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牢屋‐厄災の助け‐

「変な顔だな。犬の顔真似か?」

 喜ばしくない再会を果たした最初の言葉がこれだ。

「僕はお前に怒っているんだ」

「そりゃ見れば分かるぞ」

 ジャッジは涼しい顔で、鉄格子を挟んだ僕の前を通り過ぎていく。僕はすかさず「どこ行くんだ!」と叫んだけど、案外すぐ近くで足を止めた。

 ピッキングでもしようと試みているのか、この牢屋唯一の出入り口の鍵をガチャガチャ触り始めている。

「リサとは上手くいったか?」

 ジャッジは手を動かしながら悠長に世間話を始めた。

 先に僕から問い詰めたい事だらけなのにとワナワナ震えていたけど、声には感情を抑え気味で告げた。

「上手くいくはずないだろう。っていうか『上手く』って何だよ。僕にそういうのを期待しないでくれ」

 抑えたつもりでも多少は口が尖っていた僕に、主犯は「拗ねんなよ」と鼻で笑う。

「お前はいっつもチャンスをモノにしない男だからな。ある意味、期待通りだったわ」

 完全に上からもの言う男だ。我慢ならない僕がムキになりそうになると、思いがけず金属音と共に出入り口が開いていた。

 そこからひょっこりジャッジが顔を中に入れてきて、牢屋の中の雰囲気を味わっている。だけど決して足だけは踏み入れようとはしない。

「……何した?」

「これよ」

 見せびらかすよう、わざと摘み上げてチラつかせるのは小さな鍵だ。

「すぐに開けちまったら、ありがたみが薄れるだろ?」

 それでガチャガチャ不必要に鳴らしていたらしい。

 鍵ひとつと鍵穴ひとつにしては確かに時間が掛かっていたかもしれないな。

「へー。どうでもいいけど、足ごと入っておいでよ。そして僕がその鍵を預かっておいてあげるから」

「嫌だね。俺は石の上で寝れない病なんだ」

 つまらないことを言い合いながら、僕は無事に牢屋から脱出した。

 廊下に出たら他にも幾つも鉄格子があって、どの小部屋も空のようだった。

 だけどさっき、人のうめき声が聞こえたから、別の方には何人か入っていたりするのかな。

 辺りを見回すのも程々に。

「で? なんでお前がそれを持っているんだ」

 小さな鍵を取り上げようとしたけど寸前のところでかわされる。すると手品みたいに鍵が消えてから、僕の前に二枚のチケットが現れた。

 もちろんジャッジが指の間に持っていた。それについても、何でお前がそれを持っているんだ? の、疑問は同じだ。

「セルジオの王様から貰ったんだ。すげーだろ。俺とお前は逃がしてくれるって」

 宝を貰ったみたいなニヤケ顔からチケットを一枚受け取る。そこに記載された行き先が、僕の元いた国の港であると確認した。

「ジャッジと僕?」

「ああ、そうだ」

 素直に飲み込めるわけがない。

「アルゼレアはどうなるんだよ」

 それを聞くとジャッジはどデカい溜め息を吐く。僕のだと渡してきたチケットも何故か取り上げられて、アイツのポケットに仕舞われた。

「知らねえよ。娘っこの人生だろ。自分でなんとかさせとけ」

 薄情な言い方が僕の癇に障ったついでに、この男に聞かなくちゃならないことも思い出した。

「そういえばお前、僕の知らないところでアルゼレアに何を話してたんだ」

「はあ? 俺が勝手に娘っこに会おうが話そうが、お前に関係あるかよ?」

「関係はない……けど気になるだろ!」

 僕らの言い合いは石の壁や空間によく響く。

 だからか、まるで僕らに存在を示すみたいに、どこかの牢屋からまた人のうめき声がこちらに聞こえてきた。

 ジャッジの判断は「とにかくここから出ようぜ」だった。

 僕も賛成してジャッジと一緒に出口へ向かう。わざわざ牢屋に入れてある人と関わり合いになるのも少し怖い。

 廊下の突き当たりは階段になり、そこを上る前に僕からきっちりとジャッジに言っておいた。

「もうお前は今後一切アルゼレアと関わるなよ!」

「だぁー、もう。分かったよ。お前は娘っこの保護者か!」

「そうだよ!」

 僕から逃げていくようにジャッジは階段を登っていく。逃さないと僕はピッタリ後に続いた。

 階段を上がりきったら洋館の廊下に出た。この建物の階数は分からないけど、窓から外を見れば二階か三階ぐらいの高さだと思う。

 景色は夕日が落ちたすぐなのかもしれない。薄明かりの晴れた空の下で電気が煌々と付いている。

 アスタリカなのか、エシュなのか、セルジオなのか分からない都会の街並みの中に僕はいた。

「たぶんアルゼレアもこの建物の中にいるよ……」

 探しに行こう。と、僕はジャッジを振り返ったつもりだった。

 しかし窓から目を離した場所に立っていたのはサングラスをかけた軍人だった。

 彼は一応僕のことを牢屋に入れたんだと思うけど、鍵を持ったジャッジが後で来ることも彼が伝えてくれたんだった。

 そして今、逃げ出した僕を捕まえないで口角を上げて佇んでいる。僕にとって敵なのか味方なのか何なんだ。

「……」

 マーカスさんは言葉を喋らない。また、僕らにも静かにするよう自分の口元に指を立てて示した。

 片方の手では二回手招く。やっぱり何も言わずにくるりと身を返したら、ゆっくりとどこかへ歩き出した。

 僕は先にジャッジに目を合わせたけど、マーカスさんの行動の意図は何も分からなくて首を振るだけだ。

 でも、とりあえず付いて来いってことなんだろうと思う。

 僕は脱走癖のあるジャッジの裾を掴んで離さずに、マーカスさんの行った方へ静かに付いて行った。


(((次話は明日17時に投稿します


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