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08.俺だけSSRが出ないんだが

 三人で合流すると、砦の方に戻って行った。

 道すがら、桃華は陽炎に説明した方がいいんじゃないかと不安そうな眼差しを向けてくるが、真白はかぶりを振った。

 見てもらった方が早い。それで敵対するというなら、その時はまた戦えばいいのだ。疲労困憊の陽炎と二対一だ。有利なのがどちらかなんて、言うまでもない。単純な力比べでは圧倒的に陽炎の方が上でも、技量という点では全く負ける気がしなかった。

 さらに歩いている途中で全員のレベルが上がった。おかげで桃華のMPも全快、真白が前線で桃華が援護。人を当てにするなんて自分らしくないと思うのだが、ここまで協力して戦ってきたのだ。今更である。


 そう思えば、陽炎とはなるべく敵対したくはない。

 鬱陶しいし、年上に兄貴と呼ばれるのも気持ち悪いのだが、信頼されているというのはわかるし、懐かれていること自体は悪い気もしないのだ。


 反対に沈黙を保っているライアンは、未だにどうも信用ならなかった。

 一蓮托生の仲なのかもしれないが、スマホの妖精だとかいう得体の知れない存在で、この一連の事件を起こした存在を神と崇めている。完全に仲間とは呼べなさそうだ。

 しかしなぜ一言も声を発しないのかは、なんとなく想像できていた。

 どうせ、「楽しいから」とでも言うのだろう。


 草原を歩いていると、すぐに死体が見えてきた。

 陽炎に緊張が生まれるのが分かる。


「兄貴、あいつらは……?」


 まだどこかに敵がいるとでも思っているのか、陽炎は辺りを見回している。

 馬鹿だな、とは思うのだが、やはり戦いたくもなかった。

 反対に桃華は不安げな表情をしつつも、すでに陽炎から距離を取っている。いつでも真白の援護に回れるように。内心でそんな桃華を「怖っ」と思いつつも、頼りにはなった。


「桃華を襲った。だから殺した」


 陽炎の方に顔を向けると、きょとんとした顔で見ている彼と目が合った。

 そして想像もしていなかった反応が返ってきた。


「あぁ、んだ。そういうことっスか。ちっ、クズだとはわかってたけど、やっぱゴミクズだったわ。ぺっ」


 陽炎は首のない死体を転がし、唾を吐きかけた。


 離れたところで戦う態勢に入っていた桃華と目が合う。

 目を見開き、驚いていた。真白も表情に出していないだけで同じ気持ちではある。

 こんな簡単に人の死を受け入れるだなんて、そういう世界で生きてきたのか、よほどイカれているのかのどちらかだ。

 どちらかわからないがどちらでもいい。危険人物であることには違いなかった。

 しかしこの状況で陽炎の力は必要であるし、まともな倫理観など必要はない。都合は良いのだ。


 真白と桃華が安堵し合ったところで、スマホが鳴り始めた。やはりこちらの様子を窺っていたらしい。

 ポケットの中でも勝手に話せるだろうが、真白は一応取り出してやった。


「パンパカパーン! ゲームクリアおめでとう! いやぁ、一時はどうなるかことかと思ったけど、無事にクリアできてよかったよぉ。ああ、無事でもないか、二人死んじゃったしねぇ」


 ライアンは二人が死んだことは殊更どうでも良さそうに言った。何なら喜んでいる節さえみられる。


「仲間が死んで悲しくないのか?」


 試しに真白が訊いてみると、ライアンはケラケラと笑う。


「いいのいいの。あの人たちあんまり好きじゃなかったからぁ。それに、次はもっと有能な人材が確保できるよ」


 人材の確保とはどういうことか、真白は思考を巡らせた。


 このゲームに参加させられたのは、当然自分たちだけではないだろう。

 日本中、下手すれば世界中で同じことが起きているのかもしれない。そうなのであれば、きっと全滅したパーティーもあるだろうし、自分たちのように何人かが死んでしまったパーティーもあるに違いない。

