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彼女が本を修復する理由2

「カミビトが何って言ったっけ?」

「神人の足に破滅の目あり。です」

 アルゼレアが真剣な表情で伝えてくれるんだけど全然意味がわからない。するとアルゼレアは声を小さくしてこんなことを聞いてくる。

「あの、フォルクスさん……。フォルクスさんは神様を信じていますか?」

 僕はピンと来た。マーカスさんと話した時と同じだ。

「エシュが神様だっていう体で話して大丈夫だよ」

 そう言うことでアルゼレアが少し安堵している。そんなにナイーブなことなのかと痛感した。外国人で観光客な僕には分からない世界だ。別に僕が信じていようが、なかろうがどっちでも良いんだけど。今はアルゼレアの見解を聞く方が最優先だから。

 そして彼女は告げた。

「エシュ神が危険なんです。このままだとエシュ神が殺されてしまうかもしれません。そうなってしまったら世界も滅んでしまうかもしれないんです」

 突然大層なことを口にした恋人に対して、僕はついおかしくなって笑ってしまった。もちろんアルゼレアには信じられないというように引かれていた。でもだっておかしなことだから仕方がない。

「僕が君に言おうとしていた事とまるっきり同じじゃないか」

「……え? そうなんですか?」

「うん。マーカスさんにそう告げられていて、君からオソードを引き離した方が良いって話になっていたんだ」

 しかしアルゼレアは浮かない顔をした。

「オソードは手放さないです。修復もしますよ。ロウェルディ大臣に託されたことでもあるので」

「どうして? 世界破滅のキーポイントがオソードじゃないか。白銀の妙獣だってもう二度と争わないようにって手をかけた物だ。修復する必要なんてあるの?」

 手紙だからです。って返ってくるのかと、言ってから考えた。でも違った。

「オソードを読み解かないとエシュには誰も近付けませんよ。助けることも出来ないじゃないですか」

「エシュを助けたいの!?」

「当たり前です! じゃないと世界が破滅してしまったら私達は離ればなれに!!」

 そこでパッと口を閉じる。言いかけたものを仕舞ったみたいだけど、手遅れだってことは気にしていられないみたいだ。

 アルゼレアは、とにかく「何でもない」を装いたいようで、手元にあった資料集を丁寧に閉じていた。それからどうしよう。彼女がなかなか顔を上げてくれないのは決まって恥ずかしい時。視線が定まらないとキョロキョロしている。

 どちらも無言の間に、イビ王子が僕に言った「君はアルゼレアに愛されてる自覚が足りない」を、ふと思い出した。どうしようもない鈍感男だね。と、僕の頭の中で告げるのはイビ王子なのか僕自身なのかどっちだろう。

「……もう」

 僕は気が抜けた。笑みもこぼれてしまう。アルゼレアが好きなのは本と僕だったって、やっと理解が出来たから。

「情熱的なんだね」

 僕が笑っていると、アルゼレアが自分の顔をまた手のひらで覆いだす。気持ちを隠すのに便利な方法を会得しちゃったみたいだ。ある意味分かりやすいし可愛いから良いんだけど。

「確かに。せっかく君に触れるようになったのに、近々世界破滅じゃ虚しすぎるよね」

 アルゼレアの頭をそっと撫でながら言う。彼女は緊張で固まっているけど、髪は柔らかくて頭頂部がちょっと暖かかった。

「心配かけてごめんなさい」

 手のひらで覆った口元からモゴモゴと聞こえる。

「本当だよ。もうこれからは絶対……」

 するとその時、階段を降りてくる足音と話し声が聞こえてきた。

「確かにここへ降りたはずです」

「分かった。礼を言う」

「再三言いますが、暴れたりは無しでお願いします」

「分かっている」

 会話を誰と誰がしているか分かりようはない。でもきっと鉢合わせになっても僕とアルゼレアに幸運をもたらすものじゃないと分かる。「こっちです」とアルゼレアが僕の手を引いた。彼らの歩速に合わせて歩いて非常口の扉に押し入る。

「やっぱり防犯カメラに映ってたんだね」

 アルゼレアとの共通認識かと思っていたら、どうやらアルゼレアは気付いていなかったらしい。本当に彼女は危なっかしいな。

「非常口にも人が張ってるかもしれないよ」

「た、たしかに……。すみません、何も考えていなかった、です……」

 そんな彼女を怒る気はない。むしろ突発的に行動できちゃうところが羨ましくもあるんだ。

 無機質な非常階段はぐるぐる回る螺旋式だった。一番上まで登ったら扉があって、その先はどうなっているか分からない。また僕が牢屋行きにならないようにとだけ願う。神様にはどうしても叶えて欲しい。

「アルゼレア」

「はい」

 扉を開ける前に伝えておく。

「もうこれからは絶対僕を頼ってね」

「分かりました」

 真っ直ぐに見つめるアルゼレアの頬を撫でる。柔らかくて吸い付くような質感にようやく辿り着けた。彼女の方は頑張って逃げまいと見つめ続けてくれたみたい。

「……」

 僕から訊かずに口づけを施した。また前みたいに「いい?」と訊いたら「ダメです」って言われないように。大好きをただただ伝えるために触れたかったんだ。

「よし。行こっか」

「はい」

 非常口は図書館の外につながっていた。夏の日差しが容赦なく降り注いでいて、まるで僕とアルゼレアを待っていたかのように風が吹き抜ける。


(((次話は明日17時に投稿します


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