が欲しく無いのかと揺さぶったら目もくれずに動き出した。

「フォルクス! こっちだ!」

 車道を挟んだ向こう側からジャッジが両手を僕に振っている。

 僕は信号が変わるギリギリで渡りきり、短時間で受話器を手にできた。


(((次話は明日17時に投稿します


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