 考えられるのはパーティーの合併か、もしくは次のゲームまでに補充されるかだ。


「どうやってメンバーを増やすんだ?」


 真白が訊く。


「待って待って。今からこれからのことを説明するよ。その中に質問の答えもあるから。一度しか言わないからよく覚えてね」


 ライアンが話し始めたのは、真白が思っていたよりも重要なことだった。


・元の世界に戻っても魔物は存在するが、倒してもすぐには出現(ポップ)しない。

・魔物は十二時間に一回、一人に対して一体ポップする。

・マップが切り替わるたびに魔物がポップし、キャラクター(ゲームの参加者)がマップ上の近くにいると、人数が多いほど強力なモンスターが追加される。

・経験値は個人にしか入らなくなり、止めを刺した者に入る。

・次回のゲームに参加するにはミッションをこなさなくてはいけない。

・今回参加しなかった人間も、ミッションをこなせば参加できる。


 この命を懸けたゲームはまだ終わりではないのだ。

 戻ったところで、真白たちだけでなく、他の人間も無理矢理参加させられるのである。

 そしてさっきの真白の質問の答えは後者だった。真白にとってはそっちの方が都合が良かった。


 桃華は絶望的な表情を浮かべていたが、真白と陽炎は違った。

 陽炎は微笑んでおり、実に楽しそうだ。

 自分はどうだろうかと思い、気付けば真白も同じように微笑んでいた。

 真白は慌てて手で口元を隠し、ライアンに質問した。


「いくつかよくわからないことがあった。まず、マップってなんだ?」


「マップのアプリがあるよ」


 スマホを見てみると、確かにいつの間にかそんなアプリが存在していた。

 立ち上げてみると、三つの緑色の逆三角のポインタがあり、位置的にそれが真白たちを示しているのだとわかる。あとは周り一帯が青くなっており、右上に草原と書かれている以外には何もなかった。

 試しに縮小してみると、森と砦らしきものも表示された。それ以上は縮小できないようだ。


「緑色の点はパーティーメンバーで、常に表示されているよ。あと青くなってる場所は安全地帯。黄色くなると魔物がいる場所ってことで、オレンジだと危険地帯、赤だと超危険地帯だから。これからもらえる報酬にもよるけど、少なくても赤だけには絶対近づいちゃダメだからね」


 とりあえず仲間の位置と、魔物のいる場所はこれですぐにわかるらしい。


 ひとまずあとは戻ってから確認するとし、真白はもう一つ気になったことを質問した。


「なんで俺たちがキャラクターなんだ? プレイヤーじゃないのか?」


「そう、だよね」


 陽炎はよくわかっていないようだったが、桃華は同意してくれた。

 しかしライアンは、真白がそれを疑問に思うこと自体が不思議だったらしい。


「何言ってるの? 君たちはキャラクターでしょ? 戦ったり、それで強くなっていったりするのはプレイヤーじゃないじゃん」


 確かに言われればその通りなのだが、次の言葉を聞いた真白は険しい顔になっていた。


「君たちキャラクターを操作するプレイヤーは、神様に決まってるでしょ?」


 自分たちは所詮操り人形なのか。

 さすがに桃華も不快だったらしく、眉根を寄せている。陽炎はやはりよくわかっていないようだが。


「さ、それ以上質問がないなら、待ってました、お楽しみの報酬ガチャタイムだよ!」


「「「ガチャ!?」」」


 三人の声がかぶった。


 真白は辟易している。

 ガチャとはきっと、ソシャゲとかのガチャのことに違いないだろう。

 このゲームを始めた自称神とやらは、一体どこまでふざけた存在なのか。人間を使ったゲームをして、本当に楽しんでいるに違いない。


「ガチャって、金入れて回すあのガチャガチャのことか?」


 陽炎だけ違う答えが出たようだが、真白は陽炎のことは気にしないことにした。


「そんなわけないでしょ!」


 ライアンは律義にツッコんでいるようだが。


「ほら始めるよ」


 ライアンがそう言うと、ポンという音と光と共に、腰の高さまであるやたら大きい宝箱が出現した。ちょうど三人分だ。

 

「はい、どれでもいいから宝箱の前に立って」


 真白は言われるがまま、適当に選んだ宝箱の前に立った。


「さぁ、運命のガチャタイムを始めるよ。真白たちは敵の殲滅に成功したから、通常十連ガチャにプラスして、SR以上確定ガチャが一回追加されるよ。やったね!」


 真白は、そういうことは先に言えと内心で思いつつ、きっと言っても無駄だろうと諦めた。


「それではー、ガチャスタート!」


 真白の前の宝箱が光った。

 光が収まると、さっきまで木製だった宝箱が銀色に輝いている。


「おっと真白、早速スーパーレアを引き当てたぁ! さすが僕らのパーティーのリーダーだ! あ、さっさと開けて出してね。これをあと十回もやんなきゃいけないから」


 言われた通り宝箱を開ける。

 しかし中には何も入っていない。と、思ったのだが、急に宝箱の中が光り、それに合わせて真白の体まで光った。


「真白が引き当てたのは耐久(大)だよ。おめでとう! 地味だけど」


 最後の余計な一言が気になったが、とりあえず良しとした。

 他の二人の宝箱は普通の木の宝箱なのだ。きっと外れだろう。自分だけ当たりを引いたのは優越感だ。


「真白君、今私たち見てニヤって笑わなかった?!」


「気のせいだ」


「俺も見えた気がしたんスけど……」


「絶対に気のせいだ」


「ほらほら続けるよ! 終わんないから!」


 その後真白は、


・コモン:鉄製の小手

・コモン:革の鎧(胴)

・レア:瞬発力(中)

・コモン:革の鎧(垂)

・レア: 召喚魔法バン・シー

・コモン:安全ヘルメット

・コモン:お鍋の蓋

・レア: 召喚魔法レディ・エレノア

・スーパーレア:MP(大)


