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06.オークとの戦いが始まったんだが

 森から出てきたのは五体だけだった。それ以上出てくる気配はない。


「でけぇな、おい」


 オールバックが厳しい表情で言った。


 それを陽炎が笑い飛ばす。


「はっ、たっぱなら俺と変わんねぇぜ」


「お前ぇもでけぇんだよ」


 オールバックの言う通りであるが、猪頭と陽炎の明確な違いが二つあった。

 一つは、猪頭、オークは縦にも横にも大きく、体重で言えば陽炎より上であろうということだ。体重が重いということは、それだけ重い攻撃が撃てるということでもある。

 もう一つは、豹のように俊敏な陽炎に対し、オークは鈍重そうだということである。

 軽快な動きを見せていたゴブリンに対し、このオークらしき魔物はゆっくりとこちらに近付いて来ていた。猪というのは時速五十キロくらいで走れるはずなのだが、この魔物にその特徴は引き継がれていないらしい。


「兄貴、そろそろ行ってもいいっスか?」


「待て、俺も行く。一体残しといてくれ」


「っしゃあぁぁぁ!」


 目を爛々と輝かせながら、陽炎が再び突っ込んでいった。真白もその後を少し遅れてついていく。


 自らを平和主義者と言った真白であるが、戦って実力を測る必要があると判断していた。

 相対すればだいたいの力はわかるが、相手は魔物。もしかしたら隠された力もあるかもしれない。


 オークは進軍を止めて迎え撃つ構えを取っているのだが、早速陽炎が並んで歩く一軍にぶつかる。そして一番近くにいた一体を殴り飛ばした。

 別のオークが斧を振るうが陽炎はそれを容易く避けた。間髪入れずに蹴りを入れ、そのまま乱戦へと突入していく。


 真白も追いつき、その乱戦へと加わった。

 オークの一体の腹目掛けてアッパーカットを放つ。それを受けたオークはよろめくが倒れはしない。

 さすがにこのサイズとなると、ゴブリンのように軽々殴り飛ばすことは出来ないだろう。それは陽炎の戦いぶりを見ていてわかっていた。あんなことが出来るのは彼だけだ。

 しかしそれでも、膝をつかせるくらいはできると思っていた。思った以上にダメージが出なかったのである。

 厚い毛皮のおかげか、それとも他に何か要因があるのか、やはり人間と同じとはいかないようだ。


 オークがすぐに反撃を仕掛けてくる。

 斧を大振りで振って、真白を脳天から真っ二つにしようとしていた。

 真白はそれを少し大げさにバックステップで避けた。

 本来であればもっと小さな動作、ギリギリのタイミングで避けるのだが、相手が振るっているのは拳ではなく命を刈り取るための凶器だ。念のため余裕をもって避けた方が良いと判断したのである。

 それともう一つ、真白は乱戦がそこまで得意というわけではない。それに敵が振るっているのは斧だ。たまたま陽炎が避けた斧が、自分に当たるということだってあり得る。だから集団から離れておきたかった。


 真白の狙い通り、オークが真白を追ってきた。

 追撃の横薙ぎの一閃を避け、さらに集団から離す。

 だが避けるのはそこまでで、斧を振り終わったタイミングで懐に飛び込み、右のアッパーを顎のあたりに向けて放った。

 オークの頭が跳ね上がる。しかしそれでもやはり倒れはしない。どうやら弱点が人間と同じではないようだ。


「でもここは同じだろ?」


 真白は左手で逆手に持ったナイフを胸に突き刺した。


「ブヒィィィ!」


 オークは思わずというように斧を手放すのだが、まだ絶命はしておらず、空いた手で真白に掴みかかってきた。

 真白は間一髪でそれを避ける。

 オークは胸を押さえているものの、そのまま絶命するどころかこちらを睨んできていた。

 ナイフを刺した感触で、心臓まで到達していないことはわかっていた。ゴブリンの時と比べて、明らかに硬いのだ。


「ちっ、硬いな」


 舌打ちしつつ、左手に熱さを感じて見やれば、避け切れなかったのか三本の爪痕が残されそこから血が流れていた。


「ヒール」


 すぐに血が止まり、傷も塞がる。


 やはりオークはゴブリンと比べて明らかに強かった。

 敏捷さこそないものの、攻撃力と防御力はゴブリンの比ではない。

 だが倒せないというわけでもなかった。


 真白は態勢を低くして、オークの懐目掛けて飛び込んだ。

 オークもまた掴みかかって来るが、それを頭を振ってぎりぎりで回避し、左フックを当てる要領で逆手に持ったナイフで腹を切り裂いた。

 すぐにオークの視界から体を外し、背中に回ってナイフを突き立てる。

 そして渾身の右ストレートをそのナイフの柄に向かって打った。

 拳の骨が砕けるほどの一撃だ。ナイフは体の内側へと潜り込み、心臓を突き破った。


「ブヒィィィ!」


 オークが断末魔の叫びを上げ、血反吐を吐きながら前のめりに倒れていった。


 真白は痛む右拳に左手を当て、再び「ヒール」と唱えた。

 だが唱えながら思い出した。ライアンによればヒールは二回しか打てないはずだ。さっきのが最後の一回だったから、もう使えないはずなのである。

 しかしなぜかヒールはちゃんと発動し、拳の痛みは消えていった。先ほどレベルアップした時にMPは上がっていなかったから、MPは時間経過で回復するのか、もしくはレベルアップすると一度全快するシステムなのかもしれない。


