表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/136

これから1

「魔法!? お前バカか!? 頭おかしくなったのか!?」

「……それが助けてもらった人の言う言葉?」

「うっ」

 ジャッジが黙った。さすがに今回ばかりは助けてもらったことに感謝の気持ちがあるみたいだ。っていうか今回ばかりって……。毎度助けられるたびに感謝するべきだと僕は思い続けているけどね。

「で。どうなの? 心当たりはあるの?」

 アルゼレアの推測をジャッジにも聞かせてみたんだ。いつもは全否定したり笑ってかわすばかりのジャッジだけど、今は珍しく困惑している。誤魔化す以外でこの男が苦笑するなんて逆に新鮮だ。

「いや、どうって……。鍵がライターになるわけ無いだろ。逆に鉄クギが鍵になることも無えよ」

「……」

 ジャッジのくせに常識的なことを言うじゃないか。

「世界平和だっけ? 怪しすぎだろそれ。っていうか神がいるなら、神がなんとかするだろ普通。だって神だぜ?」

 あろうことかジャッジは僕の本心を全部言ってくれた。

「なんの遊びに付き合わされてんだ、お前ら」

「……」

 確かに。とは心の中でだけ。さすがにアルゼレアもいるところで、全部やめた! なんて言えるはずがなくって。

 黙っているばかりの僕をジャッジは少し心配したみたい。僕の名前を呼んで、肩を揺さぶったりされた。「やめてよ」と抵抗したら逆に安心されてしまった。そんな関係が嫌だから、僕からこの話は切り上げる。

「ジャッジはライターが誰の手に渡ったのか質屋を回ってくれ」

「は、はあ? なんでそんなことしなきゃらなねえんだよ!」

 するとジャッジの戯れ言を遮るように自転車がスレスレを走り抜けていった。話し合いの場所は大通りの十字路だったから自転車はよく通っていた。でもこの時は、よろけたジャッジでも怒る気にはならなかったみたい。

「……分かったよ」

 ようやく自分が運に見放されたって気付いたようだ。遅すぎるくらいだよ。本人は嫌そうだけど、これ以上不幸を作りたくないから僕の言うことを聞いてくれた。

「アルゼレアはオソードの修復だね」

「はい。あともう少しで終わります」

「よかった。じゃあよろしくね」

 ジャッジは右へ曲がって行く。アルゼレアは左へ。僕はまっすぐに進んだ。


 それから勉強漬けの日々を過ごしていた僕だ。朝から晩までとにかく出来ることを全力でやるといったらこれしかなかった。セルジオ大使館から外に出ることもしないで、ひたすらに机に向かっていた。

 そしてついにこの独房に客人がやってくる。扉がノックされて、洗濯物を運んでくれるのはいつものこと。しかし今日は外から声がかかった。

「フォルクスさん、ジャッジさんとアルゼレアさんが来られています」

 いつもなら「どうぞ」とだけ声をかけておいて、資料集から目を離したりしない僕だったけど。ジャッジとアルゼレアの名前が並べられて言われると、顔を上げるどころか自ら扉のノブを開けに行った。

 そして対面した客人は日焼けした男と赤髪の少女が並んでいた。

「……やあ」

 二人を交互に見る僕だった。するとジャッジの方が僕の肩にぶつかりながら部屋の中に入っていく。

「玄関で合っただけだ」

 ぶっきらぼうに僕の近くで言って行く。そんなこと、ジャッジの方からわざわざ言ってくれるなんて笑える。気なんか使える男じゃないくせに。

 僕に気を使うとしたらアルゼレアだろう。彼女は扉の前でずっと佇んでいた。

「あ、あの。本当に玄関でバッタリと出会って。それで、ここの係の方がご一緒にって……」

「大丈夫だよ。気にしないよ。さあ中に入って」

 アルゼレアに部屋に入ってもらうと、その後ろには水差しとグラスを持った係の人が待機していた。

 係の人が運んできたものを受け取って扉を閉める。

「大使館ってこんなんなんだな」

 早くもくつろぐジャッジだ。人のベッドの上でごろんと寝転がって天井を眺めていた。大きなあくびをしてリラックスするのは良いけど、寝床の上では靴くらい脱いでほしいものだ。

 アルゼレアにはソファーに座ってと案内し、水を入れたグラスもアルゼレアにだけ手渡した。ジャッジは別に水なんかどこで飲んでも一緒という考えみたいで、いらないって言っていた。

 それぞれが空いたところに座ったり寝転がったりしたら、話し合いを始めよう。僕も椅子に座ってから勉強中の資料集を閉じた。

「それで、どうだった?」

 ジャッジが「何が?」とかって返してくるようだったら絶交だ。だけど、以前までどうしようもなかった僕の友人はベッドから起き上がった。数歩だけ僕の方ににじり寄るとニヤリと笑う。

「バッチリよ」

 僕もアルゼレアも口を「お〜」の形に開いて賞賛している。

「俺のライターは質屋に持って行ったすぐに別の男に買われたそうだ」

「別の男? それがゼノバ教皇だったって?」

「おうよ!」

「……」

 僕とアルゼレアはきっと同時のタイミングで口を閉じただろう。得意げな男をじっくりと眺めた後、僕から気になることはひとつだ。

「本当にそれってゼノバ教皇だったの?」

「そうだぜ!」

「何か……理由は?」

「ん? 無い」


(((次話は明日17時に投稿します


Threads → kusakabe_natsuho

Instagram → kusakabe_natsuho


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