 と続いた。

 ちなみにレアは銅の箱である。

 鉄製の小手などの装備類は直接宝箱の中に入っていたのだが、箱を開けてそれがなんだかわかった瞬間に体が光って勝手に装備された。

 おかげで真白は安全ヘルメットとお鍋の蓋を持った珍妙な格好をさせられている。


 陽炎も安全ヘルメットをかぶっており、桃華もピンクの可愛らしい着る毛布を着させられているのだが、それ以外は真白よりだいぶマシな格好だ。

 桃華は真白と同じ『革の鎧(垂)』と銀製っぽい鎖帷子を装備している。さらに武器として、先端にダイヤモンドが埋め込まれているらしい某魔法学園に出てくるような短い杖を手に入れていた。

 陽炎は何やら目立つ赤いマントと赤い革手袋を装備している。ただのブーツにしか見えない靴も手に入れたようだが、それ以外は真白よりもレアリティの高そうな装備をしていることには違いない。

 さらに二人とも、中身までは知らないが銀の宝箱、スーパーレアを出していた。

 真白はすでに二つ出しているが、見た目的には圧倒的に真白の方が残念な人である。


「次はいよいよSR以上確定ガチャだよ!」


「一番上は金の宝箱だよな?」


「そう、黄金に輝く宝箱、SSR、スペシャルスーパーレアさ! じゃあ行くよ!」


「待て、心の準備が……」


 真白の言葉を無視して、ガチャが始まってしまった。

 宝箱が白い光を放つ。


――金、来い!


 真白は心の中で叫んだ。

 白い光はすぐに納まり、……銀の宝箱が出現した。


 真白はがっくりと項垂れる。

 しかし真白は考え直した。

 真白はボクシングを諦めてから、何度かアプリゲームをしたことがある。それはどれもガチャが存在するゲームで、リアルマネーをかけずにゲーム内のガチャ引換券のようなものをコツコツ貯めてガチャを回したものだ。

 だがSSRなんて早々出なかった。

 これはそういったゲームと同じ仕様、そういうものなのだ。


 と、真白は自分を納得させたのだが、


「やったー!」

「よっしゃー!」


 桃華、陽炎の叫び声が同時に上がった。

 真白は自分の宝箱を開けつつも、ギギギと首は二人の方へと向けられていく。


「真白はSRだね、残念。中身はスキル『魔法のヴェール』だよ。あれ? 真白聞いてる?」


 真白は聞いていなかった。

 視線は二人の宝箱に釘付けである。黄金に輝く宝箱に。


「お、陽炎はSSR、『炎鬼王ンドゥンの鉢金』だよ。やったね!」


 ライアンの声が陽炎の傍から聞こえる。どうやらスマホの中を移動したらしい。


「おぉ、よくわかんねぇがカッケぇぜ」


「装備するには安全ヘルメットを外さないといけないよ。早速入れ替えるかい?」


「ははは、あたりめぇだ。こんなヘルメットいらねぇよ!」


 早速宝箱と陽炎の体が光る。

 次の瞬間には、真紅の鉢金が陽炎の額にあった。さらに陽炎の頭上から二対の炎が発生し、それが角のような形状へと変化する。

 陽炎は熱くないのか、まったく気付いている様子はなかった。


 真白は地面に転がるヘルメットを見た。


「桃華は『雷獣王フルールのマント』だよ。早速着る毛布と交換するかい?」


「うん、ライアンちゃん、お願いね。こんなのいらないわ」


 桃華は黄色のマントを羽織っていた。

 マントは常に帯電しているのか時折紫電を放つ。しかしやはりというか、桃華は感電しないらしい。


 真白は地面に転がっている着る毛布を見た。


 真白の視線が地面から離れ、ゆっくりと桃華、陽炎の方へと向けられる。


「俺だけSSRが出ないんだが?」


 喜ぶ二人は同時に真白の方を見た。


 二人の目には、皮の鎧を上下に装備し、ヘルメットをかぶり、お鍋の蓋を持った哀れな人間が映っているだろう。

 二人はさっと視線を逸らした。


 真白は、今度はスマホを取り出し、スマホに向かって「俺だけSSRが出ないんだが?」と同じ質問をする。


「いや、仕方ないでしょ。SRだって十分すごいんだからそれで我慢しなよ。SSRなんて通常ガチャで排出率0.01パーセント、SR以上確定ガチャで1パーセントなんだよ。それを引き当てた二人の運がいいだけ」


 確かに数字だけ聞けばSSRが出ないのは納得できる。

 しかし現状自分以外の二人がSSRを出せて、自分だけ出せないのはやはりどうにも納得できないのだ。


「あ、兄貴、なんなら俺の鉢巻きもらってくれますか?」

「真白君、私のマントも上げるよ?」


 真白は二人に胡乱な目を向けた。


 なんともお優しいことだが、真白は同情されたり恵んでもらったりしたいわけではない。自分だけ出せなかったことが腹立たしいのである。


「いい、自分で何とかするから」


 真白はそう言うと、二人を置いてさっさと砦の中へと入って行ってしまったのだった。


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