 ライアンに確認してみたいところだが、まだだ。

 敵はまだ四体残っており、まだ陽炎が戦っている途中だった。

 さすがの陽炎といえど、人間よりも硬いオークには手を焼いているらしい。


 真白はオークの死体からナイフを回収し、助太刀に入ることにした。

 陽炎が心配というわけではないのだが、ファーストウェーブが終わった時、ライアンは「みんな頑張ったから時間が結構余ったよ」と言っていた。

 つまり、もしかすると一つのウェーブごとに時間制限があるかもしれないのだ。

 始まってから気付いてしまったことだが、時間制限についてもライアンに確認しておくべきだっただろう。


 血みどろになったナイフを回収すると、再び真白は陽炎たちの方へと向かって行った。


「おい、バカ! いったんそいつらから離れて目を瞑れ」


「バカって俺の事すか?!」


 自覚はちゃんとあったらしく、陽炎はオークたちから距離をとった。


 真白はまだ試していなかった魔法を試してみることにする。

 やり方が合っているかどうかはわからないが、右手をオークの群れに翳し魔法を唱えた。


「ホーリーライト」


 その途端、眩い光の玉が真白の右手の前に出現した。


「ブヒィィィ!」


 オークたちが目を押さえて悲鳴を上げた。


 真白はあえて右目だけを瞑っていたのだが、左目が眩しさにやられるということはなかった。オークたちはあんなに苦しそうなのに、こちらは平気なのだ。

 術者には効果がないのか、もしくは敵にしか効かないのかもしれない。


「時間がない、かもしれない。今のうちにとっととやるぞ」


 陽炎が恐る恐るという風に目を開けている。

 しかしやはり何ともないらしく、すぐに両目を開けた。


「おぉ、これが魔法ですかい。すげぇな」


 感心している陽炎をよそに、真白はオークに近付いていくと、ナイフをオークの喉元に突き刺した。


「ブッギギギ……」


 オークは悲鳴を上げることも叶わずその場に膝をつき、そして前のめりに倒れて絶命した。


 一方で陽炎はオークから斧を奪い、奪った斧でオークの首を刎ねていた。

 さらに二人で一体ずつ狩り、オークを殲滅したのだった。


「セカンドウェーブ終了。はいはーい、今のうちに休んだり、訊きたいことがあったら訊いたりしてねぇ。次はまた十五分後でーす」


 言い終わると同時に真白の体が光った。

 今回レベルアップしたのは真白だけで、他の者は誰も光っていない。どうやら真白が一番ゴブリンを討伐していたらしい。


 真白はレベルアップが終わると早速、さっき思いついた時間制限について訊いてみた。


「あ、うん、あるよ。一つのウェーブにつき三十分、時間内に倒すと五分休憩がもらえるから。三十分内に倒せないと次のウェーブが始まっちゃうから気を付けてね」


「それって初めに説明しなくちゃいけないことじゃないのか?」


 真白が憮然とした表情で言うと、ライアンの方が怒り出してしまった。


「だってしょうがないじゃん! 時間がなかったんだから。元はといえば君たちのせいでしょう。一時間しか説明時間がなかったのに、喧嘩なんて始めちゃうから!」


「止めてくれればよかっただろ」


「妖精は面白そうなことが止められないの!」


 悪びれもせず逆ギレしてくるライアンに、真白は何も言えなかった。

 おそらく何を言っても無駄だろう。真白たちが死ねばライアンも死ぬらしい。それでも真白と陽炎の喧嘩を止めなかったということは、本当にそういう性の生き物なのだろうから。


「わかった、もういい。もう一つ聞きたい。MPは時間経過で回復するのか? それとも他の方法があるのか?」


「うん、一時間で十パーセント回復するよ。小数点以下は切り上げで。あと、レベルアップで全快する」


 やはり思った通りだったようだ。ということは、今も真白のMPは全快になっているはずである。


 ログを確認してみると、


Lv6.MP(小)が上がった。


 となっている。


 どうやらMP(小)一つにつき、ヒールが一回使えるようだ。ということは、今はヒールが三回使える状態と考えればいいだろう。おそらくホーリーライトも同じに違いない。


――次からは魔法も多用して倒していった方が良さそうだ。


 真白がそう考えていると、桃華が真白に近付いてきた。


「真白君、次からは私も魔法で攻撃してみるよ。教室でモンスターに囲まれた時みたいになったら、さすがに勝ち目ないでしょ?」


「ああ、わかった。だけど、魔法攻撃は一回までにしてください。まだあと三ウェーブもあるから」


 真白の言葉に桃華が力強く頷いた。


「兄貴、面目ねぇ。兄貴が一体倒している間に、俺は一体も倒せなかった」


「いや、そんなことはない。四体相手にしてくれて助かった」


 本当は一対一だから倒せただけで、四体同時に相手できることの方が活躍しているのだが、わざわざそこまでは言わなかった。

 協力してくれるなら協力してもらった方が良いし、全部俺の獲物だとか言われるよりはよほどいい。


 チンピラ二人も「ちっ、俺たちも協力するしかなさそうだ」、「一蓮托生か」などと言っており、協力する姿勢のようである。

 この二人は未だに信用できないが、ひとまず手を貸してくれるというならそうしてもらった方がいい。この二人が死んだところで真白たちも共倒れになるとは限らないが、真白たちが死ねばこの二人が助かることはないだろう。自分たちのためにもせいぜい頑張った方がいい。


 不本意ではあるが、今は五人の力を合わせて乗り切るしかないようだ。

 ゲームはまだ始まったばかりなのである。


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